お勉強

「凜ちゃん妊娠したんだってね。おめでとう」


「ありがとうございます」


馴染みの魚屋の大将が俺と凜を祝福してくれている。

いやあ嬉しいね!


「つまり暫くウチで買い物してくれるってことだ!」


「そうなりますね」


コレットとクリスの時も、ジネットとリリアーナが悪阻で肉がダメになったため、長いこと大将には世話になった。ウチは家族も多いからホクホクだろう。


「それではこれとこれ、あとこの魚も」


「だっはっはっ! 相変わらず目効きすぎ! ウチのいいの全部持ってかれちまう!」


だから凜も遠慮は無しなのだ。という訳でいいのは全部買っていかせてもらう!



「む? 何をやっておるんじゃ?」


「木になってるんだ」


「ほほう?」


リビングに入って来たセラが俺に不思議そうに尋ねてきた。まあ、そりゃ不思議だろう。手を横に広げてT字に突っ立ってるんだ。そして足元にはコレットとクリスがいる。


「よーいどん!」


「いちに、いちに」


「かさかさ」


合図とともに俺の体を登り始めた子供達。どうやら登山家として目覚めたらしく、凄い速さで頭まで到着して降りていく。


「おお速いのう!」


「あかちゃんうまれたらいっしょにやる!」


「そうそう」


「その頃にはコレットとクリスが木の役かもしれんの」


セラの言う通り、コレットとクリスの成長を考えるとそうなるな……どうにかして俺が大きく……無理か……。


「ととととととと」


「ほあちゃちゃちゃ」


俺が悩んでいる間、何故か対面になってシャドーボクシングの様なことをしているクリスとコレット。小さな手を高速で動かしている様は可愛い。可愛い。


「クリスお兄ちゃん、コレットお姉ちゃん、なにしてるの?」


「じゅんびうんどう!」


「あちゃちゃちゃちゃ」


「準備運動かー」


そうか庭でジネットと一緒に軽い戦闘訓練だったな。そんな事が必要ない時代だったらよかったんだが……。


「コレット、クリス。庭に行きましょう」


「にょほほほ。怪我せんようにのう」


「うん! あかちゃんうまれたらよんでね!」


「いってきまー」


「まだ早いと言うに」


ジネットに呼ばれた子供達が駆け出していくが、セラに赤ちゃんが生まれたら呼んでと念押しを忘れない。だがまだまだ先の話だな。


さて……勉強机の設計だな。


庭で!



「とう!」


「えいやあ」


庭で小さな木剣を振っているクリスとコレット。振り回されているのではなく、きちんと振れているのが凄いところだ。


「あはは。昔を思い出しますねー」


そんな子供達を、ルーが満面の笑顔で見ていた。


「そういえばルーは、ジネットに色々教えてもらったんだっけ」


「そうです! ルーもああしてたなあ」


懐かし気に目を細めているルーは、両親が幼い頃に亡くなったため、ジネットにダークエルフの技を学んだらしい。そのため幼い頃の自分と、今の子供達を重ねているのだろう。


「ところでご主人様は何してるんです?」


「おっと完全に手が止まってた。子供達用の勉強机を作ろうと思ってね」


実際は手が止まってるどころか、始めてもいなかったけど。


「これは逸品が出来上がる予感がします!」


「ふっふっふ」


やっぱり街の家具屋では、そもそも子供用の勉強机という発想自体無かったようで、とてもではないが満足する事が出来なかった。そのため一から設計して作る事にしたのだ。


やはり幅広で棚も大きめに、引き出しの数もだな。電球入れ代わりに光の魔石入れも。高さは少し余裕をもって、椅子の高さを調節できるようにしとこう。何かのキャラクターを机の表面に張ったら完璧なのだが、生憎そんな物が存在する時代じゃない。あ、クマのぬいぐるみも置けないと。


「えい! やあ!」


「ほわっちゃぁ」


「でも凄いですね2人とも。体幹がしっかりしてます」


「うんうん」


いやはや、我が子達ながら体幹が全く崩れていない。上から振っても突いても同じだ。コレットに適性があるのは分かっていたが、クリスも負けず劣らずだ。


「次は魔法を出しながらやってみて」


「【ぴかー】えい! えい!」


「【ぴかー】えいとうやあ」


ジネットの言葉に従い、お気に入りの詠唱で光の玉を出す子供達。

しかも2人とも母親の魔法適正を受け継いで、この歳で魔法を使っているくらいだ。未来から来た子供達はあまりそう言う面は見れなかったが、大人になれば一体どうなるんだろうな。


おっとまた手が止まっていた。


設計図は出来ただろう。後は試しに木材を切って組み立ててみるか。


「えーっとここからここ、そりゃ」


彫刻を作る仕事場から持ってきた木材の長さを測り、印をつけた後に手刀で切り裂く。


「綺麗な断面です!」


「照れるなあ」


手刀と言っても恐らく大陸で一番鋭い鋸だ。切断面にギザギザや段差は一切ない。残りも同じように切断して試しのパーツが一通り揃った。


「これがここで、ここを組み合わせてっと。よし」


「これもう完成じゃないですか!」


「出来たね」


常人の10倍近くの速度で組み上げた勉強机は、一発で完成と言っていい物に仕上がった。なら婆さん謹製の接着剤で補強して、やすり掛けで角を取らないと。


「パパこれなに!?」


「つくえーつくえー」


「これはクリスお兄ちゃんと、コレットお姉ちゃんのお勉強机だよー」


「くーのつくえ!」


「わーい」


完成した勉強机に気が付いた子供達が近寄ってくる。訓練を抜け出されたジネットは仕方ないわねと苦笑しているが、大工仕事を頑張ったパパとして涙が出るほど嬉しい。


「じゃあとびばこもほしい!」


「ぴょんぴょん」


「跳び箱だねパパ頑張るよ!」


そう言えば魔法学院に行った時、跳び箱を使って楽しんでいたね。そのくらいお安い御用だよ!


今俺最高にパパやってる!


へっへっへっへ。

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