パーティー5

 ウガナ公爵は今回のパーティーを、とてつもないチャンスだと捉えていた。なにせ今日戴冠した新たな国王はまだ少年と言ってもよく、しかも生みの親である母親、前王妃の実家は、かつて生まれたばかりの双子を殺そうとした前王に渡す寸前だったため疎遠であり、本来後ろ盾となる親類が全くの皆無だったのだ。


 これはいけない。そう考えたのはウガナだけではなかった。王にとって頼りになる親族は必要である。例えば自分の娘と、何より自分とか、後自分とかである。


 まあこれは決して間違った考えではないだろう。額面通りなら


 そのためウガナ公爵を始め、公爵家はほぼ全家、有力な伯爵家も側室にと年頃な娘を連れてきていた。おっと妹様にも親族が必要だろう。息子も連れてこなければ。と、正式な爵位を持たないため、戴冠式に参加できなかった子息子女達が、パーティー会場に詰め掛ける事となっていた。






 実は王に頼りになる親族は確かにいない。いないのだが、頼りになる親戚のおじさん一家くらいの位置にいる存在ならいた。自分達をずっと助けてくれたダン老人は家族のようなものでなので除外。宰相も影に日向に頑張ってくれているが、親族と言うにはちょっと弱い。残るは


 ◆


 ◆



 ところ変わってパーティー会場。


「私、騎士の国で」

「私、砂の国で」


 いよいよコトリット子爵が挨拶を受けて


「ベルナ子爵様」

「ダンドン男爵様」

「コトリット子爵様」


 いたはいたのだが……


(間に合わなかったあああああ!)


 その他大勢の貴族の中で埋没していた。


 他の貴族が来る前にこっそりやって来て挨拶を受ける、という算段はまあよかったとしよう。問題なのは機を見るに鈍というか、自分から話しかければいくらでもチャンスはあったのだ。


 だがそこはコトリット子爵。彼の貴族的価値観からすれば、自分から話しかけるのはもってのほか。だがそんな事をしている内に、いや実際は何もしていないのだが、どこぞの男爵達が大勢、子爵もチラホラ会場に入ってきてしまったのだ。


「私に融資をしろ」


「勿論でございますとも」

(ああ忙しい忙しい。子爵程度にはとりあえずの挨拶だけでいいか)


 つまり彼はその他大勢の1人となってしまい、挨拶を受けてさあ私に融資をしろと言っても、特に誰かの記憶に強く残るという事が無かったのだ。


「先代聖女様がいらっしゃると聞いたが」

「あそこだ。ご挨拶したのだが……」

「なんだあの坊主共は」


 さて、やって来た大勢の貴族だが、会場にどうやら先代聖女がいるらしいと知ると、是非顔を覚えて貰おうと考えたのだが、


「こっちにしようかな。あっちにしようかな」

「しょてはおにくにけってい」

「そろそろ始まるのかな?」


「俺この肉にしよ」

「それコレットも狙ってるぞ」

「むむむ。悩む」


「うふふ。食べ盛りね皆」


 そのリリアーナは家族の集まりの奥に引っ込んでしまい、その周りをリガの街六人衆がガッチリと固めており、態々子供の中へ飛び込むのは周りの目もあり躊躇していた。


「仕方ない。それなら満ち潮の会長だ」


 それならもう一人の大物、満ち潮の会長であるロバートソンだと思った貴族達だが、そのロバートソンはそれどころではなかった。


「こちらの方が取引先のロバートソンさん」


「満ち潮のロバートソンと申します」


 ある意味で一番大事な取引先と話をしており、子爵程度に構っている暇などなかったのだ。いや、ひょっとしたら王から呼び出されても、この場に留まるかもしれない。


「うーむ。妊娠して禁酒中じゃなかったら、郷のワインを頼んだんじゃがのう」


「妊娠中? ひょっとして」


「いやあ、妻が二人妊娠しておりまして。へっへっへっへ」


「おお! それはそれはおめでとうございます。よければ取り寄せましょうか?」


「お、頼も……うのは止めとこうかの……」


 家に有ったら飲みたくなる。そう思ってセラがロバートソンに断っていたが、アレクシアの目がギラリと光ったのを目にしたのは関係ないだろう。


 ユーゴ一行がそんなこんなをしていると、段々と伯爵とその婦人に、その子息達が到着し始めた。


「なに、どこの誰だ? 暗黙の了解を破りよって」


 そんな伯爵達が目を付けたのは、リリアーナでも、ロバートソンでもなく、その机の近くにいた三人衆とソフィアであった。

 

(側室は伯爵家、正室と夫は公爵家と決まっているというのに、何処の下級貴族だ?)


 パーティーに偶々呼ばれた子供達とは流石に思わない。となると、どこぞの下級貴族が抜け駆けしようとして連れてきた、王とその妹相手の、側室、あるいは愛人候補だと彼等は判断したのだ。


(暗黙の了解? 視線は三人衆とソフィアちゃんだ。コレットとクリスはテーブルに隠れて見えていない。子供を連れてくるのに、何かしらのマナーがあったのか? 服か? 髪か? マナーマナーマナー……だめだ。エラー起こしそうだ。もうマナーなんて言葉聞きたくない)


 そんな貴族達の言葉をしっかりと聞いていたユーゴだが、まさか結婚相手がどうのこうのと思われているとは気が付かない。その代わりに導き出したのは、殆どノイローゼ気味にまで彼を追い詰めた、マナーという単語であった。


 しかし幸いだったのは、コレットがテーブルに隠れて見えなかった事と、結婚と言うにはまだ幼い歳だった事だろう。もしそんな事をユーゴに連想させた日には、血の雨が降るかもしれない。もしくはそのユーゴが胃から血を出す可能性もある。


 そんな危険性があったとは知らず、公爵家のような貴族として最高位にある者もパーティー会場に到着し始め、いよいよパーティーが始まろうと……


「隠れんでいいの?」


「態々そんな事で魔法を使う気がせんね」


「さよけ」


 パーティー会場の入り口で、ロバートソンの次に顎が外れそうになっていたのは、エルフの森の長老ビムであった。


次の犠牲者ともいう……。

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