パーティー11
「いや食った食った」
「だな」
「お腹一杯。満足」
「クーも」
「げっぷでそうですわ。おほほ」
「コレット、お願いだからそう言うことは口に出さないで……」
人生初の豪華な食事を掻き込んだ三人衆と子供たちは、いや満足したとお腹をポンポンにしていた。それとジネットは、娘の言動に今にも倒れそうだ。
「でもグレンの方はまだ掛かりそうだな」
「王様ってのも大変だねえ」
「千客万来」
だが彼らの食事が終ろうと、この後に予定されている別室でグレンと会う予定は、まだまだ先の話になりそうだ。なにせ国の貴族や各国の使者と会うのは、国王として最も重要な職務の一つであり、またその数もそうそう減るものではない。
「じゃあ庭園に行かない? 暗黙の了解って奴で、パーティー中の庭園は子供が燥いでも大丈夫なんだ」
「お、いいね」
「ここ大人が話してるだけだしな」
「子供には子供の場所がある」
「ほほう。それならわしとアレクシアが一緒に行こうかの」
「はいおひい様」
セラとアレクシアは元々小食で食事も終わり、明らかに高貴な生まれと分かる自分が行けば妙なちょっかいを出してくる者もいないだろうと、子供達を連れて庭園へと向かう事にした。
「お願いね二人とも」
(お、俺も行きたい……でも一家の大黒柱として、招待されてるのをほっぽり出してパーティ会場から抜け出せないいいい!)
「うむ。では行こうかの」
しかし当然というか、子供たちある所に父親たる自分ありと言いたいユーゴであったが、リリアーナ、ユーゴ夫妻として招待されている以上、パーティ会場から離れることは、一家の主としてどうしても出来なかった。
「あなた、私も付いて行きます。コレットは目を離すと何をするか……」
「分かったよジネット」
(確かに普段なら城に来たら探検って言って、どこか狭い所に潜り込みそうだ……。三人衆にソフィアちゃんとジェナちゃんもいるし大丈夫だとは思うけど)
しかしユーゴにはある懸念が一つあった。それは娘のコレットが、ほうほう、ここはどうなっているのかと言いながら、何か隠し通路的な物でも発見して、そこへ潜り込まないだろうかという事だった。そして母であるジネットもまさにそれを危惧したのであろう。彼女もまた庭園へと移動するのであった。
「それじゃあ私も行こうかね」
「うんお婆ちゃん!」
(なんだと婆、俺を見捨てるつもりか!? 何かあったらフォローしてくれる約束はどうなった!)
「勝手に言ってな」
そしてソフィアの保護者であるドロテアが付いて行くのもまた当然である。のだが、ユーゴは万が一自分がやらかしたとき、亀の甲より年の功でドロテアのフォローを期待していたため愕然とするのであった。
◆
「おじいちゃんなにしてるの?」
「きょうみありますあります」
庭園に足を踏み入れ、さあ何をしようかと考えていたコレットとクリスであったが、その中央の石碑の様な物を、何やらウンウンと唸っている人物を見て、興味が沸いたと近寄り話しかける。
「んん? なんじゃお主等、儂が何してるか興味があるのか?」
その人物はリリアーナに神の存在を問うた老人であった。
「すっげえボロボロな石碑……ってやつか?」
「こんなの何の役に立つんだ?」
「色気より食い気。ちょっと違うか」
「かーっ物を知らん小僧共め! これは神話時代の湖の国の事について書かれとるものじゃ!」
「なんてかかれてるの!?」
「はやくはやく」
「全く、こっちの幼子の方が余程分かってるわい。それなら最後の講義と洒落込むかの」
そんな二人に追いついた残りの三人衆とソフィア、ジェナだったが、三人衆がその石碑の古さに感想を表すと、老人から物の価値が分からん奴めと悪態をつかれる。だがその老人も、クリスとコレットから急かされると、満更でもなさそうに石碑に向き直った。
