家族

「少しだけお腹が出て来たね」


「にょほほ。そうじゃのう」


「はい」


 セラも凜も、本当に少しだけだがお腹が大きくなっていて、二人とも嬉しそうだ。


「パパ、あかちゃんおおきくなってるの?」


「そうだよ」


「ふともごもご」


 そんな二人のお腹を興味深そうに見ているのは、ついこの前まで母親のお腹にいたクリスとコレットだ。だが娘よ。その発言は危ないから阻止させてもらうよ。


「クリスもコレットも、生まれる前はママのお腹にいたんだよ」


「えー?」


「ものはためし」


「あらどうしたのクリス?」


「コレット?」


「……むりだよパパ。ママのおなかにクーはいんない」


「やっぱふとむごご」


「うふふ。クリスもコレットちゃんも、産まれた時はもっと小さかったのよ」


「コレット……」


 母のお腹にいたという事に実感が湧かないのだろう。ソファに座っているリリアーナとジネットのお腹に、丸まって抱き着いた子供達だが、確かに今の大きさでは無理だろう。本当に大きくなったなあ……ちーん!


「お茶をお持ちきゃっ!? 坊ちゃま!? お嬢様!?」


「アレクシアママもむりだよ」


「しょうめいしゅうりょう」


 そんな時、ティーワゴンをついてアリーがリビングに入って来たが、子供達に急に抱き付かれて驚いている。


「坊ちゃま、お嬢様、どうなさいました?」


「クーがママのおなかにはいらないから、アレクシアママはどうかなーって」


「けつろんはいわないでおく」


「そんな畏れ多い……!」


 アリーは、母親達は無理だったから、次に自分ではと思った子供達に感動している様だ。


「にょほほ。わしが大人になったように、お主等も気づかぬうちに少しずつ大きくなっておるんじゃ。何と言ってもお兄ちゃんとお姉ちゃんじゃからな」


「うん!」


「ルーねーは」


「あはは、どうしましたコレットちゃん?」


「だいすきだなーって」


「ルーもですよ! あはは!」


「えっへ」


 へっへっへ。


「そういえば、クーとコーはどっちがおにいちゃん? おねえちゃん?」


「もちろんコーがおねえちゃん」


「ええーくーがおにいちゃんだよー」


 いかん! コレットとクリスの間で火花が散ってしまう! パパとして阻止せねば!


「コレットもクリスも、一緒に産まれてきたから、二人とも一緒さ!」


「へー」


「ほー」


 よかった、よく分かってない様な、納得した様な感じだが、同時に産まれてきたのは間違いないのだ。仲良し二人でいいじゃない!


 ん? 婆さんが一人で帰って来た? ソフィアちゃんと海の国に行ってた筈……今ソフィアちゃんは婆さんの店にいるな……


 ◆


「来年にソフィアの入学が決まったから、あと2月くらいで母親のとこに戻すよ」


「そっかあ」


 遂にこの時が来たか……。


 ◆


「クリス、コレット。大事な話があるんだ」


「だいじなはなし?」


「だーいーじー」


「そう大事なお話なの」


「ちゃんと聞きなさいコレット」


 ジネットとリリアーナに伝えた後、リビングにいたコレットとクリスを俺の左右に座らせて、更にジネットとリリアーナが子供達を挟む形で座る。普段と少し違う雰囲気を感じたのか、子供達も少し落ち着かなさそうだ。


「ソフィアちゃんがね、学校に通うんだ」


「ねーねがっこういくの?」


「コーもいくー」


 子供達はこの前見学に言ったばっかりだから、学校がどんな所かは知っている。


「それでソフィアちゃん、2ヵ月くらいしたらお母さんのところに帰るんだ」


「こんどはいつかえってくるの?」


「よるー」


 ここ最近、ソフィアちゃんがお母さんの所に帰る頻度が多くなってるから、それの延長だと考えているんだろう……でもそうじゃないんだ……。


「ソフィアちゃんはお母さんの所に帰って、そのまま学校に行って学校で暮らすから、もうここには帰ってこないんだ」


「え!?」


「え!?」


 クリスだけじゃなくて、マイペースにしていたコレットも大きな声で驚いている。ジネットとリリアーナが、子供達の手を握っているのが見えた。


「ねーねどうしてかえってこないの!?」


「うそ!」


「ソフィアちゃんのお家は、ソフィアちゃんのお母さんの居る所なんだ。ソフィアちゃんはようやくお家に帰れるんだよ」


「ねーねのおうちはここ!」


「ぱぱのうそつき!」


 顔を赤く染めながら必死に否定している。やっぱりつらいなあ。


「クリスもコレットもママの事大好きでしょ? ソフィアちゃんもお母さんの事大好きなんだ。だからソフィアちゃんは帰らないといけないんだ」


「ねーねどこ!?」


「どこ!?」


 ソファーから飛び降りて俺を見上げる子供達。やっぱり納得なんかできんよな。


「クリス、ソフィアちゃんはママの所へ帰らないといけないの」


「コレット、コレットもママとずっと離れ離れは嫌でしょ?」


「やあああああああああああああ!」


「うえええええええええええええ!」


 ジネットとリリアーナの説得も実らず、ついに泣き出してしまった。でもこれは仕方ないことなんだよ……。


 あちゃ、婆さん。ちょっとソフィアちゃん帰って来るのが早いかも。


「ただいまー」


「ねえねええええええ!」


「びええええええ!」


 ソフィアちゃんの声を聞いて、泣きながら玄関へと走り去る子供達。


「わわ!? どうしたの!?」


「かえっちゃやだあああああ!」


「やああああああ!」


 玄関に向かうと、2人ともソフィアちゃんの足に縋りついている。本当に心が痛んだ。


「そっか聞いたんだ。私、お家へ帰るんだ」


「やあああ!」


「ここにいてええ!」


「クリスくんもコレットちゃんも、そう言ってくれてとっても嬉しい。でも私もお家に帰ってママとお話しして、学校に行ってお勉強したいの。だからクリスくん、コレットちゃん。私の事応援して。ね?」


「ああああああ!」


「うえええええ!」


 ソフィアちゃんの言葉に、クリスとコレットも両手で顔を覆って泣いている。


「今日はソフィアちゃんの好きな食べ物一杯買ってあるからね」


「ありがとうおじさん!」


「なんのなんの」


 子供達を説得するためにああ言ったが、ソフィアちゃんはうちの家族なんだ。それくらい当たり前だ。


「さあクリス。ソフィアちゃんに何かお料理作ってあげないと」


「コレットもしましょう」


「う"う"う"う"う"!」


「つ"く"る"う"う"う"!」


 母親達に促されて、子供達は台所の方へ向かっていく。はあ、父親ってのは無力だ……。

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