家族2
「ひっぐっ」
「うえええ……」
何とか涙をこらえて夕食の準備を手伝おうとしている子供達だが、少し顔の方を拭かないといけないな。顔は涙と鼻水の跡でいっぱいだ。
「はいコレット、クリス。お鼻ちーんって」
「ちーん!」
「ちーん!」
「私も手伝うね!」
「うううねーねええ」
「ぐしゅ」
「ほらほら、お手て洗ってお野菜洗おう!」
子供達が鼻をかんでいる時、ソフィアちゃんも台所に立って、野菜を水洗いし始めた。コレットもクリスも、本当に出て行くの? といった表情だが、ソフィアちゃんは2人を促している。
「あらううう」
「ちーん! ぱぱもういちまい。ちーん!」
だが子供達は、次から次へと涙が溢れてしまい、顔を拭いては野菜を洗い、拭いては洗いと、なんとかソフィアちゃんとお手伝いをしている。
「まだ2か月はいるんだよ?」
「それってどれくらい?」
「えーと朝ごはんを60回食べるくらい」
「じゃあたべない!」
「あはは。じゃあ朝が来るのが60回だね」
「じゃあおねんねしない!」
「お寝んねしなくても朝は来るかなあ」
「こない!」
なんとか泣き止んだコレットとクリスだが、今度はソフィアちゃんを引き留めようと必死だ。
「クリス、コレットちゃん。ソフィアちゃんもママの所へ帰りたいし、ソフィアちゃんのママもソフィアちゃんが帰って来るのを待ってるのよ」
「ほらコレット、手が止まってるわよ」
「うう」
「ぐす」
しかし、リリア―とジネットに説得されて、不承不承ながら野菜を洗うのに戻っている。単純に聞き分けがいいのは親として助かるのだろうが……今回は悲しい我慢しているという事だ。しかし必要な事だと思うと……なんともやるせない……。
「ソフィアちゃんが次帰るとき、婆さんと一緒に付いて行こうかクリス、コレット。いいかなソフィアちゃん?」
「うん!」
「いく!」
「いく!」
子供達には、ソフィアちゃんがお母さんと話をしているところを直接見せたほうがいい。そうすればソフィアちゃんにお母さんがいる事を理解させやすいだろう。いや、理解はしているのだろうが、感情的に納得出来ていないのかもしれない。
だが転移の触媒は高いから、子供達が毎日行きたいと言ってもかなり厳しいし、向こうにも迷惑になるだろう。俺が走っても子供達の体が耐えられないしな。やはりソフィアちゃんが帰った後に会えると言っても、子供達には我慢を覚えて貰わないといけないな……。いや、それは俺もだな。もう何年もこの家で一緒に暮らして来たソフィアちゃんとのお別れなのだ。出来れば会いたいのは俺も一緒だ……。
◆
「クリスくん、あーん」
「あーん」
「コレットはパパがしてあげるね!」
「またこんど。ねーねにはコーがする」
「そ、そんな……昨日もそう言ったのに……」
夕食の時間には、なんとかコレットとクリスも少し立ち直ったようだ。と言ってもソフィアちゃんに普段以上にべったりだが。べったり過ぎてコレットには……。
「先にコレットちゃんにもしてあげる! はいあーん」
「ねーねそれおやさい。こっちのおにくきぼう」
「いっしょに洗ったお野菜だから大丈夫!」
「むむむ。むしゃむしゃ」
「はいクリス、パパがあーん!」
「あーん」
よかった! クリスには大丈夫だ!
「あなた、あなたも食べて下さいね」
「おっと、ジネットごめん!」
「ほら、ソフィアの好きな魚の煮つけだ」
「ありがとうリンお姉ちゃん!」
ソフィアちゃんがコレットとクリスの真ん中に、その子供達の隣にはジネットとリリアーナが座っているため、二人に構うには席を立つ必要があったのだが、ちょっと行儀が悪かった。
だが本当によかった。ひょっとしてご飯も食べられないくらい、悲しむかと心配していたくらいだ。
「ママ、きょうはねーねとおねんねしたい」
「コーもコーも」
「あらあら、ソフィアちゃんいいかしら?」
「はい!」
「すまんなソフィア。コレット、お姉ちゃんに迷惑かけないのよ」
最近ソフィアちゃんの帰り頻度が多かったため、寂しかった子供達はソフィアちゃんがこの家に戻ってくると、夜一緒に寝る事をお願いして3人で就寝していたが、今日は特にそれを望んでいるだろう。ありがたいのはソフィアちゃんが頷いてくれることだ。
「ごちそうさま!」
「ごちそうさまー」
おっと、もう食べたのかい子供達。どうやら泣いてお腹が減ったのか、お皿は綺麗になっていた。
「早いのう。お腹ポンポンになっとるんじゃないかの?」
「おいしかった!」
「セラねーのおなかはふともごっ」
「言っちゃだめだよコレットちゃん」
「まさかねーねにされるとは……」
「ルーがソフィアちゃんが好きな果物一杯買って来たので、食後も楽しみにしててくださいね!」
「わあ!」
しかし、後2か月でソフィアちゃんともお別れか……。ウチに来た最初はお母さんと離れ離れになって、とても不安そうにしていた子だったけど、コレットとクリスのお姉ちゃんをしてくれて、段々と笑顔も増えて、今はこんなに笑顔の似合う子になった……ちーん!
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