妻の日常 リリアーナ編

だんなさまぁ

クリスもおおきくなりましたし

そろそろあかちゃん


「……こら!」


はえ?


「寝息を立てて場合か! 起きろ!」


この声はジネットさん?


「はれ? ジネットさんおはようございます」


目が覚めると、なぜかジネットさんに体を引っ張られていた。一体どうしたんだろう?


「言っとる場合か! 今すぐその胸を退けろ!」


「え? あらあらまあまあ、今退きますね旦那様」


そう言われて、ようやくいつもの癖で、旦那様の顔に抱き着いていた事に気が付く。


「ぷはっ。おはようジネット、リリアーナ」


「おはようございます旦那様あうっ」


「何を暢気にしとるんだ! あなた大丈夫ですか?」


「平気平気。なんなら2,3日息しなくても大丈夫だし」


胸を旦那様の頭から退けると、ジネットさんにチョップされてしまった。私が悪かったですけど痛いです……。


「きゃっ!?」


「あらあら」


「ちょっと奥さん成分吸収中ー」


突然旦那様が、私とジネットさんを引っ張って、その両腕で抱きしめてきた。甘えん坊なところもこの人の可愛らしいところ。うふふ。ついつい旦那様の頭を撫でてしまった。


「ああー、ダメ人間になりそうー」


「それならずっとお世話してあげますよ?」


「うっ、それは夫としてちょっと」


そしてちょっぴり見栄っ張りな所も。うふふ。



「クリスー、朝ですよー」


「すうすう」


部屋をジネットさんと一緒に出て、息子のクリスの部屋を覗き込む。旦那様はクリスが一人で寝るのに反対していたけれど、私も本当は反対したかった。でも、この子が学校に通って寮で生活するのなら、今から慣れておいた方がいいと思い、泣く泣くクリスが一人で寝ると言ったことに頷いた。


その息子は白い頬を赤く染めながら、気持ちよさそうに寝息を立てて眠っている。起こすのは忍びないけれど、ちゃんとした生活リズムを身に着けさせないと。


「起きてクリス」


「んみゅ? ママ?」


「ママですよー。おはようクリス」


「ふぁー。おはようママ」


声を掛けると、クリスが眠たそうに眼をこすりながら起床した。あくびが可愛らしい。


「さあお顔を洗いに行きましょうか」


「はーい」


「待ちなさいコレット! 髪を洗うのよ!」


「あしたからがんばる」


「昨日もそう言ったでしょうが!」


クリスと洗面所に向かおうとすると、部屋の外からジネットさんの叫びが聞こえてきた。どうやらコレットちゃんが、また髪を洗うのが嫌で逃げているらしい。これがジネットさんとの、コレットちゃんなりのスキンシップなのか悩むところだが、多分本当に嫌で逃げているのだろう。


「コーまたにげてるの?」


「うふふ、そうみたいね」


「コーはかみのけぬれるのきらいだから。べたってするから」


「そうなの?」


「うん」


厳密には双子でないけれど、クリスとコレットちゃんには不思議な繋がりがある。それによると、コレットちゃんは髪が濡れて、べたッと張り付くのがいやらしい。気まぐれな所も合わせてなんだか猫みたい。


「うう……コレットに弄ばれてしまった……」


「パパおはよう!」


「おはようクリス! 今日もいい天気だよ!」


部屋から出ると、何故か蹲っている旦那様がいた。でも大体想像がつく。コレットちゃんに、上手く丸め込まれてしまったのだろう。けれどクリスと私の顔を見えると、私の大好きな笑顔になった。優しい優しい旦那様の笑顔。


「パパおふろいこー!」


「さあ行こうすぐ行こう! へっへっへ!」


クリスは旦那様と、朝のお風呂に入るつもりのようだ。コレットちゃんもお風呂自体は嫌っていないが、クリスは旦那様に似てお風呂に入るのが好きだ。でも最近は寂しい事に、恥ずかしがって私と入る事はしなくなった。


「それじゃあ私は朝食を準備しておきますね」


「ありがとうリリアーナ。いつもありがとうね」


「うふふ。湯冷めしないようにねクリス」


「はーい!」


「しゅっぱーつ!」


そう言うと旦那様はクリスを抱っこして、最近作った男性用の浴室まで、スキップしながら向かっていった。


今度私もやって貰おう。あ、そう言えば昨日神殿からの帰り道にして貰っていた。でも毎日でもいいわよね?



「季節のお野菜が並び始めましたね」


「そうだね。帰りに買っていこう」


「はい」


教会でのお勤めは今も続いており、今も旦那様と手を繋いで向かっている。最初は驚いていた街の方達ももう慣れたもので、相変わらず仲がいいと声を掛けて来る人もいるくらいだ。私も街に溶け込めたという事だろう。


尤も未だに街の外から来た人には声を掛けられるが、その度に旦那様はそっと間に入ってくれる。しかしそういった人達は、どうしてこんな男がと旦那様を見るが、私に言わせるとこんなに優しい人は他に居ないのだ。


「今日も普段通りに終わりそう?」


「はい多分その筈です」


「じゃあいつも通り迎えに行くね」


「はい。うふふ」


そして今までずっと、教会への行きと帰り道は旦那様と一緒で、変わる事のない習慣だが毎日が嬉しい。


「それじゃあお勤め頑張ってね」


「はい」


旦那様、私、毎日が幸せですよ。

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