お名前!
「そろそろ性別が分かるころだね」
「おお!」
「男の子かのう。女の子かのう」
「無事に生まれてくれればそれでいい」
婆さんが、ついにセラと凜のお腹にいる赤ちゃんの性別が分かる頃だと告げてきた。セラは楽しそうに、凜は性別はどちらでもいいと、慈しむ様に自分のお腹を撫でている。
「パパ、そろそろあかちゃん生まれる?」
「セラねーもリンねーもふともごもご」
はっきりとセラと凜のお腹が大きくなり始め、クリスもコレットも今か今かと会えることを楽しみにしている。まあまだ時間は掛かるが。それと娘よ。危ない発言は止めなさい。
「じゃあちゃっちゃと見ようかね」
慣れ切った手練れの産婆だ。頼もしすぎる。
「敬老精神に目覚めて何よりさね」
「介護は任せとけ」
「言ってな。さて」
婆さんがソファに座っているセラのお腹を触り、次いで凜のお腹を触った。
「おひい様……」
セラは平気な顔をしていたが、アリーの方がハンカチを握りしめてとんでもなく緊張している。
「セラの方は女、凜の方は男だね」
「おお! 男の子と女の子!」
「にょほほほ。女の子なのか」
「男の子か。ふふ」
ついに分かった我が子の性別! クリスとコレットも男の子と女の子だったが、今お腹にいる子供達も同じか!
「おひい様、凜様、おめでとうございます」
「コレット、クリス。弟と妹が両方出来たわよ」
「ルーも会うのが待ち遠しいです!」
「うふふ。おめでとうセラちゃん。凜ちゃん」
「セラお姉ちゃん、リンお姉ちゃんおめでとう!」
「わん!」
『わーいわーい!』
「にゃあ」
『いつでもどこでも準備万端』
家族の皆がお祝いしてくれる。
「クーはおとこの子!」
「コーはプリティーおんなの子」
「そうそう。クリスは男の子。コレットは女の子。赤ちゃんも男の子と女の子。弟と妹だよ」
「えへへへへへ!」
「いえーい」
クリスもコレットも喜んで、手を組み合ってぐるぐるその場で回っている。うんうん。赤ちゃんたちもこれくらい仲良くなるに違いない。
いやあ、セラの赤ちゃんは女の子で、凜の赤ちゃんは男の子か!
これで俺は二男二女のパパに。へっへっへっへっへっへ。
さて、と……。
◆
もうだめだこれ以上先延ばしに出来ない! セラと凜の赤ちゃんの名前を決めないと! 今までさんざん悩んで行き詰ってたが、性別が分かったからには半分に絞れる!
女の子の名前女の子女の子女の子。男の子の和のお名前男の子男の子男の子。
高志、修、大希、希、修也。うーん。
優斗。いい感じだけど、名前が似てると間違って面倒なのは俺と親父で実証済みだ。なんたって親父の名前は雄一だ。
勇吾。俺の名前だ。疲れてるな。
幹也。だめだ。金運に見放される。
女の子の方は……。
メアリー、アイラ、ライラ、アラベラ。
ルナ、ルナ! いやルーと被るな。赤ちゃんも混乱するだろう。
アリア。アリーと被る。セラ的にはありかも。
「うーんうーんうーん」
「むむむむむむ。スーパースペシャルな女の子名前……!」
「源一郎、源之助、平一郎、だめだだめだ古すぎる……!」
セラも凜も、勿論俺もうんうん唸って悩みぬく。
「セラと凜の考えは?」
「ゴージャスじゃ!」
「強く逞しく優しくです!」
もう何度もしたやり取りだが、難しい! 俺の貧相な脳みそでは、ゴージャスなお名前も、強く逞しく優しくなお名前も浮かんでこない!
「お茶をお持ちしました」
アリーがお茶を持ってきてくれた。少し息を抜こう。火竜に出くわしても熱いと思わなかったのに、頭から湯気が出る寸前だ。
「アレクシアから名前を貰うのもありなんじゃが、子が混乱するからのう」
「おひい様……! 恐れ多い事でございます……!」
実は感激屋のアリーが感動している。あ、ハンカチで目元を拭ってる。
「あ! そうじゃ!」
「どうしたのセラ!? いいお名前思い浮かんだの!?」
セラが急に立ち上がって手をポンとした。今この状況でその仕草は、きっとお名前を閃いたに違いない!
「お爺様とアレクシアの名前をいい感じに組み合わせたらいいんじゃ!」
「それだあああああ!」
セラが敬愛する祖父、アンドレイ翁と、大好きなアレクシアの名前を組み合わせたらいいに違いないと断言する。うん間違いない!
「おひい様! ユーゴ様! そんな恐れ多い事、どうかお止めください!」
「ほっほっほ。悪いのうアレクシア。もう決定事項なのじゃ。のうだんな様?」
「うんうん」
「そんな!?」
「ふむ。それならお爺様メインで、アレクシアから一文字貰う感じで……」
絶叫するアリーだが、セラの言う通りこれは最早決定事項なのだ。だがアリーがあまりにも慄いているため、アンドレイの爺様を主体にすることにしたらしい。
アンドレイ、アレクシア、アンドレイ、アレクシア。アンドレア?
「アンドレア?」
「うむ! 命名! アンドレアじゃ! 普段はアンと呼べばアレクシアとこんがらがる事もあるまい!」
はい決定っとアリーに宣言するセラ。尤もアリーの方は失神寸前だ。
「パパ生まれた!?」
「コーお姉ちゃんさんじょう」
庭で遊んでいた子供たちがやって来た。どうやら俺達の大声を、赤ちゃんが生まれたからだと思ったらしい。
「まだ赤ちゃんは先だねー。あ、でも妹のお名前は決まったよ。アンドレアってお名前だよ」
「アンドレア!」
「アンドレアー。アンドレアー。アンちゃんー」
「ユーゴ様、どうかきゃっ」
「まあまあいいじゃない」
着々と外堀が埋まっていくのを何とかしようとするアリーを抱き上げる。ほぼアンドレイの爺様の名前だが、それでもセラは何とかアリーから一文字だけでも貰いたかったのだ。このままくるくる回転してうやむやにする!
「クーもする!」
「カサカサ」
回転している俺に飛びついて登り始める子供たち。これぞパパタワー。もしくはパパツリーーーー!?
今俺の脳みそに落雷が走った!
「そうだ木だ!」
「はっ!? それです勇吾様!」
凜も立ち上げって興奮している。
そう、植物の木! 自然の中で生きる木は、強く、逞しく、森で生きる生き物たちへの優しさに満ちている!
「木左衛門……! 木一郎……!ああ駄目だ! 私はなんでこんな名前しか思いつかないんだ!」
木左衛門は……確かになあ……。凜は一文字だから……柊、桜。ちょっと女の子っぽいかな? 梢、楓、もだな。
もう少し……木、木、木、樹? 樹! そうだ樹だ! えーっと、そう、いつき!
「凜!
「いつき……! 新島樹! それです! そうしましょう!」
凜も興奮して顔を赤くしながら何度も頷く。
「イツキー!」
「イツキー。いっくんー」
コレットとクリスも、ついに名付けられた弟と妹に喜んでいる。
「にょほほほ。後は会うだけじゃの」
「待ち遠しいなあ」
満面の笑みのセラと凜。
赤ちゃんの名前は決まった!
アンドレアと樹だ!
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