パーティ―6
ウガナ公爵は鼻高々であった。なにせ彼が案内しているのは、湖の国にとって賓客だったのだ。そんな賓客を案内し、仲良さげに談笑している姿をパーティー中に見せつけるつもりであった。
その賓客とは
「いやはや、ついこの前もご丁寧に案内して頂いたのに恐縮です」
「いえいえ、ビム様をご案内できるなど、このウガナにとっても名誉な事です」
湖にとって最も重要な隣国であるエルフの森。そのエルフ達の代表であるビム長老であった。
(ついこの前もとはいっても、はて、先王の戴冠式はいつだったか……かなり昔の筈だが……)
そんなビムは先王の戴冠式にも呼ばれており、懐かし気、というかつい最近来たような雰囲気で城の中を歩いており、やはりエルフの時間間隔は人間種とは違うなとウガナは実感していた。
(うーむ。新王が幼く、政情の不安定は避けて貰いたいのだが、国の内情を突っ込んで聞くのもな)
一方でビムの方はと言うと、長らく友好関係であるものの、幼い新王が即位した事による混乱がエルフの森に悪影響を与えないかと、湖の国の内情を知りたかったのだが、流石にそこまで深く聞くのは大変な失礼であるため、一旦己の内に留める事にした。
「着きましたぞ」
(よし、このまま談笑して……ん?)
「あ、あ……」
パーティー会場の入り口で、集まった面々にビムとの親密さを演出しようとしたウガナであったが、どうもそのビムの様子がおかしい。エルフの森の長老は、今にも顎が外れそうなほど大きく口を広げて、目玉が飛び出してしまいそうになっていた。
「ちょ、ちょっと、ちょっと失礼しますぞ!」
「あ、ビム様!?」
そしてあろうことかウガナの思惑を全く無視して、会場へ駆けて行くではないか。
「んん? エルフの森の長老ではないか?」
「何をあんなに急いでいるんだ?」
「長く友好的な隣国なのだ。息子と何とかご挨拶せねば」
「ビム様、私」
「申し訳ない! 少し、少し待っていただきたい!」
そんなビムを囲もうとした貴族達だったが、この老人は見た目以上の力で囲いを難無く突破し、顎が外れそうになった原因の元まで辿り着いた。
「ド、ドロテア様、どうしてこちらに!?」
「いい年してそんなに慌てるんじゃないよ。落ち着きな」
「は、はあ」
大陸において祈りの国と並ぶ最大勢力、エルフの森を率いるビムは、それはもう憐れな程に慌てふためいており、ハンカチでしきりに顔を拭っている有様だ。
「ここの王になった双子に、ソフィアが随分構って貰ってね。その縁で来たのさ」
「なんですと!?」
「ビムお爺ちゃんこんにちは」
「あ、ソフィアちゃんこんにちは」
小大陸での一件についてある程度ビムは知らされており、ソフィアがドロテアの妹ユギの血を引いている事は知っていたし、数回だが会ったこともあった。そのためソフィアに対するビムの対応は長老としてではなく、どう見たって頭の上がらなくて、怖い人の家の子に対するものとしか言いようがなかった。
「エルフの長老があんなに頭を下げて……」
「一体あの老婆は何者だ?」
「まさかエルフのなのか? あれほど年老いた?」
当然ビムがペコペコしているのを見た貴族達は、あの老婆は何者かと思うのだが、この老婆、もう気が遠くなるほどの年月表舞台に上がってなく、しかも長老と言うにはまだしっかりしている外見のビムより、更に年老いているのだ。そのため特徴的なエルフの耳が髪で隠れている事もあって、そもそもエルフなのかすら疑わしい謎の存在と言うのが貴族たちの見解であった。
「ビムさんお久しぶりです」
「長老、お変わりない様ですね」
「おおこれはユーゴ殿とリリアーナ。お久しぶりですな」
「ビムちょーろー」
「おおクリス、名前を覚えていてくれたのか」
そんなビムが大いに焦っている最中、横から声を掛けたのは彼と面識のあるユーゴと、同じエルフであるリリアーナで、一度だけ会ったことのあるクリスも彼に声を掛けていた。
尤もその時のビムは、仕方ないとはいえ、"はじまり"達が現れた事をドロテアに告げて、問題の解決をお願いしたのだが、クリスとコレットからしてみれば、パパとお婆ちゃんが遠出する原因を作った奴と、印象が最悪であった。
「エルフの森の長老だってよ」
「魔女の婆さんの方が偉そうなんだけど」
「影のドン」
「言えてるな」
「親父が爺ちゃんの爺ちゃんの頃から婆さんだって言ってたからな」
「いやあ、あの時のコレットちゃんとクリスくんは大泣きで大変でした。ねえ凜ちゃん」
「確かにルーの言う通りだ」
「……きおくにございません。ね、ママ」
「あら、どうだったかしら」
「……パパ、皆がいじめる。うえーん」
「はっはっはっは。じゃあパパに抱っこされてようねー」
「それはかんべん」
「そんな……」
「そろそろ始まる雰囲気かの。んむ? 入口が騒がしいの」
「著名な方が来られたのではないかと」
ユーゴ一行が談笑している最中、会場の入り口が少し騒がしくなり始めた。
「まさか来ていただけるとは」
「確かに」
「お忙しいだろうに」
そして今日一番のざわめきが巻き起こった。
なにせその人物は、大陸で一番忙しいのではないかと思われている超大物で、恐らく大陸で五指に入る超重要人物なのだ。そんな人物がやって来た事に会場は興奮していた。
「なんだか知り合いによく合うなあ」
「ふふふ。そうですね」
そして本日、最後のある意味で犠牲者、顎を外しそうなほど口を広げているその人物こそ、
大陸最大勢力の片割れ、祈りの国のナンバーツー。
次期教皇として外交を担当している、ドナート枢機卿その人であった。
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