パーティー
「ぬわ!? これが転移って奴か!」
「帰ったら自慢しよ」
「あっという間」
準備が整ってすぐに、ユーゴ一行はドロテアの魔法で湖の国へと転移していた。通常、非常に高価な触媒を使う転移に三人衆は興奮していたが、全く魔法に関して無知だったこともあり、ドロテアが唱えていた魔法の凄さに気が付いていなかった。
「ねーねとにーに。ねーねとにーに」
「いえーい」
一方六人衆で最年少のコレットとクリスは、大好きな姉貴分と兄貴分たちに囲まれて、その上、昔沢山遊んで貰ったグレンとジェナに会えると、弾むような足取りで手を握っているユーゴを急かしていた。
「お婆ちゃん。なんだか落ち着くかも」
「エルフの森の隣だからね」
「うふふ。懐かしい」
ソフィアは、今まで感じた事のない類の気分になっていた。それはどこか安らぐというか、懐かしいといったもので、それは湖の国の隣が今まで一度も行った事が無くても、エルフの故郷であるエルフの森である事に起因しているからだとドロテアが教えている。
そして一家の大黒柱であるユーゴは……
「なんでフォークが何個もいるんだ? あれ? 外側から? 内側から? 食べ終わったらどうするんだっけ?」
人生最大の危機を迎えようとしていた。
そう、今まで竜達の長から全力の攻撃を受けようと、堕ちた神の呪いを受けようと、魔王に死の宣告を受けようと、その事如くに傷一つ付くことなく殺し切った怪物が、本当に本当に人生最大の危機に陥っていたのだ。
その危機こそ、パーティーにおけるマナーであり、もっと言えば社会的体面である。
一家の長として、夫として、父として情けないところを見せる訳にはいかなかったが、問題はこの怪物は超越者達の殺し方は知っていても、上流階級との社交的付き合いはさっぱりな事だった。なにせ生まれも育ちも中流階級。その上極少ない交流も、王宮に行って忍び込んだり、手足をもいで廃人同然にしているくらいなのだ。知ってるわけがない。
当然、パーティーへの出席が決まった時点で、妻達へ全力で教えを乞うていた。幸いにも妻達全員が高い教養を持っていたため、教師には困らなかったが時間が無かった。そのため何とか詰め込んだものの、非常に怪しい出来に仕上がってしまったのだ。
怪物はついに、徴税官の襲来を超える危機を迎えてしまった。
◆
「王都って言っても結構のほほんとしてるな」
「だな。戴冠式ってのがある日だろ?」
「マイペース」
「あんたらの言う通り結構マイペースな国民性だからね。特に騒ぎに成るような事もしないんだろう。それに……いやこれはいいか」
三人衆やドロテアの言う通り、国王の戴冠式の日であるというのに、街中の市民は普段と変わらないような生活をしていた。これは少々田舎な湖の国の国民性によるものだが、ドロテアが言い淀んだ、金が無いから派手にしようがないという世知辛い事情もあった。
「おお! でっけえ城だ!」
「城なんて初めて見た」
「いつかケーキのお城を作る」
そして到着した城の前で、三人衆が感嘆の声を漏らす。強国と言われるような国の城と比べると、こじんまりしていたが、彼等にとって人生で初めて見る巨大な城だ。大きく顔を上げて眺めていた。
「ここの主があのグレンとジェナねえ」
「今でも実感わかねえや」
「最後に見た時はまだ子供だった」
「えーそれではお城に入りたいと思います」
「おっさんのやつ、心底入りたくねえって顔してるぜ」
「恥かかねえようにな」
「僕達子供だからマナー分かんない。という感じでよろしく」
「ぐううう。好き勝手言い様ってからに」
ズバリ今の心境を言い当てられたユーゴは、渋々と城の入口を警備している衛兵に近寄る。
「すいません。本日のパーティーにご招待いただきまして、これが招待状になります」
「はっ! 失礼いたします!」
既にパーティーに招待された者は何人か入城済みだったため、衛兵も慣れた様子で招待状を確認する。これが普段の中年男なら衛兵も怪しんだだろうが、外見上は礼服を身に纏い、連れている妻達も全員が絶世の美女や、高貴な雰囲気を漂わしているのだ。そのため特に怪しむ事も無く、招待状を確認していく。
「ユーゴ様とそのご家族様、それと三人衆? の方々ですね」
「三人衆は名前じゃねえだろ!」
「あいつ等ひょっとして、俺らの事三人一組で認識してたんじゃねえか?」
「どうしても三人衆しか出てこなかったと思われる」
自分達への招待状が、まさかの三人衆名義だったことに、小声で文句を言い合う三人衆。実際お菓子屋のコナーの言う通り、グレンとジェナには三人衆のイメージが強すぎて、何度頭を捻っても彼等の本名が出てこなかったのだ。ある意味、子供らしいイメージの定着と言うべきか。
「じゃあ行こうか……」
「楽しみだねクリスくんコレットちゃん!」
「うん!」
「ここからはおじょうひんなコーでありますことよ」
「緊張して来た」
「俺も」
「男は度胸」
こうして、子供達の期待、プラス約一名の不安と共に、一行は城の中へと進むのであった。
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