見学1

解せない。すっごく解せない。


「ママどこいくの?」


「おでかけーおでかけー」


「落ち着きなさいコレット。学校よ」


「はいクリス。ママとお手手つなぎましょうねー」


「どんな所かなー?」


お外へお出かけと喜んでいるコレット、クリス、ソフィアちゃん。そんな子供達をなだめているジネットとリリアーナ。愛しの我が家族達。



「さて行こうかね」


婆さん。


どうして……。


確かに座右の銘は善は急げだけど、なんか急にやる気がなくなっていく。

いや、だがこれ以上引き延ばしは出来ない。それにソフィアちゃんのことを考えたら今しかないだろう。仕方ない腹を括るか。


「それでは魔法学院へ参りまーす」


どうも蛇騒動の後祈りの国が介入して、魔法の国と騎士の国の間で緊張緩和があったらしく、国全体に掛けられていた転移妨害は止めているらしい。まあ、聞いた話あれは馬鹿みたいに金が掛かるから、お互い軍が壊滅した後じゃ使えないというお財布事情もあるみたいだが。あれももう数年経ってるが、いきなり万の死傷者が出たのだ。10年20年単位でも完全に元には戻らんだろう。


あ、最高魔導士の爺さんに手紙の一つでも書くべきだったかな? いや、向こうも忙しいだろうからいいか。



やって来ました魔法学園オーデ。というか魔法学園都市オーデ。

はは、増改築を繰り返して気が付けば都市になったとか馬鹿じゃねえの? まあ、今は流石に整理して道もちゃんとしてるみたいだが。


「まあ人種全体が大なり小なり馬鹿さ。私だって若い頃は気が付いたら一週間二週間って事がよくあったもんだ」


さよけ。エルフの森の時間感覚をそらあ危惧するわけだ。普通は半日とかだからな。


それにしても……。


「あなた、子連れの家族が多いですね」


「だよねジネット」


大通りを歩いていると、確かに子連れのご家族さんが多い。しかもパンフレットみたいなものも持ってる。


「これはちょうど見学の時期だったかな? だとしたら色々手早く行けそうだ」


事前に予約が要らない事は分かっていたが、そういう時期なら話が早く済みそうだ。そう考えるなら丁度良かった。


「ママここどこー?」


「ここはねクリス、学校って言うの。お勉強するところよ」


「クーおべんきょうできるよ! 5たす5は10!」


「コーも。1たす1は2」


「偉いわコレット、クリス」


「ちーん!」


思わず鼻をかんでしまった。算数が出来るとは歳を考えると明らかに早い。だがそんな事より、両手を手をパーに広げているクリスと、ピースにしているコレットが可愛らしすぎる。


もう単純な算数をジネットとリリアーナは子供達に教えており、そろそろエルフとダークエルフの薬と魔法に加えて、ジネットは戦い方についても教えるつもりの様だ。うぐぐぐ。そんなのパパがいるから大丈夫だよと言ってあげたいが、まだまだ力の世界と言っていい大陸なのだ。何があるか分からない……。んぐぐぐぐぐ。断腸の思いで……! やっぱり今からでも魔の国に行って……! だがしかし……!


あ、幼年学校はここを左か。


はあ、子供達と離れ離れかあ……。


「お婆ちゃん、いろんな人がいるね」


「ああそうだね。学びに人種は関係ないって事さ」


ソフィアちゃんの言う通り、エルフや獣人、巨人、魚人、ドワーフもいるな。様々な種族の人種が歩いている。しかしいいこと言うな婆さん。


だがエルフがいるならよかった。彼等は非常に仲間意識が強い。聞いたところによると、エルフの森とは全く関わりのない、砂の国のまだ先にある様な国に生まれたエルフが、両親の故郷を見てみたいとエルフの森に訪れたところ、非常に温かく迎えられたそうだ。小大陸生まれで大陸とは縁のないソフィアちゃんに友達が出来るか心配だったが、これならなんとかなりそうだ。


「エルフ同士団結しようとするのは先祖から受け継いだ本能みたいなもんなのさ。そうじゃないと生き残れない時代のね。まあそのせいで、ちと他の種族に排他的になった奴も出たが……はあ、それも時代のせいかね。同胞と神々以外全部敵だった頃の」


「ははあ。それっていつ頃の話?」


「さてね」


この婆さんが死ぬまでに絶対年齢を聞いてやる。じゃないと気になって俺が化けて出てしまいそうだ。


ん? あそこで本を読んでいるのは…ダークエルフまで居るのか!


ジネットと本を読んでいるダークエルフの間に立って視界を遮る。一応来る前に、別の女性に見える遮蔽の遺物をリリアーナとジネットに付けて貰って正解だった。ジネットは言うまでもないがリリアーナも元聖女なのだ。


「ダークエルフが居るのは驚いたね」


「はい、若い者には好奇心が大きい者が多いですが、まさか魔の国から出ている者がいるなんて」


少しだけ索敵密度を濃くする。ポツポツとだけど他にも居るな。だがコレットにメリットがある。友達だ。

困ったことに長命種と普通の人種の間には寿命という大きな壁がある。リガの3人衆だってこの子達よりずっと早くいってしまうだろう。それを考えたら同じ長命種の多い学園はいい環境だと言える。それにコレットは、人間の俺とのハーフと言われても分からないくらいの外見だ。大丈夫だ。いじめとかは無いはずだ。あったら俺が直接乗り込んで……!


「あ、あそこが学校!?」


おっと思考が逸れた。ソフィアちゃんの言う通り、そこには大きな校舎がどんと聳え立っていた。


こんな校舎がまだいくつもあるとか、この街どんだけ広いんだ?あ、あそこに申し込みが出来そうな場所と人が。大人3人と子供3人でお願いします。あと婆さん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る