パーティー2

(もうだめかもしれん……)


 小国とはいえそこは一国の王城。それに戴冠式があったという事もあり、中は煌びやかに装飾されていた。そんな中に足を踏み入れたユーゴ達一行であるが、そのユーゴは既に限界を迎えようとしていた。


 妻達の内、ジネットはダークエルフの巫女として、その妹のルーも姉と一緒に教育を受け、リリアーナは聖女として政治の場によく出席し、セラとアリーはナスターセ家のパーティーで慣れており、凜は疎まれていたとはいえ名家としての教育を受けていた。

 つまり一家でユーゴのみが、パーティーやマナーと縁のない庶民だったのだ。


 大体、政治的な場に出るなど、リリアーナを狙った悪魔事件と、海の国に船の国の脱出船がやって来た、小大陸での事件の僅か2件だけなのだ。しかも2件ともパーティーだのマナーだの言ってられないような緊急事態であり、そんな物は求められていなかった。


「その内、同じ側の手と足が一緒に出るぜ」

「ありゃ諦めた方がいいかもな」

「本当にトイレって言って救出しないといけないかも」


「おほほでございますことよ」

「コー……へんだよ」

「あはは」


「まあ、ちゃんと女の子の格好してるからな」

「ほんとほんと」

「普段はクリスとお揃いなのに」


「おーほほほほ」


 一方で六人衆の本家三人組は、もうしゃあない、庶民も庶民の自分達にマナーなんか求めんなと開き直っており、コレットはお嬢様スタイルで行くらしい。


「あなた、大丈夫ですか?」


「も、勿論さジネット! ん!?」


 そうこうしている内に、ついにパーティー会場に辿り着いた一行。そこでユーゴは救いを見出した。


(立食形式のパーティーだ! 助かったああああああ!)


 パーティー会場は、ユーゴの想定していた最悪、つまりガチガチのマナーが定められた晩餐会のような物でなく、参加者にとって食事は二の次で、あくまで社交の場の立食形式の様なものだったのだ。


(これならグラス片手に壁の花やってても大丈夫だ!)


 普通この様な場に呼ばれた者達は、新たな国王に顔を売ろうとしたり、人脈を広げようとしたりと忙しい。だがそんな事をしに来たのではなく、子供の引率として来ているようなユーゴにとっては関係ない。極端な話、それっぽくグラスを持って壁に張り付いていても問題ない。とユーゴは喜んでいた。


「おっさん! あれ俺らが食ってもいいのか!?」

「初めて見る様なもんばっかりだ」

「選り取り見取り……!」


「おう食え食え。どうせ皆話してるからな」


 ユーゴと方向性は全く違うが三人衆も興奮していた。なにせ今まで見た事が無い様な料理があちこちのテーブルに並んでいたのだ。そんな彼等に、どうせ大人の仕事はお話だから遠慮する事は無いとけしかけるユーゴ。重荷がとれたものだから、口調が随分砕けてしまっている。


(ふむ。合格ですね)


 何故かアレクシアは、侍女としてパーティー会場を検分するという仕事をしていたが。


(これならどうにかなりそうだ。誰も俺に用は無いだろう)


 そしてホッとしていたユーゴであったが、それは少々早いと言わざるを得なかった。


 一行はパーティー会場に少し早めに到着したが、利に敏く気の早い商人、それも王家主催に参加が許されるほどの大店の商人達が興奮しだしていた。勿論ユーゴに用などない。


「あの方は……」

「まさか先代聖女殿?」

「まさかこの国に」


 ユーゴに用は無かったのだが、リリアーナには用があった。


 それも当然であろう。大陸において実質盟主と言ってよい祈りの国、その国の先代聖女となれば、商人にとって顔を覚えて貰うだけで大変な価値があるのだ。

 そしてパーティーはまだ始まっていないが、そういう商機や政治の場である。


「私、砂の国で商いをしておりまして」

「この湖の国で」

「騎士の国で」


 一人が抜け出したなら後は我も我もである。


「うふふ。もう引退しておりますので」


 リリアーナは聖女引退後は全く政治的な事にはノータッチであり、ネームバリュー以外それほど価値は無いのだが、それでも商人にしてみれば前聖女御用達の肩書は欲しかった。そのためまだ到着している人の数は少ないとはいえ、かなりの人数がユーゴ一行の周りに集まっている。


「それにしても元とはいえ聖女様をご招待して、しかもこの場に来て頂けているとは」

「エルフの森が近くだからか?」

「湖の国……なかなかやるな」

「期待していなかったが、思わぬ幸運だ」


 そんな商人達だが何やら勘違いをしていた。しかしそれも仕方ないだろう。なにせ元聖女を招待したのではなく、とある一家を招待したら、たまたまその中にリリアーナがいたというよく分からない状態なのだ。


「うん? お主偶にウチに来てたエルフの商人かの?」


「はい? えっ!? マ、マ、マリア様!? でもマリア様はもう百年以上も前に!」


「その娘のセラじゃセラ。やっぱりあの商人だったか」


 そんな商人達の中に、セラの実家であるナスターセ城に宝石などを売りに行っていたエルフの商人がいた。セラも何度か直接会っていたし、商人は長命なエルフと言う事もあって、彼女の亡くなった母とも面識があったのだ。


「セ、セラ様!? ですがセラ様は最後に会った時はまだ」


「成長期じゃ成長期」


「は、はあ」


 そんな商人だが、現在のセラは普段の小状態ではなく大人状態であり、記憶にあった彼女の母の方がよっぽど面影があったたため混乱していた。


「セ、セラ様もご招待に?」


「うむ。そんなところじゃ」


(み、湖の国恐るべし……!)


 正確には、やはりある一家を招待したら、たまたま吸血鬼の王族の直系がいたのだが、そんな事エルフの商人に分かるはずが無い。商人はそんな彼女への伝手がある湖の国に戦慄していた。


 一方、


「流石にまだ始まってないのに食うのはマズいよな……」

「だな」

「少しだけ、ほんのちょっとだけなら……」


「ねーね。これなんてたべもの?」

「私も初めて見たかも」

「クー、どくみよろしく」

「あじみだから」


「夫のユーゴ様です」


「ユーゴです。よろしくお願いします」


「これは、私、湖の国の」


(いやあ平和だ。一時はどうなる事かと)


 ユーゴは六人衆をこっそり見ながらほのぼのとしていた。なにせリリアーナとセラが、彼を夫だと紹介しても、商人達に言わせれば、誰? としか思い様がなく、話を広げられないのだから仕方ない。


 そんな訳で、ユーゴは最大の懸念が去ってホッとしていた。



 まだ

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