硝子玉共

本日投稿2話目ですご注意ください。



敢えて文字にすると



であろう。


いつの間にか無理矢理閉じられた時空の穴の前から発生したその音は、いや声だ。その声は、肉体的に最も脆弱で至近距離にいた"千毒千病"カリアと"研究者"リャヴォンを木っ端微塵どころか魂魄まで完全に消滅させると、そのまま異形の軍勢に炸裂し、大地に、いや星の表面に決して癒えない痕と赤い絵の具をぶち撒けた。


「ちいいいいいいいいいい!?」


原因不明の攻撃が、突如現れた男によるものと判断した残りの硝子玉は各々戦闘態勢に入るが、"疾踪"ヒュタリにしてみればそんな事は遅い、遅すぎる。


ヒュタリは本気で走るだけで音は置き去りに、そして光の速さまで加速出来るのだ。ヒュタリは自分だけが動いている世界で他の遅すぎる硝子玉を嘲笑いながら、その首を吹き飛ばされて絶命し、加速した体だけがそのまま地平へと消え去った。


"怒髪天"マグスタンもヒュタリとほぼ、限りなく同時に死んだ。自慢の斧は振り上げる事も出来ない駄作となり、魔界のあらゆる城壁を打ち破って来た怪力は、ただの意味無き細腕以下となり果てた。上半身が丸ごと無かったからだ。


生前の彼等はもっと真剣に考えるべきだった。


力が強いと足が速い。その両方の極限が合わさると、一体何が起こるかと考えるべきだった。

尤も答えは簡単だ。今起こっているのだから。だが彼等はもう知る事が出来ない。


"女王蜂"クインはとっくに虫の息だ。いや今死んだ。声の衝撃で既に体から体液をぶち撒け痙攣しているだけだった憐れな虫けらの女王は、かつて存在した虫けらの王と同じ末路、同じざま、最後はその頭を踏み潰され絶命した。 

王といい女王と言い、何故ムシケラ如きが全てを貪れると錯覚していたのだ?


"内返し"ピーリースが引き起こされた絶望を見ながら、何とか自分の能力を発動する事が出来た。運が良かったのだろうか? いや、少し前の発言をそのまま体験させられているのだ。彼はそれに気が付いただろうか? 自分が一体何を引き起こしたのか……。


「やった!」


ピーリースは自分の能力に怪物が巻き込まれたのがはっきりと分かった。


次元を内側に吸い込んだ後で外にひっくり返し、表と裏が入れ替わった生物の内臓を見るのが好きだった。そして新たな玩具が沢山ある場所も見つけてくれた大切な能力。


だが


決してやってはいけなかった


密度を高めて臨界点に達しかけている超重力を内に畳んで、さらにそれを外側にひっくり返すなど絶対にやってはいけなかった。


いずれ


いずれ


いずれ宙全てを飲み込む怪物が降臨した。


現象概念真理に法則。その全て一切合切を無視して、全てを飲み込む暗黒の人型として星の上に立つという矛盾を成立させた怪物が。


【死ね】


もうただ思うだけでよかった。


一体誰が暗黒の大虚無に殺意を向けられて生きられるというのか。


ピーリースはただの決定に従って完全に死んだ。


星にとって幸いであったのは、被害がここ周辺で済んだことだろう。








馬鹿共め。


全く無駄な時間を過ごした。宰相とドナート枢機卿もあんな連中と付き合わされて可哀想に。本当に時間の無駄としか言いようがなかっただろう。


しかもドナート枢機卿は、ようやくクリスを見に来れる時間が出来たとウチに来て茶を飲んでたのにだ。まあ、俺の家に来た暗部の長が、まさに天の助けとドナート枢機卿の事を見てたのはちょっと面白かったが。ありゃ多分俺の抑え役がついで居ると思ったんだろうな。


「ママ、ドナートのおじさんかえったの?」


「そうね。お仕事が忙しくなっちゃったの」


「ざんねんー」


クリスも、お菓子を持って来てくれて少し遊んでくれたドナート枢機卿の帰りを残念がってる。

だが流石にクリスに様付けは止めてもらった。子供は子供だしな。


しかし……クリスは本当に残念だろうが、また暫くこっちには来れんだろう。異世界から軍勢が侵略しに来るなんて、どう考えてもしばらく祈りの国はてんやわんやだ。

まあ術師は最後の奴の筈だからもうこっちには来れんだろうが。


馬鹿共の事はもういい。

時間って言うのはもっと有意義に使うもんだ。


お名前お名前お名前むむむむむむ。


和のお名前和のお名前和のお名前んんんんん。


「クリスお兄ちゃんコレットお姉ちゃん。弟と妹のお名前何がいい?」


「クリス!」


「コレット!」


「はっはっは。クリスとコレットもいい名前だもんねえ」


凛とセラの妊娠が分かってウチは勿論変化があった。

最近コレットとクリスはお兄ちゃんお姉ちゃんと言わないと絶対に返事しないし。へっへっへ。


「楽しみですねー。もう服は作っておきましょうか凜ちゃん」


「流石に早いだろうルー。いや、リリアーナ殿の事を考えると……」


「おひい様。男の子用と女の子用、両方作っておりますのでご安心ください。勿論おひい様の様もです」


「ありがたい様な、流石に両方はやりすぎの様な。しかし親子のペアルックはしてみたいし。むむむ」


それとルーとアリーは自分の事以上に喜んでいる。暇さえあれば一緒に子供の事でああでもないこうでもないと言っているくらいだ。


いやあ、十月十日後にはクリスとコレットも合わせて四児のパパになるのか。へっへっへっへっへ。

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