父
さて、悪ガキに春が来たからには、庭の雪は遠からず融けてしまうだろう。しかしそれまでに終わらせないといけない事がある。それは……。
「パパパワー全開!」
「えへへ!」
「えっへえっへ!」
「わあ早ーい!」
雪遊び!
今俺はパパであり、子供達が乗っている急遽作成したそりっぽい物を引くトナカイだ。つないだロープを引っ張り庭の中を爆走する。
厚着して毛糸の帽子にマフラーと手袋をしている、モコモコのすんばらしく愛らしい子供達も大喜びで笑っている。写真もジネットが撮ってくれているから完璧だ。
⦅ボクも乗る!⦆
⦅私も⦆
なにい!? タマ警備隊長はともかく、ポチ警備隊長!? 君は同じく引っ張る側の筈じゃ!? 柴犬はそり犬じゃないから仕方ないのか? まあいっか。
「パパもっと!」
「もっとー!」
「ひひーん!」
あ、これは馬の鳴き声だ。でもトナカイの鳴き声なんか知らんぞ。いやそれよりスピードアップをお望みだ! 行くぞおお!
◆
「えい!」
「あ、コレットちゃんやりましたねー?」
「えっへえっへ!」
「仕返しです! そりゃ!」
「きゃー! ねーねたすけてー!」
「あ、私を盾に!?」
コレットはどうやら雪玉遊びが好きになったようだ。今もルーに雪玉を投げてから逃げ回ってソフィアちゃんを盾にしている。クリスは。
「えい! えへへ! クーのかたちー!」
⦅ボクもする!⦆
⦅猫の型取り⦆
ふかふかの雪にダイブして自分の型を取っている様だ。しかしポチとタマよ。まるでカエルの様な型になっているぞ……。
さて、俺の方も取り掛かろう。芯の雪玉をぎゅっと。よし、多分これを転がして行ったらいいはずだ。雪国出身じゃないから自信は無いが……。最悪の場合リリアーナの魔法でどうにかしてもらおう。
あ、そうだ!
「凜は雪だるま作ったことある?」
「え? はい、子供の頃にあります。作るのですか?」
「うん。芯の雪玉転がすだけでよかったっけ?」
「はい、地面に少し押し付けて均等に転がせば出来るかと」
「おお、ありがとう!」
よかった、東方にも雪だるまはあったみたいだ。作り方も合ってたしやるぞ!
「パパなにしてるの?」
「ころころ?」
「おじさん?」
流石は子供達。変わっている事に対して興味津々の食い付きだ。これからずっと変わったことしようかしら。
「今雪だるまって言うの作ってるんだ」
「だるまさんがころんだ?」
「だるま?」
「動いちゃダメなの?」
「そうそうそのだるまさん」
どうやら遊びで何度かやっているだるまさんが転んだを覚えていた様だ。これが一番うまいのはコレットで、ダークエルフ特有の気配を察知する能力が備わっているのだろう、俺が振り向こうとするとピタッと止まる。次にソフィアちゃんで、クリスは走るから俺が振り向くとブレーキが効かず、そのまま抱き着いてしまうことがしばしばだ。負けた罰は、俺に抱っこされながらだるまさんが転んだの続きになる。
「よし、さあさあ皆で押して頂戴な。パパはもう一個作るから」
「はーい!」
「ころころ」
「なにができるのかな?」
うーむ、ちょっとコレットとクリスが押すには大きいかなと思ったけど、全くそんな事を感じさせずにどんどんと雪玉を大きくしていく。やっぱ同年代に比べたら圧倒的に身体能力高いよなあ。同年代で思い出した。学校見学延び延びだけどそろそろ行かないと。はあ、ガキの頃は勉強嫌だったけど、歳食ってから大事だなあって思い知らされる。お袋と親父もこんな気持ちだったのかねえ。だから……! 涙を呑んで子供達の旅立ちを………! ううううううう!
「学校なんだがね、ちょっと予定が変わってソフィアも絡んでき始めたんだよ」
「ぬお!? びっくりした!?」
子供達の雪玉の雪を取らない様反対側で丸めていると、突然婆さんが現れて話しかけてきた。俺の感知網を潜り抜けるとはこの婆幽霊なんじゃ……。成仏しろよ。
「自分の世界に入り過ぎなんだよ。フェッフェッ」
嘘つけ。霊体だからだろ。
「それでソフィアちゃんの学校がどうしたって?」
「ああ、当然だけど今小大陸に学校なんてものは無い」
「あ」
言われてみりゃそりゃそうだ。みんな生きるために必死に逃げてきた人たちなんだ。復興優先で教育機関はどうしても後回しになるだろう。
「だけど親は出来るなら教育を受けれる場所に入れてやりたい。離れ離れになっても、当人がどう思おうとね。フェッフェッフェッ」
こ、この婆、2重の意味で俺のこと言ってるな?
「じゃあ近場の港の国で? それともエルフの森?」
「港の国はまあ、航海術を習うならいいけどねえ。それと森の方ははっきり言って気が長すぎる。卒業するに20年30年は見積もった方がいい。生まれも育ちも森でならいいけど、よそから来たエルフはその時間感覚が合わないんだよ」
そら合わねえわな。勉強が大事とは言ったけど、30年はしたくねえ。
「じゃあ魔法学院?」
「最有力はね」
ははあ、そうなるとお別れと思ってたソフィアちゃんと子供達は学院で再会するのか。そりゃいい。
「婆さんが最有力って言うなら、やっぱウチの子達も魔法学院で間違いないな」
「そこで本題なんだけど私はそこを知らないんだよ」
「はい?」
何でだよ婆さん! どういう基準で最有力になったんだよ!
「伝手を使って幾つかの場所の教材を取り寄せて貰ってね。一番良かったのがたまたまそこだったのさ」
多分またあの長老の爺さんなんだろうなあ。こき使われて可哀想に。
「それで本題って?」
「何でも聞けば貴族やら大商店の家族も、よく見学に訪れるそうじゃないか」
まさか……。
「一度に済まそうじゃないか。フェッフェッフェッ」
◆
「パパこれくらい?」
はっ夢か!? ふう、婆さんと行く学校見学ツアーと言うトンでもない悪夢を見てしまった。
「そうそうこのくらい。ちょっと離れててね」
うむ。ちょうどいい感じの雪玉だ。子供達の方を当然頭だな。よいしょ。
「くっついた!」
ふふふ。まだここからだよ。
"倉庫"から目、口、鼻、手を取り出して。
「これを付けてみて」
「パパここ!? おくち!」
「おめめ!」
「この枝手でいいのかな?」
あとは仕上げだ。
「タマ隊長!」
⦅了解【永遠に 凍てつけ 動くな 不変となれ】⦆
タマ隊長の魔法で、日差し如きでは融けないパーフェクト雪だるまが完成した。
「完成しました雪だるまです!」
「えへへ!」
「ゆきだるま!」
「わーい!」
子供達もニコニコ笑顔で雪だるまを眺めている。いやあ、作った甲斐があった!
「皆、写真を撮るわよ」
おお! カメラを構えたジネットがこっちを!
雪だるまを真ん中にして、はいチーズ。
◆
素晴らしい我が家の宝物が一枚増えた。早速アルバムに。
「聞き忘れたんだけど、いつ行こうかね?」
夢じゃなかったかあ……。
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