北の国4

「は?」


(親子だな全員そっくりだ。はっ!? という事は俺と子供達も!)


サファイア家全員の素直な感想である一言を聞き、ユーゴは自分の子供達に想い馳せながら、エドガーの足に抱き着いている少女を観察する。


(精霊だな。これでエドガー君の容疑は晴れたか。しかし言葉を喋れるのは分かるが、人型なのはどういうことだ? 前言撤回、まだ容疑者だ)


「おいてめ……君は誰かな?」


(ははあ、一番頭が上がらないのはお母さんなんだな。録音させてくれないかな。そしたらコレットとクリスにエドガーを合わせられる)


知らない内に少女誘拐の容疑者扱いをされているエドガーは、つい普段通りの言葉使いで少女に話しかけそうになったが、自分の母親の目がギラリと輝いたのを視界の端に捉えてしまい、慌てて言葉使いを改める。成人に対してならお目こぼししてくれるエドガーの母だが、年少の者へてめえなどと口走れば後で雷が特大の雷が落ちていた。


「私が分からないのエドガー?」


「いや、そう言われても。誰か心当たりありますか?」


(有罪ですな。位階を考えるとカークじゃないとエドガーの首は硬くて切れないか。後で知らせておかないと)


薄っすらと涙を流しながら自分を見上げる少女に、流石のエドガーも困惑気に家族へ助けを求める。


「いや心当たりない」


「あーごめんね。ちょっと心当たりが無いんだ」


「そんな!? お隣さんに遠くから雪玉ぶつけた時も、暑いからって煙突から急に雪が落ちてきたことにして、暖炉を雪で一杯にした時も一緒だったじゃない! 後他にも」


「何で知ってやがる!?」


(エドガー後ろ後ろー! お袋さんの顔がヤバい!)


家族全員覚えが無いと首を横に振るのを見て、エドガーが改めて少女に問うと、まさかまさか、自分がまだ子供の時の悪戯を暴露されてしまい、慌てて口を押えるももう遅い。父親の方はまだ男だから小さい頃の悪戯を理解している様だが、母親の蟀谷にはそれこそエドガー似のふっとい血管が浮き出ていた。


「私よ! 北の国の雪の精、エイラよ!」


「あ? ああ!? まさかお前、俺がガキの頃によく話してた雪の精か!?」


「そうよ! ああエドガー!」


(めでたしめでたし。さあ帰ろうか、皆が待ってる。今日は俺が跳び箱になって子供達に跳んで貰おう。はあ、お袋と親父の墓参りだけは行きてえなあ)


指を指して驚くエドガーと、感極まって再び彼に抱き着く雪の精エイラ、そして人を指さすなとその指をへし折りそうになっているエドガーの母親を見ながら、もうホームシックにかかっているマイホームパパユーゴ。ついでに言うと、なんだかんだ仲のよさそうな親子を見て、自分の唯一の心残りも思い出していた。


(つうか名前まであるんか。こりゃあよっぽど上位の精霊だぞ)


悲しいかな。エイラのことは二の次であった。


「えーっとエイラさん? エドガー君に助けてと仰ってましたが、何があったんです?」

(感謝したまえエドガー君。生きて帰れたらお礼の一つでも言うんだぞ)


「え? ひっ!? "終わらせる者"!?」


もう遅い気はするが、これ以上エドガーがボロを出す前に助け舟を出すユーゴ。しかしエイラから帰って来たのは悲鳴で、そのまま彼女はエドガーの体に隠れてしまう。


「だっはっは! やっぱロリコンは違うごはっ!?」


(だっはっは! この馬鹿ガキめ! 今、閻魔様の前ってことを忘れてやがったな! そのまま舌を抜かれちまえ!)


一部界隈のせいで慣れてしまった反応であったが、流石に見た目幼い少女にされるのはショックだったようで、何か酸っぱいものでも食べてしまったかのようなユーゴ。そしてそれを見て大笑いしたエドガーの方は、今自分の近くに誰がいるかすっかり忘れていたようで、両親から飛んできた大きな氷の塊を頭部にもろに受け、頭を押さえて地面に転がる羽目になった。


「えーっとエドガー君とはどう言ったご関係で?」

(こうなりゃまずは当たり障りない会話からだ)


「ず、ずっと一緒の人よ」


「はあ、それはそれは」

(どれ、今楽にしてやろう)


「今までちょっとだけ離れていて寂しかったけど、エドガーとは死んでも一緒だし、来世でもずっと一緒。その先もずーっと」


「はあ」

(重ええええええええええええ! あれ、でもなんか覚えが)


エイラの答えに未だ頭を押さえて呻いているエドガーの介錯を決意したユーゴであったが、彼女の言葉に二の句が継げれなくなってしまう。


「エドガー大丈夫?」


「お、おう……」


(写真撮っていいかな? 次に悪ガキがロリコンなんて抜かしたら見せてやる)


「そ、それで何があったんだエイラ?」


「うん……。あのね……その」


「まあとにかく言ってみろや」


見た目少女のエイラが蹲ったエドガーの頭に手を乗せているのを見て、邪な考えを浮かべてしまうユーゴ。そんな彼と自分の家族をほっといて、2人は自分達だけの空間を作り上げていく。どうやら思ったよりも2人の絆は強いらしい。


「多分氷の海に居ると思うの……」


「何がだよ?」


「狂った炎の精が……」

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