妻の日常 凜編
すうすう……
ん? ここは?
は、母上!? 母上! ああお会いしたかった! 聞いて下さい! 凜のお腹にはやや子がいるのです! 必ず凜も母上の様になって見せます!
え? おめでたいけど、それはそうとして寝ている時の脱ぎ癖をどうにかしろ? いやですなあ母上。子供じゃあるまいし、もうとっくにそんな癖は直ってますよ。そんなため息つかれてどうされました?
え? 寝坊助にもほどがあるからとっとと起きろ? それはいったい? お、お待ちください母上、どうして手刀の構えを? ちょ!? 恐ろしく早い手とっ!?
あいたあああああああああああああ!?
◆
「ぬおおおおお!?」
ここはどこだ!? 寝室だ! 一体何が!? な、何か夢を見ていたような気がするが思い出せない! ん!?
「な、なに!? 誰もいない!?」
ね、寝過ごした!
布団の上にいるのは、最近起きるのが遅いセラ殿だけだ!
マズいぞ急いで朝餉を作るのをお手伝いせねば!
◆
「すいません寝坊しました!」
「おはよう凜!」
「うふふ。おはようリンちゃん」
「おはようございます!」
朝餉の準備は…よかったまだする事がある。
「おはようです凜ちゃん!」
「おはようルー。先に起きてたなら、私を起こしてくれてもいいだろう」
「あはは。気持ちよさそうに寝てましたからねー」
「気遣いはありがたいのだが、まだ腹が膨らんでいる訳でもないんだ」
「まあまあいいじゃないですか」
妊娠してからルーが妙に過保護と言うか……以前は寝ている私の鼻をつまんで起こしていたというのに、今では寝ているのならそのまま起こさないでおこうと考えている様だ。配慮はありがたいのだが、私もこの家の一員であるため、家事の一つや二つ当然するというのに。妙なところで気を遣う奴だ。
「じゃあお野菜の残り願いしますね」
「分かった」
東方娘の包丁捌きをとくと見るがいい。と言ってもアレクシア殿、ジネット殿についでの腕だが……一体シルキーとは……。
包丁捌きで思い出した。生まれた子には東方の戦い方を教えてあげたいが、長い事木剣で素振りをしているだけだったため、真剣には殆ど触っていない。流石に妊娠中にそれはマズい事くらいは分かるので、子が生まれた後に勘を取り戻さねば。
そうだジネット殿に聞いてみよう。ジネット殿も、ご結婚されてから短剣を握る機会は無かったはずだ。だが今はクリスとコレットに修行をつけている。
「ジネット殿、私は子供に東方の戦い方を教えたいのですが、腕が鈍っていないか不安なのです」
「うん? ああ、私も長い間短剣を握っていなかったから不安だったが、体が覚えているものだな。時間はかかったが次第に動くようになった」
「流石ですね」
ルーから聞いたが、流石は大陸三指に数えられた暗殺者のジネット殿だ。しかし……うーむ、私に同じことが言えるだろうか?
◆
「いやあ、この前まで涎掛けとかオムツを洗ってたと思ったら、もうあんな大きな服になってたんだなあ」
「日に日にコレットとクリスの成長を感じますね」
「ほんとほんと」
朝餉の後の洗濯も終わり、勇吾様と居間に行くことになった。
子の成長か……私の子も物心付いたら母上の墓前に連れていきたいな。
「さあさあ座って。凜は最近気が張って体が固いからマッサージしないと」
「いえそんなことは」
「旦那はお見通しさ。さあさあ」
「それでは……」
自分ではそんなつもりはなかったが、勇吾様の見立てでは体が強張っている様だ。そのまま流され勇吾様に背を向ける形でソファに座る。
「うーんやっぱり固いね」
「はふ」
どうやら本当に体が固くなっていた様だ。肩を揉まれると非常に気持ちがいい。
「初めて妊娠したから気を張るのは仕方ないけど、もう少し力を抜いてリラックスリラックス」
凜は力を入れ過ぎだと、母上にもその昔言われたことがある。勇吾様もそう言っているのだ。力を抜く、力を抜く。
そうだ今日夢に見たのは母上だ。何故か忘れていた。母上見ていてください! 不肖この凜、立派な母親になって見せます!
「はいまた力んでるねー」
「うううう」
ついさっき力を抜くと思いながらこれだ……なんと難しい……。
「子供が生まれても、気負わなくていいんだ。普段通りの凜でいいんだよ。俺が保証する。間違いない」
「勇吾様ぁ」
勇吾様の断言に思わず赤面してしまう。そうか、普段通りの私でいいんだ。この暖かな家族の中で普段通りに。そうしたら産まれてくる子供だってきっと……。
「うんいい感じ。やっぱり笑顔じゃないとね」
「も、もう」
力が抜けたのか、勇吾様に褒めてもらったが、赤い顔が更に赤くなってしまったのが分かった。燃えてしまいそうだ……。
「いちゃいちゃしてる」
「ダメだよコー」
「な、なに!?」
こ、コレットにクリス!? いつからそこに!? か、顔がああ!
◆
「リン様、少しお腹の寸法を測らせてください」
「え? 構いませんけど、どうしましたアレクシア殿?」
「いえ、お腹が冷えるといけないので……」
はて? 普段の私はお腹が冷える様なことはしていないが……ま、ま、まさか!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます