お勉強
「凜ちゃん妊娠したんだってね。おめでとう」
「ありがとうございます」
馴染みの魚屋の大将が俺と凜を祝福してくれている。
いやあ嬉しいね!
「つまり暫くウチで買い物してくれるってことだ!」
「そうなりますね」
コレットとクリスの時も、ジネットとリリアーナが悪阻で肉がダメになったため、長いこと大将には世話になった。ウチは家族も多いからホクホクだろう。
「それではこれとこれ、あとこの魚も」
「だっはっはっ! 相変わらず目効きすぎ! ウチのいいの全部持ってかれちまう!」
だから凜も遠慮は無しなのだ。という訳でいいのは全部買っていかせてもらう!
◆
「む? 何をやっておるんじゃ?」
「木になってるんだ」
「ほほう?」
リビングに入って来たセラが俺に不思議そうに尋ねてきた。まあ、そりゃ不思議だろう。手を横に広げてT字に突っ立ってるんだ。そして足元にはコレットとクリスがいる。
「よーいどん!」
「いちに、いちに」
「かさかさ」
合図とともに俺の体を登り始めた子供達。どうやら登山家として目覚めたらしく、凄い速さで頭まで到着して降りていく。
「おお速いのう!」
「あかちゃんうまれたらいっしょにやる!」
「そうそう」
「その頃にはコレットとクリスが木の役かもしれんの」
セラの言う通り、コレットとクリスの成長を考えるとそうなるな……どうにかして俺が大きく……無理か……。
「ととととととと」
「ほあちゃちゃちゃ」
俺が悩んでいる間、何故か対面になってシャドーボクシングの様なことをしているクリスとコレット。小さな手を高速で動かしている様は可愛い。可愛い。
「クリスお兄ちゃん、コレットお姉ちゃん、なにしてるの?」
「じゅんびうんどう!」
「あちゃちゃちゃちゃ」
「準備運動かー」
そうか庭でジネットと一緒に軽い戦闘訓練だったな。そんな事が必要ない時代だったらよかったんだが……。
「コレット、クリス。庭に行きましょう」
「にょほほほ。怪我せんようにのう」
「うん! あかちゃんうまれたらよんでね!」
「いってきまー」
「まだ早いと言うに」
ジネットに呼ばれた子供達が駆け出していくが、セラに赤ちゃんが生まれたら呼んでと念押しを忘れない。だがまだまだ先の話だな。
さて……勉強机の設計だな。
庭で!
◆
「とう!」
「えいやあ」
庭で小さな木剣を振っているクリスとコレット。振り回されているのではなく、きちんと振れているのが凄いところだ。
「あはは。昔を思い出しますねー」
そんな子供達を、ルーが満面の笑顔で見ていた。
「そういえばルーは、ジネットに色々教えてもらったんだっけ」
「そうです! ルーもああしてたなあ」
懐かし気に目を細めているルーは、両親が幼い頃に亡くなったため、ジネットにダークエルフの技を学んだらしい。そのため幼い頃の自分と、今の子供達を重ねているのだろう。
「ところでご主人様は何してるんです?」
「おっと完全に手が止まってた。子供達用の勉強机を作ろうと思ってね」
実際は手が止まってるどころか、始めてもいなかったけど。
「これは逸品が出来上がる予感がします!」
「ふっふっふ」
やっぱり街の家具屋では、そもそも子供用の勉強机という発想自体無かったようで、とてもではないが満足する事が出来なかった。そのため一から設計して作る事にしたのだ。
やはり幅広で棚も大きめに、引き出しの数もだな。電球入れ代わりに光の魔石入れも。高さは少し余裕をもって、椅子の高さを調節できるようにしとこう。何かのキャラクターを机の表面に張ったら完璧なのだが、生憎そんな物が存在する時代じゃない。あ、クマのぬいぐるみも置けないと。
「えい! やあ!」
「ほわっちゃぁ」
「でも凄いですね2人とも。体幹がしっかりしてます」
「うんうん」
いやはや、我が子達ながら体幹が全く崩れていない。上から振っても突いても同じだ。コレットに適性があるのは分かっていたが、クリスも負けず劣らずだ。
「次は魔法を出しながらやってみて」
「【ぴかー】えい! えい!」
「【ぴかー】えいとうやあ」
ジネットの言葉に従い、お気に入りの詠唱で光の玉を出す子供達。
しかも2人とも母親の魔法適正を受け継いで、この歳で魔法を使っているくらいだ。未来から来た子供達はあまりそう言う面は見れなかったが、大人になれば一体どうなるんだろうな。
おっとまた手が止まっていた。
設計図は出来ただろう。後は試しに木材を切って組み立ててみるか。
「えーっとここからここ、そりゃ」
彫刻を作る仕事場から持ってきた木材の長さを測り、印をつけた後に手刀で切り裂く。
「綺麗な断面です!」
「照れるなあ」
手刀と言っても恐らく大陸で一番鋭い鋸だ。切断面にギザギザや段差は一切ない。残りも同じように切断して試しのパーツが一通り揃った。
「これがここで、ここを組み合わせてっと。よし」
「これもう完成じゃないですか!」
「出来たね」
常人の10倍近くの速度で組み上げた勉強机は、一発で完成と言っていい物に仕上がった。なら婆さん謹製の接着剤で補強して、やすり掛けで角を取らないと。
「パパこれなに!?」
「つくえーつくえー」
「これはクリスお兄ちゃんと、コレットお姉ちゃんのお勉強机だよー」
「くーのつくえ!」
「わーい」
完成した勉強机に気が付いた子供達が近寄ってくる。訓練を抜け出されたジネットは仕方ないわねと苦笑しているが、大工仕事を頑張ったパパとして涙が出るほど嬉しい。
「じゃあとびばこもほしい!」
「ぴょんぴょん」
「跳び箱だねパパ頑張るよ!」
そう言えば魔法学院に行った時、跳び箱を使って楽しんでいたね。そのくらいお安い御用だよ!
今俺最高にパパやってる!
へっへっへっへ。
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