ダメおやぢの日常

 えーブラウニーの諸君! 今日は天気も良く晴れて、ぴったりな工事日和となりました! それでは安全第一で


 プールを作るぞおおおおおおお!


 ◆


 ザックザック

 トントントン

 ガガガガガガ


 ふう、家族旅行で行ったオアシスで、水遊びに喜んでいた子供達を見てから、庭にプールを作ろうと決心してたのに、随分間が空いてしまった気がする。まあ、異常気象のせいで庭が銀世界だったり、学校の見学に行ったり、セラと凜の妊娠が分かったりで、ここ最近忙しかったからなあ。だが今から作れば、少し暑くなるくらいには間に合うはずだ。


 子供用の水着も、服屋のナイスミドルに無理言ってだが注文したし、水を出す魔石もちゃんとある。後はプールそのものを作るだけ!


 ん!? ば、馬鹿な!? この気配は徴税官だと!? 今年はもう会ってるだろ! やましい事なんざしてないいのに、一体何をしに来やがった!


 トントン

 カンカン

 ギュイイイイイイイイイイイン


 少佐! すまないが現場の指揮は君に任せる! 最高階級として頼んだぞ!


 カッ


 うむ。というかまた最後の音おかしいだろ! 何年振りかに聞いたけど、やっぱどこかにドリルがいるぞ!


 ◆


「お久しぶりですな」


「お久しぶりです徴税官殿。今年はもう済んだかと思ってましたが」


 正門に行くと、そこにはいつもの徴税官の姿があった。痩せ気味な眼鏡を掛けた男だが、その眼鏡をクイッてする動作を止めなさい。なんも悪いことしてないのに、見透かされてる気がする。大体今年はもう顔見たから、次は来年の筈だろ。


「ママー、またちょうぜいかんさんきてるよー」


「パパとなかよし」


 こらクリス、コレット、見ちゃいけません。ママとそのまま遊んでなさい。


「御商売が上手くいっているようで何よりです」


「ははは。ありがとうございます」


 それは今年も聞いたし、なんなら毎年聞いてるよ。さっさと本題に入りやがれ! 言っとくけどこっちには、何の心当たりも無いからな!


「オークションを止められた後、ラント商会、ミキ商会、ハララ商店、ファン海運。それに砂の国よりさらに南の商会もお取引とは、本当に上手くいっているようで何よりです。全て大商店ですからな」


「ははは。評判が評判を呼んだ様でして、全くありがたい限りです」


 心当たりあったああああ!

 こ、こ、こいつうううう! 俺の彫刻の販売ルート押さえてやがる! ストーカーか? 巡回の兵士さん呼ぶぞコラ!

 でもどうして面識あるか言えねえ! 人には言えないような、でっかい貸しがある所ばっかりだからな!


「ですが、幾つかの商店はかなり昔の話になりますが、裏組織ではないかと疑われていた時期もありますので、老婆心ながらご注意させて下さい」


「いえいえありがとうございます」


 しかもこいつ、俺の事を反社会勢力の一員じゃないかと疑ってやがる! 大体そんなこと言われなくても知ってるよ! その幾つかの商会は、昔俺がボコボコにしたところだからな! でもそんなこと言えるわけがねえ!


「おっと、遅れましたが、奥方が二人もご懐妊されたようですな。おめでとうございます」


「これはご丁寧に、ありがとうございます」


 おかしいな。子供がさらに増えて、お前の収入で本当に養えるのか? 表に出せない仕事してるんじゃないよなって聞こえたぞ?


「お祝いの為に寄らせて頂いたのに、すっかり本題を忘れてしまうなんていやお恥ずかしい。それでは失礼させて頂きます。聖女様にも何卒よろしくお伝えください」


「お勤めご苦労様です」


 またおかしいな。ずっと見てるから妙な真似するんじゃねえぞ。リリアーナに何かしたら、ただじゃ置かねえからなって聞こえたな。しかも庭で子供達と遊んでいるリリアーナに、変わったことがないか確認までしてやがる。


「ふう疲れた……」


「うふふ、ご苦労様です」


「パパがぐったりしてる。かみあらわれたコーみたい」


「コーはもっとかわいいから」


 徴税官が去ったのを確認して、リリアーナと子供達がいた近くのベンチに座り込んでしまう。彼女も、俺が探られて痛い腹を抱えまくってるのを知っているから苦笑気味だ。

 今更だけど、やっぱり昔やり過ぎちゃったんだよなあ。原因は俺じゃない事が多いけど、過程でちょっとなあ……。


「パパおつかれさまー。トントン」


「トトトトトトトトト」


「グ、グリズウウ、ゴレッドオオオオ! ちーーーーーーん!」


 ぐったりして座っていると、子供達がベンチに乗り上がって、俺の肩を左右から小さなお手手で叩いてくれた。もう無理。涙と鼻水が止まらない。


 よし! パパパワー完全回復!


「待っててね子供達! パパ頑張ってプール作るから!」


「がんばってー」


「スイスイ……まって、よくかんがえたらかみがぬれる」


「もうあきらめたほうがいいよコー」


「だがコーはあきらめない」


「クリス、コレットちゃん、おやつにしましょうか」


「わーい!」


「えっへ」


 へっへっへ。いやあ、気合入れて綺麗なプール作らないとなあ! コレットとクリスだけじゃなくて、あとから生まれてくる子供達も使うんだし! 頑張るぞ!

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