「あ、お婆ちゃんから教わった古代エルフの文字と結構違う。えーっと……分かんない!」
「なんじゃ嬢ちゃん博識じゃの。どうもこれを書いた奴は偏屈で、やたらと文字を崩しただけに留まらず、自分流にアレンジをしまくっとるんじゃ」
「この爺さんも大分偏屈だぞ」
「ジェナの顔見て無反応とか、何のためにここ来てんだ?」
「好きなこと以外とことん興味ないタイプと見た」
その老人に倣うように、目を凝らしながらソフィアが石碑を見ると、確かに形は彼女がドロテアに習った古代エルフ語に似ていたが、それからあまりにも色々と崩れていたため、解読は困難であった。
だがそんなソフィアと違って、三人衆が抱いた感想はよく分からん文字を書いた奴よりも、よっぽど面倒くさそうな爺さんだな。である。失礼極まりない。
「聞こえとるぞ小僧共! おっほん、石碑の最初はこう綴られておる。やっべ、俺ら蜥蜴に負けそうじゃね? やばくね? と。この場合の俺らは神を含めたエルフ、蜥蜴はドラゴンじゃの」
「へー」
「ふんふん」
「そうやって読むんだー」
「おい、急に下町の話になったぞ」
「実は書いたの俺らの親戚じゃね?」
「流石にこれは予想外」
「なんか、この城に急に親近感がわいてきた」
三人衆とジェナは我が耳を疑った。さぞ難解な言葉で語られるかと思いきや、急に彼らに馴染みがある、というかそれよりもさらに低俗な会話に早変わりしたのだ。思わず膝から力が抜けてしまいそうになるほど突拍子もなかった。
「次じゃ。ほげっ!? 最高神シディラが死んでもうた! もうあかん! となっておる。戦争初期の不意打ちで受けた傷が元で、最高神シディラがエルフの森で命を落とし、神々は黄昏の時を迎えようとしていたのだ」
「ぜったいぜつめい!」
「ほうほう」
「勉強になるなー」
「おい止めて来いって」
「なんか頭痛くなってきた」
「ジェナちゃん、お菓子のレシピ貰えたりするかな?」
「大丈夫。なんたって私、王様の妹だから」
しかしなおも話は続いていく。が、楽しんでいるのは年少組だけで、三人衆とジェナは殆ど現実逃避気味だ。
「そして次は、せや! 内緒で俺らだけが逃げられる場所を作ろう! と書かれておる。神々も一枚岩でドラゴンたちに立ち向かった訳ではないのだ」
「てきぜんとうぼう!」
「まるでかみあらわれそうになったときのクー」
「それコレットちゃんでしょ」
段々と何かの核心に迫り始め、子供達も興奮してくる。そして物語は……
「そして最後には、お、いい所にでっかい湖あるやん。これを鏡面世界の入り口にして、俺らは向こうでぬくぬくしよう! で終わっておるのじゃ」
「そのあとは?」
「分からん。ここで終わっとるからの」
「えー」
「きしょうてんけつをまなぶべき」
「これそうやって読むんだ。でも面白くないー」
物語は、特に進展しなかった。
そして興奮もまたそのまま急転降下。まさかのオチのない話に、コレットとクリスは不満顔である。
「オチがねえのかよ!」
「駄文だよ駄文」
「お腹も膨れない」
「これ取り壊そうかな。いや流石に拙いか。なら移動だけでも」
当然三人衆とジェナもである。まあ一応聞いてやるかと思っていたら、これでは何が起こったのかさっぱり分からない。ジェナなど自分の家にこんなものがあっても必要ないでしょと言わんばかりに、石碑の撤去を検討していたほどだ。
「ええいうっさい! 儂が書いたんじゃないわ!」
ぶーぶー文句を垂れる子供達に、老人の抗議の声が虚しく庭園に響いたのであった。
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