子供達の日常
「すうすう」
「起きてクリス」
「ぐうぐうふがふが」
「コレット起きなさい」
コレットとクリスの朝は、母親であるジネットとリリアーナに起こされて始まる。1人部屋で寝始めた子供達だが、流石にまだ朝食の時間に合わせて起きることは出来ないからだ。
ちなみにユーゴの場合は、子供達の寝顔を見てニコニコしながら、もう少し寝させてあげようと部屋を後にするので、既にお役目御免であった。任せていると子供達の起床時間は昼になるので、ダメ親父と言うしかない。
「おはようコレットちゃんクリスくん!」
「ねーねおはよ!」
「おっはー」
この時、姉貴分であるソフィアがいる場合は、そのまま3人で手を繋いでキッチンへ。いない場合は、クリスは母の腕の中で二度寝寸前、コレットは母から逃げている事が偶に起こる。
「パパこれ」
「よろしく」
コレットとクリスが嫌いな野菜が食卓に上がる場合は注意が必要である。なぜなら子供達は母の目を盗んで、ユーゴの皿にこっそり移動させていたりするからだ。
「ダメだよ。お野菜もちゃんと食べなきゃ」
「ううにがいー」
「きょうはだめなきがしていた。むしゃむしゃ」
しかしそこは学歴を気にしつつも、栄養やらビタミンやらの大事さはちゃんと分っているパパである。好き嫌いに理解は示しているが、嫌いでも食べないといけないものがあると子供達に促す。たまにこっそり食べてあげるが。
◆
「はいクリス、これを練ってみて」
「コレットもね」
「まぜまぜ」
「ねりねり」
「お婆ちゃんこれくらい?」
「そうだね」
午前中の子供達はお勉強である。リリアーナが教会でお勤めの場合は、ジネットかドロテアが教えており、今は簡単な薬の作り方を子供達に教えていた。
(婆俺にも教えろおおおおお!)
用事がない場合、ユーゴが扉の隙間から中を覗いている事が多いが、彼には薬の作り方など全く分からないので、自分の子供達に教えているドロテアを、恨まし気に見ていたりする。そのうちドロテアに、鎮静剤を処方されるかもしれない。
「そこ!」
(俺は石俺は石)
「どうしたのコー?」
「なんかいたきがする」
そんな興奮した馬鹿親父を、気配に敏感なコレットが察知する事があるが、勉強の邪魔をしちゃいかんと慌てて気配を消すため、今のところ気付かれてはいなかった。まあ、それも時間の問題な上、そもそも察知された時点で邪魔になっているのだが。
「あんたらも大変だね」
「そこが可愛いらしいんですよ」
「困った人」
それに妻達やドロテアにはお見通しで、ジネットやリリアーナは苦笑、ドロテアは呆れたように部屋の入口を見ていた。
◆
「足速くなったなあ!」
「ほんとほんと。この前までよちよち後ろについてたと思ったら」
「おっさんくさい発言」
「えへへ!」
「えっへえっへ」
「待て待てークリスくんコレットちゃんー」
お昼は庭で遊んでいる子供達だが、今日は三人衆が来ていたこともあり、ご機嫌で走り回っていた。
「そういうお前さんらもデカくなったなあ。1人除く」
「うっせえ! まだこれから伸びるんだよ!」
「今じゃ父さんとそう変わらんからなあ俺」
「まさにおっさんの発言」
それこそ、今のコレットとクリス位の歳から知っている三人衆に、ユーゴも感慨深げに頷いている。三人全員肩に乗せていたこともあるのに、今や立派な青年になりつつあるのだ。
「あ、これお前さんらが映っている写真のアルバムね。家に持って帰りな」
「いや、写真の魔具って高いんだろ!?」
「本体は高いけど、この写真自体は金掛かって無いから持ってけ」
「おお! まだ俺の背が高くない!」
「身長以外、あんまり変わってないかも」
コレットとクリスが生まれてから、数えきれないほど撮った写真の中に、三人衆だけのものも数多くあった。それを収めたアルバムをそれぞれに渡すユーゴ。
「赤ちゃんのクリスを抱っこしてる俺だ!」
「やっぱお前それほど変わって……」
「クリスは大きくなった」
「これクー?」
「これはコー」
「あ、小っちゃい頃の私だ!」
三人衆が、懐かしい写真を笑いながら見ていると、それにつられてクリス達も傍にやって来た。パラパラとめくられていくページには、まだハイハイも出来ない頃のクリスとコレットを抱っこしている三人衆や、この家に来たばかりのソフィアも含めて、全員で遊んでいる写真が収められていた。
「ちーん!」
そんな子供達の成長に、改めて感動しているユーゴだが、これはいつもの事なので、特に誰も気にしていなかった。
◆
「すうすう」
「ぐうぐう」
「すーすー」
三人衆が来た時など、特にはしゃいで遊んだ時などは、コレット、クリス、ソフィアの三人は、仲良くお昼寝する事が多い。その間母親達は家事を、父親は曰く本業の彫刻作りなどに勤しんでいたりする。
なお彼の天敵である徴税官は、彫刻が高値で売れている事を把握すると、今度はその販売ルートが怪しい事に気が付いて目を光らせていた。祈りの国へ神々の像を売っているのはリリアーナの伝手で分かるとしても、たまにどんな伝手を使ったかさっぱり分からないような、大商店の使いが頭を大きく上げ下げしている所が目撃されているのだ。ユーゴに言わせると昔の伝手だが、勿論普通の伝手などであるはずが無い。そのため今も徴税官はユーゴを疑っていた。
◆
「待て待てー!」
「えへへ!」
「おふろはいいけどかみはだんこはんたい」
晩ご飯を食べた後のコレットとクリスは、リビングで家族と遊んだり、ポチやタマとゴロゴロしていたりするが、今日は髪を洗われるのを嫌がって逃走しているコレットと、ついでに遊んで貰おうと一緒に逃げているクリスをユーゴが追いかけていた。
勿論ユーゴがその気になれば一瞬で捕まえられるのだが、お昼寝をしたこともあって夜眠れないといけないからと、常に付かず離れずの位置をキープしながら、子供達と遊ぶつもりで追いかけていた。
「そうれ捕まえた!」
「パパや―! えへへ!」
「つぎこそはかならず。がくっ」
そして風呂星人でもあるユーゴは、必ず風呂に子供達を連行するため、コレットの企みが成功したことは今まで一度もなかった。
◆
「コレット、クリス、ソフィア、お休み。コレットはちゃんとお布団被るのよ」
「お休みクリス、コレットちゃん、ソフィアちゃん」
「おやすみー」
「おやすー」
「お休みなさい!」
「寂しかったらいつでもパパを呼ぶんだよおおおお!」
ゲームなどない世界なため、入浴が終われば子供達はすぐに寝る時間だ。子供達は部屋の前で手を振ると、布団に潜り込んで目を閉じる。もう慣れてあっさりしたものだが、あっさりしていないのは父親だけだ。今日も今日とて、名残惜し気に子供達が部屋に入って行くのを見届けるのであった。
◆
そして新しい朝がやって来る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます