家族3

 さて、婆さんがソフィアちゃんのお母さんの所に行くと言っていたので、クリスとコレットも連れて行く事にした。


 では点呼開始!


「ソフィアちゃん!」


「はい!」


「クリス!」


「はい!」


「コレット!」


「うっす」


 今日もみんな元気で非常によろしい!


 婆さんはいいや。いや、徘徊するかもしれないから一応確認しといた方がいいか?


「いらんよ」


「じゃあ行くかい


「ああ」


 何度か婆さんと一緒に海の国と小大陸の様子を見に行ったのだが、そんなにしょっちゅう高価な転移触媒は使えない。しかしこの場にいるのは、頼れる我が家のお婆ちゃんなのだ。全く問題ない。


「【いざ行かん 懐かしき地よ 風よ 匂いよ 運べよ 我この地へ 来たれり 対処する】」


 魔法での転移だなんて、世の魔法使いが聞けば卒倒するだろうが。


 ◆


「パパ!? おみずがいっぱいある! あれなに!?」


「ふおおおおおおおお!?」


「へっへっへ。あれは海って言うんだよ。海」


「うみ!?」


「オアシスとはちがうの?」


「もーっともーっと広いんだよ」


「パパ、うみいこう!」


「すぐいこう」


 ここは多分小大陸側だな。一度だけ上陸した港町の筈。そんでもって婆さんの妹さんの墓もある筈だ。そして、海という事は子供達は当然初めて見る事になる。マイペースなコレットも、地平線の彼方まで広がる水に圧倒されながら、握っている俺の手を強く引っ張って、浜辺まで移動しようとしていた。


「おっと、でも先にソフィアちゃんのママに会わないと。コレットもクリスも会いたいでしょ? その後で海に行こう」


「うん、あいたい!」


「じゃああとで」


 しかし、今回ここに来たのはソフィアちゃんのお母さんに会うためなのだ。泣く泣く子供達の要望を後回しにするしかなかった。


「こっちだよ」


「はいよ」


「あそこの役場にいるよ」


「アポとってるよな?」


「当り前さね」


 ソフィアちゃんのお母さんは、最近この港町の副町長みたいな地位に就いたとは聞いたけど、思ったよりずっと大きな役所で気後れしてしまう。


「というか仕事中なんじゃ」


「構やしないよ。あの子は休みの時間でも、自分で仕事を見つけるタイプだ。混乱してた時は仕方なかったけど、今はむしろソフィアと会わせて無理矢理でも休ませた方がいい」


「ははあ」


 責任感が強いんだろうなあ。ソフィアちゃんにもそういうところは確かにある。


 さて、役所に入ったが小大陸へ帰還してから作られたものなのだろう。あれから数年だが、まだまだ新築と言える新しさで中もかなり広い。子供達も物珍しさからきょろきょろと辺りを見回している。


「ドロテア様、ソフィアちゃん、おはようございます」

「おはようございます」


「おはようございます!」


「ああおはよう。勝手に上がらせてもらうよ」


「ええどうぞどうぞ」


 中の職員が婆さんにやたらと丁寧なので思い出した。小大陸が陥落する前に存命だった婆さんの妹さんは、非常に敬意を払われる存在だったらしい。だからその姉である婆さんにも、こんな丁寧な対応なのだろう。会ってみたかったんだがな……。


「サンドラ入るよ」


「ドロテア様ですか? どうぞお入りください」


 この婆、遠慮の欠片も無いな。殆ど形だけのノックだ。


「今日は坊やとその子供達も連れて来たよ」


「お久しぶりですサンドラさん」


「ユーゴ様、いつも娘が大変お世話になっております。本当にありがとうございます」


「いえいえ、むしろウチの子供達がソフィアちゃんにべったりでして」


 ソフィアちゃんのお母さんに、前に会ったのはまだ船の船長だったから、少し間が空いてしまったな。預かっている手前、何度か婆さんと一緒に会っているのだが、その度にお礼を言われてしまっている。しかしコレットとクリスの懐き様を考えたら、むしろお礼を言うのはこっちだろう。


「息子のクリスと娘のコレットです」


「コーです!」


「クーです」


「初めまして。ソフィアの母のサンドラです」


 ぺこりとお辞儀した子供達は、この人がソフィアちゃんのお母さんなのかと興味深げにしている。


「ママただいま!」


「お帰りなさいソフィア」


「!?」


 大人同士の話の間待っていてくれたソフィアちゃんが、サンドラさんに抱き着いたが、子供達はソフィアちゃんのただいまと言う言葉に、ショックを受けている様だった。子供達の中でソフィアちゃんがただいまと言うのは、自分達の家だけだと思っていたのだろう。


「ううう、ねーねー……」


「ぐしゅ」


「ソフィアちゃんも困っちゃうよ。ほら、涙を拭いて」


 改めてソフィアちゃんとお別れする事を実感した子供達から、涙がこぼれそうになってしまう。そんな子供達に俺が出来るのは、涙を拭いて抱きしめてあげる事だけだ。


「私が学校をお休みの時は、絶対クリスくんとコレットちゃんに会いに行くから!」


「ひっぐ。ほんとぉ……?」


「ぐす、ぐす」


「私だってコレットちゃんとクリスくんとお別れしたくないよ。おじさんのお家の皆とだって。だから約束!」 


「やくそくうううう」


「ぐしゅ。やくそく」


「うん約束! それにまだ2ヵ月あるからその間一杯遊ぼ!」


「うん!」


「うん!」


 ぐす。ちーん!

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