六玉王

魔界 不毛の食卓


魔界には草1つ存在しない、不毛の食卓と言われるエリアが存在していた。その不毛の食卓の中央に聳える、泥と土で作り出された巨大な塔の中に、魔界に君臨する魔王の1人、"女王蜂"クインがこれまた泥と土で作られた玉座に座っていた。


「クイン女王陛下、蟻達が東の森に迷い込んだオークどもを食いました。"怒髪天"マグスタンが抗議の使者を送ってくるようです」


人型の蟷螂と言うべきか。そんな存在が跪いてクインに報告をしていた。


「ほほほ。蟻たちの気持ちがよく分かるとも。オーク共は丸々と太って美味そうだからの。そうは思わぬか?」


「仰る通りです」


玉座というのは撤回しなければならない。臥所である。約10メートルのオオスズメバチが、まるで涅槃像の様に体を横たえていたのだ。彼女こそ"女王蜂"クイン。かつての魔界戦国時代に置いて、数々の種族を貪りつくした蟲の女王、魔界の魔虫たちの始祖。そして六玉王と呼ばれる魔王の1人であった。


「だが全面戦争はちと不味いのう。オークも面倒じゃがオーガになるともっと面倒じゃ」


「はっ」


報告された内容は、近隣に勢力を築いている同じ六玉王、オーガの"怒髪天"マグスタンが、抗議の使者を寄越してくるというものであった。発端はクイン配下の蟻人達が、マグスタン領のオークを食い殺したというものであったが、クインとマグスタンはお互い深刻な問題を抱えており、全面戦争はマズいと考えていた。


「まあ向こうも虫相手に欲情する事もあるまい。お互い損だけよの」


「仰る通りです」


クイン側は魔界最弱の種族である魔虫が主であるが、この魔虫、放っておくととんでもない数に膨れ上がるため常に食料の危機を抱えているのだ。しかし弱いため他の領地へ積極的に出て行く事が出来ず、先細りする事が目に見えていた。


一方マグスタンの方も深刻で、こちらの主な種族はゴブリン、オーク、オーガなのだが、彼等には女が生まれてこないと言う生物上の欠陥があったのだ。かつての大小様々な種族が入り乱れる戦国時代ならそれでよかった。弱小種族に攻め入り女を攫ってくれば解決したからだ。しかしこの種族達、碌でもない事に女の扱いが下劣を極めており、何かの拍子に壊す事がしょっちゅうで、魔界が拮抗状態に陥っている今では自業自得で種族が先細りしており、そのせいで余計に他の場所へ攻め入って数を減らす事を危惧する悪循環に陥っていた。


「となるといよいよ、ピーリースの提案……受けてもいいかもしれんの」


「……」


側近の蟷螂は自分に向けている言葉でないと理解しているため無言を貫く。


「よし。ピーリースの下へ使者を出せ。提案を受け入れるとな」


「はっ」


これと同じような会話が他の5か所で行われていた。





魔界中央 ピーリース領 支配神殿


大きな大きな神殿であった。まず入り口が大きい。天井も高い。それこそ巨人が建てたのではないかと思えるほどの大きさであった。そんな神殿の中央、一応置かれているこれまた巨大な円卓に6つの存在が集まっていた。


「皆さん集まって頂けて嬉しいです」


口火を切ったのは、魔界中央という全方位を敵に囲まれている立地にも関わらず、いまだ君臨している六玉王の1人にして、悪魔達の王、そして他の魔王は誰も認めないが恐らく最強の存在、"内返し"ピーリースであった。


彼等は知性あるものを誘惑して堕落させる、実に悪魔としてらしい笑みを浮かべて円卓を見渡す。


「てめえのにやけ面を見に来たわけじゃねえんだ! さっさと本題に入りやがれ!」


そんな一見ただの好青年にしか見えないピーリースに噛みついたのは、巨人と見間違える程異常成長を果たしたオーガの魔王、"怒髪天"マグスタンであった。魔界戦国時代においていかなる城壁でも吹き飛ばし、いかなる軍勢も踏み潰して来た覇者である。


「おお怖い怖い」


「ああ!? 気色悪い蛇女め! ここで踏み潰してやろうか!?」


「おお怖い怖い」


そんなマグスタンを嘲笑っているのは、フードに多くの鈴をつけて顔を隠しているナーガの女魔王、"千毒千病"カリアである。彼女は戦国時代に置いて数々の謀で軍を、城を、王を、惑わし破滅させ、また彼女自身に宿る毒は、ほんの一滴でも触れただけで他者を殺害できる究極の毒であった。

そんな彼女がなぜここに居るかというと、前回の戦争でナーガ族が捕えていた、暗黒魔術に使う生贄が絶えてしまい、新たな贄を必要としている時に声を掛けられたのだ。


「お前ら黙ってろよ。話が進まないだろ」


そう彼等をいさめたのは2足歩行する猫の魔獣にして魔王、"疾踪"ヒュタリ。猫というよりチータと言っていい彼は魔界最速を誇り、左の国境で敵を瞬く間に皆殺しにすると、その日のうちに全く逆の国境でも敵を皆殺しにしたという逸話を持つ。

そんな魔獣の魔王がここに居るのは、魔獣が持つ嗜好、弱い者をいたぶるという事が非常に難しくなってき始めたためであった。


「全くだ。実験を行うのは早ければ早いほどいい」


ヒュタリに同意したのは軟体生物の体に巻貝の頭部を持つ異形の魔王、"研究者"リャヴォンである。その気になれば海全てを操れると言う、強力無比な術者のリャヴォンであるが非常に変わり者であり、今回の会議に参加したのは完全に個人的な理由で、魔界の生物は粗方調査し終わったので、次は弱い生物で実験を行いたいと言うものであった。


「全くじゃ。我が眷属達も腹を空かせておっての」


そして"女王蜂"クイン。


1人1人が例外なく、強者溢れる魔界においてすら災害そのもの。


絶望と恐怖の象徴。


そして魔界を統べる支配者にして偉大なる6つの玉であった。


「では早速本題に入りましょうか。前に話した通り、弱小な種族が大勢いる、新たな新天地を見つけました。我々に必要な弱者たちが大勢いる、別次元の、ね」





























「パーパ」


「なーに?」


「なんでもなーい」


「クーリス」


「……」


「パパパパパ」


「なーに?」


「なんでもなーい」


「コーレット」


「……」


「おにーちゃん、おねーちゃん」


「はい!」


「なーに?」


「なんでもなーい」


「もうパパはダメなの!」


「いっちゃだめ」


「へっへっへ。ごめんよ。へっへっへっへっへ」






ー馬鹿め! 99.9999999999999999999999999999999999999%がそうだとしても、残りが全く手に負えないと考えなかったのか愚か者!ー

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