幕間 次期教皇最有力候補ドナート

「ただならぬことだ。10年と経ってない間に、枯れた荒野の魔王、世界を食らう者、そして今回の魔界連合とやら。3回も異世界より侵略があったのだ」


教皇の言葉に皆が頷いている。

祈りの国の会議室。そこではこの国の中枢と言っていい教皇を始め、枢機卿のほぼ全員、守護騎士団総長、聖女の姿があった。


議題は勿論先日に起こった六玉王に率いられた、魔界連合による大陸侵攻の危機についてである。


「聖女様、神々の警告は無かったのですな?」


「はいありませんでした。恐らく世界を食らう者に対する警告で、その御力を大きく使われたものかと」


今回の騒動に置いて神々からの警告は発せられなかった。そもそも神々は、かつてに比べて驚くほど力を落としており、前回の世界を食らう者に対する警告も、かなり無茶をしての物だったのだ。


「やはり警戒と備えを怠るなと言う事なのでしょう」


「そうですな」


祈りの国のみならず、大陸全体の平和を維持している守護騎士団の総長ベルトルドが発言すると、大勢の枢機卿が頷く。脅威渦巻く大陸に置いて、備えを怠る事の恐ろしさを、彼等は身に染みて知っていた。


「それでドナート枢機卿。ユーゴ殿は今回の首魁達はどれほどのもだったと?」


教皇の言葉に頷くドナートと、口がへの字にひん曲がっているベルトルド総長。


「自らを六玉王と称していた者達ですが、ユーゴ殿の話ではそれぞれ竜達の長に匹敵するのではないかとの事でした」


「なんと……」

「六体全員が竜の長!?」

「大陸は崩壊寸前だったのでは……」


ドナートの言葉に慄きの声が会議室に満ちる。それも当然だろう。仮に竜達の長が一体でも現代に蘇れば、大陸の人種は種の存亡を懸けて戦わなければならないのだ。


「なんたることだ。一体ユーゴ殿はどうやってそやつらを?」


「申し訳ありません。私と剣の国の宰相が退避すると、ユーゴ殿はどうやってか、空間に空いていた穴を閉じてしまったので見ていないのです」


「大陸に仇なすものを、ユーゴ殿がどう対処したのか見てみたかったものですな」

「左様左様」

「私もです」


人種の危機を救ったユーゴの活躍を見てみたかったと言う枢機卿達であったが、ベルトルド総長の口はへの字を通り過ぎて縦の線になる寸前だった。そしてベルトルドは常々思っている事があった。一度でいいから大陸にある大穴に皆を案内したいと。人工で出来た底なしの大穴に。


(見てはいないが想像は付く……)


そして見ていないというドナートの言葉に嘘はなかったが、ドナートもベルトルドも大体何が起こったか想像が出来た。かつての"二つ首"のように、殴られて終わったのだろうと。

だが真実はもっと斜め上であった。確かに殴られて死んだ者はいたが、それはたった二人で、残り二人はただの発声で木っ端微塵、もう一人もそれで瀕死となり頭を踏み砕かれ、最後の一人に至っては命じられただけで生命活動を停止したのだ。


「ふむ。話が大きすぎて、むしろ出来る事が少ないな。とにかくその空間に穴が開いていた地点に調査を送ろう。ユーゴ殿は再び開くことは無いと言っていたのだな?」


「はい。それが出来る術者は始末したと」


「分かった。ではとにかく調査団を派遣して、何か分かったらまた集まろう。だがベルトルド総長の言う通り備えは怠らない事。以上だ。ドナート枢機卿とベルトルド総長は残ってくれ」


教皇の言葉に、ドナートとベルトルド以外の全員が会議室を後にする。この二人は教皇にとって側近中の側近であり、残されたことに誰も疑問を抱かなかった。


「リリアーナ殿の子を見に行ったら大変な目に会ったな」


「いやはや、直接その場にいましたから、報告に余計な手間が掛からなかったと思えば運が良かったのでしょう」


苦笑し合う教皇とドナート。当初の予定では、ようやく時間的に落ち着いたドナートが、先代聖女リリアーナが生んだ子供の顔を見に行くだけの筈だったのだ。それがどうして怪物と同行して、異世界の侵略者と交渉する羽目になるのか。


「それでお子様の方はどうだったのだ?」


「少ししかお会いできなかったが、それでもリリアーナ様によく似た優しさを持っていたように思う」


「そうか」


あからさまにホッとするベルトルド。いったい彼の頭の中でクリスは、どんなモンスターベイビーと思われていたのだろう。ひょっとしたら親子仲良く、大陸に穴を開けている姿が想像されていたのかもしれない。


「それで本題なのだがドナート枢機卿、君を次期教皇として正式に指名したい。勿論私もまだ続けるつもりだが、なにぶん歳が歳だから何が起こるか分からん。受けてくれるな?」


「……このドナート、謹んで承ります」


教皇はもう80歳に近く、いつ何が起こっても不思議ではなかった。そのため正式に、次期教皇にドナートを指名すると伝えたのだ。そして要請という形であったが実質的に命令であり、ドナートも深く頭を下げ承諾するのであった。



「パパ。ドナートのおじさんのおかし、ちゃんとあかちゃんにあげた?」


「赤ちゃんはお腹いっぱいだから、クリスお兄ちゃんとコレットお姉ちゃんが食べてって言ってたよ」


「つぎいつくる?」


「いつかなあ。ドナートのおじさん忙しいから」

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