見学2

「パパここががっこう?」


「そうだよクリス―。皆ここでお勉強してるんだー」


「コレットちゃん、3+2は?」


「5!」


「うふふ」


校舎の中は、なんというか馴染みが無い。イメージが木造建築に凝り固まってるせいだろうな。さて、最初の教室は、お、扉が全開のあそこかな?


「コレット、クリス。静かにしてるのよ」


「コーしー」


「クーしー」


ジネットの言葉に、人差し指を口に当ててお互い小声でしーと言い合う子供達……俺の方が騒ぎそうだ。今すぐ写真を撮りたくて仕方ない。


さて中にはもう親御さんらしい人達がいるから入っても大丈夫だろう。軽く会釈しながら中へ入る。


「さて、今日はいよいよ魔法の初歩の初歩、【現象】を発動してもらいます」


長机に座っている30人程の生徒が教師の言葉に耳を傾けている。年頃は10代前半か、様々な人種に混じって生まれも育ちもよさそうな子も数人いるな。


「それでは皆さん目を閉じてリラックスしてください。見学のお子さん達もどうぞ」


婆さんに聞いたところによると、もうソフィアちゃんは"2つ"唱えれるらしい。つまり入学前に先輩達よりも大分先に居るという事だ。まあエルフは魔法との親和性が高いみたいだからな。


あ! コレット―、クリスーおめめ閉じちゃって可愛いよー!


「自分が自然の中の一部という事を感じましょう。そして頭の中で眩い光をイメージしてください」


眉間にしわを寄せてムムムと集中する我が子達。すいません先生、ちょっと授業の邪魔しちゃうかもしれません。今すっごく叫んじゃいそうなんです。


「それでは最後に心臓の動きを意識しましょう。魔力も血液と同じように、心臓から全身に行き渡っています。心臓から脳、指先、足先。では世界に【現象】を起こしましょう。【光よ】」


「光よ」 「【光よ】」 「光よ」 「【光よ】」 「光よ」


大体半分くらいの子が力ある言葉として唱えられているな。普通10歳の子が魔法を唱えるなんてまずありえない事を考えると、やっぱり教育がいいんだろうな。


「ふむ。唱えれてない子達もちゃんと魔力は練れてるからあと一歩ってとこだね。歳と種族を考えると教え方がいいんだろう」


婆さんも同意見の様だ。あ、うちの子達が目をクワッと見開いた。本当に写真撮ろうかな……。


「【ぴかー】」


「【ぴかー】」


そうそうコレット、クリス、ぴかーって。ぴかーっ!? 子供達を抱えて教室から素早く退散! 幸い家族以外には見られていない!


「パパできた!」


「できたー」


「コレット、クリス出来たねー!」


出来ちゃったねえと言えない事も無いが、地面に降ろした子供達がぴょんぴょん跳ねているので兎に角よしよしする。


「コレット、今あなた」


「凄いわクリス、コレットちゃん」


後ろからやって来たジネットも、褒めているリリアーナですらも嬉しい様な困った様な表情をしている


「すごいねコレットちゃん、クリスくん!」


「ねーねできた!」


「できたー」


「なんとまあ5歳にならない子が魔法とはねえ。昔のエルフが見ても目を疑うね」


そうだろうそうだろう。という訳でうちの子達をもっと褒めるがいい。


「私は生まれた時から使えたさ」


そんな訳あるか! それと張り合うんじゃねえよ婆!


「あなた……」


「旦那様……」


困った顔のままのジネットとリリアーナが見つめて来る。そうだよな。ではパパのお仕事と参りましょうか。


よっこいしょ。地面に座り、コレットとクリスの目戦に合わせる。


「クリスもコレットも凄いなー」


「クーすごいー?」


「コーも?」


「勿論さ!」


「えへへ」


「えっへ」


「でもさっきのは、パパかママがいるとこでしか使わないってお約束して欲しんだ」


「えー」


「えー」


不満げな子供達。新しいお遊びを見つけたんだ。そりゃ使って見たくもなるだろう。ましてや子供なんだ。


「さっきはぴかーだったけど、めらめらとかぼーぼーとかだったらどうなるかな?」


「んーもえちゃう」


「もえちゃう」


「そう燃えちゃう。あちちとか、いたいいたいになっちゃうでしょ? コレットとクリスの好きな人があちちとか、いたいいたいになるのは嫌でしょ?」


「うん。やだ」


「うん」


もう不満気な表情はなく頷く子供達。本当にいい子達に育った。人の痛みをちゃんと分かっている。


「でもクリスとコレットは本当にすごい事をやったんだ。だからパパとママがいいよって言った時だけ練習しようね」


「うん!」


「うん!」


この大陸では生きるのに必要な技術なのだ。完全に戒めるわけにはいかない。

子供達が危なくない様に成長を促す。パパもママも中々難しい。


まあそれは置いといて、今日は子供達が初めて魔法を使った記念日だな。帰ってお祝いしよう。


「待ちな坊や。まだ教室1つ覗いただけだよ」


はっ!? 完全に忘れてた!



「ドロテア様、かなり新しいエルフ薬の作り方ですね」


「そうだね。いいところはよりよく、悪いところは出来るだけ抑えるって努力が見える。変に拘るよりずっといいさ」


「お婆ちゃんに教えてもらったのとちょっと似てる」


「私のは魔法が使えるソフィア用に変えたからね。誰でも一律で作れるって事を根本に考えるならああなるんだ」


「へー」


「ママ、これゴリゴリしたらいいの?」


「ええコレット。簡単な傷薬になるの」



「おや、高位冒険者並みのが教官とは金掛かってるな。ジネット、中々じゃない?」


「そうですねあなた。ただやはりダークエルフの戦いかというと……」


「お婆ちゃん、私上手に戦えるかな?」


「フェッフェッ。上手に出来るために通うもんなのさ」


「ぴょん」


「ママ! とびばこたのしい!」


「あらあらうふふ。パパにお願いしてみましょうか」





「ソフィア、どうだった?」


「学校通いたい!」


一通り校内を回り終わると、ソフィアちゃんもここが気に入ったようだ。


「フェッフェッ。なら親にも話さないとね」


「でもママとお婆ちゃんと離れ離れになっちゃう……」


「なに、親元から離れてる子が多いから、帰省用の長期休みがかなりあるみたいだ。その時は私が迎えに行って小大陸に行くのも案だね」


「ほんと!?」


「ああ」


ああああああああああああ! 子供達と離れたくないいいいいいいいいいいい!


しかもここ学生達のための街みたいなもんで、普通の家族用に土地を売って無いと来た! クソッタレえええええ!


「コレット、楽しかった?」


「クリスはどうだったかしら?」


「たのしかった」


「たのしかった!」


楽しかったのは嬉しいけど複雑ううううううう!


だが俺は諦めない! 何とか週一! いや週三! いやいや週七会いに来るぞおおおお!





















「どうされました最高魔導士エベレッド様?」


「いや、なんかすごい寒気がしたんじゃが……あ、また……」

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