怪物親子襲来! 1

(あ、ベルトルド総長にあのグロい肉の事伝えないとな……それと穴が増えた事も……)


 ユーゴが唐突に思い出したのは、最近消し飛ばした肉の化け物の事と、殆ど意識的に記憶から消去していた、大陸に新たに出来上がった穴の事である。


(それならクリスとコレットも連れて行こうかな? 忙しいのは分かってるけど、ドナート枢機卿も総長が会いたがってるって言ってたしな。このままじゃいつになるか分からんし)


 実際の所、コレットはベルトルド総長と何のかかわりも無いが、そこは2児の父親なのだ。娘だけ置いて行くという選択肢は全くなかった。


 大陸でも最重要な場所の一つである、祈りの国守護騎士団総長室に。


「あ、リリアーナ。ちょっとクリスとコレットを連れて、ベルトルド総長に会って来るね」


「はーい。ベルトルド総長によろしくお伝えくださいね」


 その予定を告げられたリリアーナも、夫と子供達の行先が、自分の第二の実家とも言える祈りの国であったため、止めるどころか大らかに送り出してしまった。むしろ、神の気を溜めすぎているため、自分も付いて行けない事を残念に思っているくらいであった。


「クリスー、コレットー。パパとちょっとお出かけしようかー」


「うん!」


「お、で、か、け」


 もう一度言うか、行先は大陸でも最重要の場所である、祈りの国守護騎士団総長室だ。


 ◆


 祈りの国


 ところ変わって祈りの国の首都。ここでは日々大陸の平穏の為に奔走している、守護騎士が本拠地を置いている場所としても有名である。


「おい、守護騎士殿だ」

「なんでも中級悪魔を一人で倒したんだろ?」

「憧れちゃうなあ」


 そしてここにも一人、兵士達から尊敬の眼差しを向けられている守護騎士がいたが、なんといってもその守護騎士は特別だった。守護騎士団への最年少入団記録を塗り替え、勇者か特級冒険者の派遣が望ましい中級悪魔を一人で打倒し、ベルトルド総長からの覚えもめでたいという、まさにエリート中のエリートであった。


 流れるような金の髪。優しげで温和そうな目尻。しかし体は鋼そのもの。


 ひょっとしたらドナート枢機卿とベルトルド総長の持つ、最年少勇者就任すら塗り替えるのではないかと、期待されているその人物こそ


「魔物がひしめいていた頃の小大陸って、どんなとこだったんだろうなあ」

「入団したばっかりの時に小大陸行ったんだろ? やっぱすげえよなあ」

「サイン貰えないかなあ」


「マイク守護騎士お疲れ様です!」


「お疲れ様です」


 マイク守護騎士であった。


「マイクさん任務帰りかい?」

「やあマイクさん」

「マイクの兄ちゃん!」


 優しげな雰囲気そのままの性格だからだろう。街の市民からも多くの声が掛けられている。


 今だって


「おや、マイクさんでしたよね? お久しぶりです」


「パパのおともだち?」


「ちがうっぽい」


 仲のよさそうな親子の父から声を掛けられている。


「ぶっ!?」


 マイクが目玉も鼻水も噴かなかったのは奇跡であった。


「いやあ、あの件依頼ですな。お元気そうで何よりです」


「ゆゆゆユーゴ殿もお変わりない様で!」


 しかし汗は滝のように流れ顔面蒼白、ハッキリ言って今にも死にそうだった。

 それもそのはず。この守護騎士マイクこそ、小大陸で人型殲滅兵器と、婆型極大魔法発射装置の共演を見てしまった後、よりにもよってその人型殲滅兵器と二人っきりで小大陸を移動する羽目になった、あのマイクだったのだ。


 そしてマイクが今でも定期的にその時の悪夢を見ている事を考えると、今意識を保っている事は本当に奇跡であった。


「パパ、このひとたおれそう。だいじょうぶ?」


「あわふきそう」


「こ、このお子様たちは、ひょ、ひょっとして?」


「息子のクリスと、娘のコレットです」


「コーです!」


「クーです」


「こ、これはご丁寧に。守護騎士のマイクです」


 子供達二人が丁寧に頭をぺこりと下げたものだから、つい反射で丁寧に挨拶を返すあたり、マイクの人の好さが滲み出ていた。


(んん!? という事はエルフの男の子の方は、話に聞いた先代のリリアーナ様とのお子様じゃ!?)


 流石は守護騎士。生命の危機を感じながらも、頭は非常に冴えている。

 小大陸での一件以来、ユーゴについてある程度の情報をベルトルドに教えられているため、目の前の怪物と、先代聖女リリアーナとの間に子供がいる事も知っていた。

 そして怪物が左右の手で繋いでいる子供達は、片方はダークエルフの女の子で、もう片方はエルフの男の子なのだ。必然的に、男の子の方は、先代聖女の息子である可能性が非常に高かった。


「ひょっとして、お子様達を総長にお見せしてあげようと?」


「ええそうなんです。お忙しいのは分かっているんですが、総長に個人的な用事がありまして、それなら子供達の顔も見せてあげようと」


 人生で二番目くらいに脳がフル回転しているマイクは、容易く、完璧に正解を導き出した。一番目の時は気絶したが。


「それはよかったです。総長も常々その時間が無いとぼやいていましたから」


「ははは」


「ではこちらへどうぞ。私が居た方が話が早いでしょう」


「これはすいません。ご迷惑おかけします」


「いやいや」


 人間とは成長するものである。数々の実戦や修羅場を潜り抜けた事によって、マイクはついに、怪物の案内が出来るまでに成長していたのだ。


 何度も言うが、大陸でも最重要な場所である、祈りの国守護騎士団総長室に。

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