ご招待2

「なんで俺らがそんなとこに呼ばれるんだよ」

「そうそう」

「縁も所縁も心当たりも無い」


「あるんだなあこれが」


 突然ユーゴから、湖の国の王城で行われるパーティーに招待されていると聞かされた三人衆は、全く理由が分からず冗談か何かと思っていた。


「ちょっと前にいたグレン君とジェナちゃん覚えてるよな?」


「そりゃな」

「ほとんど毎日遊んであげたからな」

「流れが読めて来てしまった」


「あの子ら湖の国の王子様と王女様だったんだわ」


「はあ!?」

「なんだそれ!?」

「やっぱり……」


 三人衆にとって驚天動地とはこの事だ。まさか知り合いのおっさんの家で遊んでやったちびっこ二人が、湖の国の王族なんて夢にも思っていなかった。


「という訳で行く?」


「端折り過ぎだろ!」

「行くも何も場違いだろ!」

「要相談」


「なあに、ちょっと余所で飯を食って帰るくらいのつもりでいいさ。俺らでも出ていいパーティーだから招待されてんだから。グレン君とジェナちゃんも、出来ればお前さんらに会いたいみたいだし」


「いや俺らそんなとこ行く服もマナーも知らねえよ!」

「そうそう!」

「王宮のご飯……デザート……」


 庶民も庶民。下町生まれの三人衆に、そんな場所へ行くためのマナーも服装もあるはずが無い。約一名、既に目的が出来ている様だが。


「いや、すっげえ気楽な立食パーティーの端っこに居て、後で別の場所に御呼ばれするみたいだぞ。それと服は任せろ。婆さんがいいもん持ってるから」


「ええ……」

「あいつら俺らを呼ぶとか正気かよ……」

「ごくり」


「じゃあ参加な。親御さんらには俺から言っておくよ」


 話しの大きさに引いている三人衆だが、手紙にグレンとジェナの二人が世話になった彼等に、もう自分から行ける立場ではないけれど、どうしても会いたいと書かれていたため、ユーゴは久々にお節介焼きとして三人衆を連れていくことを決めていた。


 ◆


 ◆


 ◆


「どうすんだよ……」

「もう開き直っていいもん食って帰る」

「レシピもらえたりしないかな」


 さて、ユーゴが全員参加すると返事をして、あっという間にやって来たパーティー当日。ユーゴ邸の前には腹を括った三人衆が集まっていた。


「いらっしゃい」


「にーにも来た!」


「さあいこうすぐいこう」


「おっと、クリスもコレットもばっちり決まってんじゃん」

「いいとこの坊ちゃんとお嬢ちゃんだ」

「似合ってる」


 三人衆を出迎えたユーゴだが、クリスとコレットもついて来ていた。その子供達だが、普段の服とは全く違う上等な服で、コレットに至っては子供用のドレスまで着ていた。


「それで俺達の服はどうすんの?」

「俺ら体形全然違うんだけど」

「確かに」


「まあとにかく家に入りな」


 三人衆は服はこっちで準備すると言ったユーゴに完全に任せていたが、身長の差も横幅もそれぞれ全員個性溢れる自分達が、画一的な礼服に収まるとは思えなかった。


「こんちわー」


「うふふいらっしゃい」


「あ、お兄ちゃん達!」


「これ着てみてくれ」


 三人衆にとって勝手知ったる他人の家である。それぞれ準備をしているこの家の住人達に挨拶しながら、居間にあった白い無地の服とズボンをユーゴから渡される。


「白はやばいだろ」

「これ俺には小さいんだけど」

「まあ着てみよう。わ」

「な、なんだ!?」

「服が変わったぞ!?」

「すごい」


 色も大きさもダメだろうと渋る他二人を置いておいて、物は試しとお菓子屋のコナーが服を被ると、途端に白い無地だった服は礼服へと変化し、三人とも目を丸くしていた。


「婆さんの店に仕舞われててな。なんでも昔、エルフは森に礼服なんて文化が無いのに、森の外では人種に合わせて着なきゃならん。その準備するのをめんどくさがったエルフが作った物らしい。体形に合わせて設定された礼服になるんだと」


「すげえ」

「ほえー」

「一体何百年前……」


 作られた経緯はともかく、服を準備する時間が無かった三人衆にはぴったりな物であった。


 なおこの服であるが、魔法が掛かった服という事で一時期高値で取引されていたが、貴族的な価値観からすれば、子供の時から大人まで、何度も同じものを使いまわすより、歳に合わせて職人に一から作らせたものを着る方がいいという、当時の独特な価値観のせいで廃れたという経緯があった。


「はいこれ靴」


「なんか別人になった気分」

「俺も」

「パーティー中にお腹が膨れても安心」


 礼服も靴も履いた三人衆だが、自分の人生で一度も縁のない格好を確認しながら困惑気だ。


「パーティー中は隅っこで飯食ってていいんだよな?」


「そうそう。パーティーに行った時には、もうグレン君は戴冠式澄ませて王様だから自分から動けないしな。そうなると俺らに声を掛けて来る奴がいるとは……聖女だったリリアーナにはいるかもしれんけど、それだけさ。それに飯もお礼の内だろうから気にせず食べたらいい」


「そ、そうだよな」

「おっさんの家族に混ざって飯食うなら緊張しなくていいわ」

「態々声掛けられる心配する方が変だから」


「んだ。さて、俺も着替えないとな」


 そういいながら自分の準備をしようとするユーゴであったが……。


「おっさんが礼服だってよ。それにマナー知ってんのかよ」

「言えてる」

「あ、固まった」


「え?」

「なんでだよ」

「さあ。あ、なんか落ちた。カンペ?」


「なんかずらずら書いてるぞ」

「これマナーじゃねえの? いや、詳しく知らんけど」

「おっさん?」


「君達。俺に何かあったらお手洗い連れてってくれって言うんだよ。頼んだよ」


「一体俺ら幾つだよ!」

「ヤバくなったらその場から逃げるつもりかよ!」

「やっぱり」


 そう言いながら三人衆全員を真剣な目で見つめるユーゴ。


 ……前途は多難である。

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