侍女は見た6 妻の日常アレクシア編
「すぴぴぴぴ」
侍女が早く起きるのは、何も屋敷に生活の火をつけるためだけではない。寝ている方達の様子を確認するのも大事な役割だ。例えばそう。
「すぴぴぴ」
おへそを出して寝ているおひい様とか。
遂にご懐妊されたおひい様はお腹のお子様の事もあり、ずっと絶世の美女の姿で生活されているが、中身は相変わらず愛らしいままであり、時折こうやって寝ながらお腹を出してしまうのだ。しかしおひい様のお腹にはお子様もおられる事を考えると、きつくない腹巻を編む必要がある。
しかし本当に素晴らしい事が起こった。おひい様のご懐妊日からずっと祝日にする必要があるくらいだ。
「すうすう」
そしてもちろんリン様もだ。はだけているリン様の服を戻して確認する。特に問題は無いようだ。この方はなんと言うか、寝ている時に脱ぎ癖があるから要注意だ。その癖恥ずかしがり屋なため、寝起きの姿を人に見られると真っ赤になって、暫く布団の中から出てこなくなる。そのためお腹の中のお子様の事を想えば、やはりおひい様と同じように腹巻が必要だろう。尤もリン様の場合は、理由を説明すると真っ赤になって受け取らない可能性が高いため、それとなくプレゼントという形にした方がいい。
「だんなさまぁ」
リン様が脱ぎ癖なら、リリアーナ様は抱き付き癖だ。今もユーゴ様の顔に胸を押し付けて抱きついている。いや押し付けているというより埋めている。どう見てもユーゴ様は息が出来ない状態なため、最初に見た時はジネット様と共に慌てて離そうとしたが、どうやらユーゴ様は2,3日は平気で息を止められるらしく、リリアーナ様の好きにさせている様だ。これでクリス坊ちゃまと一緒に寝ている時は問題ないから、どうやら無意識にユーゴ様だけにやっている様だ。訂正、たまにルー様が犠牲になっている。
「むにゃむにゃ」
そのルー様は寝ているときは必ず誰かの手を握っている。今日はリン様の手を握っているが、特定の誰かという訳でなくかなり満遍なくで、起きると私の手を握っている事もある。たまになぜか足首だが。そしてそれはクリス坊ちゃまとコレットお嬢様に好評で、一緒にお昼寝をされるときはお二人ともルー様と手を繋いで寝られている。
「……」
そして一番寝相がいいのはジネット様だ。流石は達人の暗殺者だと言いたいところなのだが……寝相はいいのだ寝相は。
「ん……あなたぁ……」
ただ目覚め始めると途端に動き始める。丁度今意識が覚醒し始めたジネット様は、隣にいるユーゴ様に抱きつき始めたのだが、腕だけでなく足も使っているため、ジネット様の場合、リリアーナ様と違い絡みつくと言った表現が正しいかもしれない。もうこれでユーゴ様はリリアーナ様とジネット様に埋もれてしまった。今度お二人のどちらかに場所を譲ってもらおう。
「んん……ん?」
いけない。ジネット様が完全に目を覚ましそうだ。そうなると今の状態を人に見られたと、顔を赤くして照れ隠しし続けるのは間違いない。他の皆様を起こさないためにも部屋から出て行かねば。
次はクリス坊ちゃまとコレットお嬢様を確認しなければ。
「すーすー」
ご自分のお部屋で、綺麗な白い肌に少しだけ頬が赤いクリス坊ちゃまがよく寝られている。
坊ちゃまとお嬢様がお一人でお休みになると言い始めた時、ユーゴ様はそれはもう大反対であった。ユーゴ様が仰るには早すぎるという事であったが、大陸での平均を考えれば大体これくらいの年齢で一人寝し始めるため、特に早いという訳ではない。そのためリリアーナ様とジネット様に説得され、坊ちゃま達が自分お部屋が欲しいと言われたこともあり、最終的にはユーゴ様の方が折れるという形になった。
さて次はコレットお嬢様だ。だがコレットお嬢様のお部屋に入る時は、少し慎重にならなければならない。
ダークエルフの技を学び始めたお嬢様は、元々鋭かった感覚がさらに磨かれ始め、何か異変があればすぐに起きてしまわれるのだ。しかし私もシルキーとしての技がある。屋敷の方々に気取られないように仕事するのは当然なのだから。
「ぐうぐう」
流石はコレットお嬢様。大の字で寝られるとは将来は間違いなく大物となられるだろう。ですが布団を被っていないのはいただけません。このアレクシアが眠りを妨げない様直して差し上げます。これでよし。
ああ、坊ちゃまとお嬢様を見ていると、おひい様とリン様のお子様の誕生が本当に待ち遠しい。それに乳母の仕事を任されるのは、シルキーとして最高の名誉でもある。そ、それに……それにクリス坊ちゃまとコレットお嬢様の様に、マ、ママと呼ばれ……いけない、こんなことを考えるのはシルキーとして失格だ。浴室に行かなければ。
「おはようアリー」
「ユ、ユーゴ様おはようございます」
お嬢様の部屋から出るとそこにはユーゴ様がいた。どうやらコレットお嬢様の様子を見に来られたようだ。
「ん?」
「ど、どうされました?」
だがユーゴ様はお嬢様の部屋に入ることなく、私の顔をじっと見られている。
「ひょっとしてまたママって呼ばれることが恐れ多いとか思ってる?」
ドキリとした。まさに今さっきまで思っていたことを、ユーゴ様に当てられてしまったのだ。
「そ、それは」
「やっぱり。アリーが子供達の部屋から暗い顔して出て来るなんてそれしかないと思ったんだ」
「あっ!?」
だ、抱きしめられてしまった……。
「コレットとクリスがアリーをママって呼んでるのは、赤ちゃんの時に育てて貰った事もあるけどそれだけじゃなくて、優しいアリーが大好きだからそう呼んでるんだ。だから子供達がママって呼んだら受け入れてあげて」
「は、はい……! はい!」
やはり、やはり私は幸せ者でございます……!
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