家族旅行9

生きてる? 生きてるよな俺? 生きてる!


あの婆! 昨日の別れ際にした意味ありげな笑みはこれだな!? 知ってたならちょっとだけでもいいから栄養剤くれるとかしろよ!  こんな人生送ってるから、ベッドの上で死ぬのが望みだけど、全く違う意味で死にかけたわ!


それにしても裏組織の連中め、悪さしないかちょっと気配を探っただけなのに、慌てて転移で逃げ出しやがって。気づいたのは盗人の神に気に入られてる変わり者だな? お前らが何もしないならこっちもしねえよ! こっちは夫だから戦略的撤退出来ないんだぞ!? 今度会ったらちょっと脅かしてやる!


「ん。……あなた?」


あ、皆さんおはようございます。お風呂入りましょうか。



「フェッフェッフェッ。なんだい生きてたみたいだね」


このクソ婆ああああああ!? 朝一番のセリフがそれかあああ! 皆真っ赤になってるじゃねえか!


「おはよー!」


「おはー」


「みんなおはよう!」


うう子供達。なんて素晴らしい挨拶なんだ。いいかい? 優しいお婆ちゃんの本性はこれなんだ。皆は絶対に似ちゃだめだよ?


「おはようー。ソフィアちゃん、コレットとクリスはいい子に出来てた?」


「うん! 皆でお婆ちゃんに引っ付いて寝たの!」


「そっかあ。よかったよかった」


婆あああ! 羨ましいぞおお! にやにや笑うんじゃねえ!

なんだこの敗北感は!? 俺のパパ力が婆の婆力に負けたと言うのか!? そ、そんなはずは!?


「パパだっこ―」


「コーもだっこー」


「勿論だよ。勿論。さあおいですぐおいで」


ふへへ。へっへっへっへ。


「さあ朝食に行こう!」


勝ったな。


「おじさん今日はどうするの?」


「この街の近くにはもう一つ観光名所があってね。風の岩場って言うんだけと、風の魔力が強いみたいで、そこはちょっとだけ浮いて動けるんだって。そこで遊んでから家に帰ろうか」


朝食を食べに向かう途中、ソフィアちゃんが今日の予定を聞いて来た。行先はちゃんと決めてある。子供連れに人気の場所だそうで、遊園地なんかないこの時代、子供が遊べる所があるのもユラの街が観光で栄えている理由の一つだろう。まあ、浮くだけなら魔法使いが一杯の我が家だ。簡単にできるだろうが、自分で動けないからなあ。しかし、子供のころを思い出す。なんかビニールで出来た大きなキャラクターの中に入ると、下から空気が出ているアトラクションがあったような無かった様な。


「お空飛べるの!?」


「そんなに高くはないみたいだけどね」


天高く子供がぶっ飛ばされたら、とてもでは無いが観光地としてお勧めされないだろう。


「楽しみ!」


「だね! はっはっは!」


天気は……いいな。雨降ったらちょっと一肌脱ぐ必要があったけど、これなら大丈夫だろう。



「うわあすごい! 風が下から吹いてるよ!」


「ママ! びゅーびゅーしてる!」


「ういてる!」


やって来ました風の岩場。子供達の言う通り、目に見えて風が岩場のあちこちから吹き出している。しかも魔力を含んでいるせいか、風量以上に重いものでも浮かせれるようだ。鼓膜とか目とか心配点もあったが、これなら大丈夫そうだ。現に余所の子達も浮いて楽しんでいる。


「おお、これならわしでも浮けるのう。どれどれええええええ!? いかああん!? スカートの事忘れとったあああ!」


「お、おひい様!?」


「旦那防御の術!」


まずは自分がと興味津々で風の中に足を踏み入れたセラだったが、自分がスカートを履いている事をすっかり忘れていたようだ。浮きながらバタバタとスカートが捲られ、慌てて俺も風の中に飛び込んでセラをキャッチする。風で浮かなかったので自分でジャンプしたが。


「こ、このセラ・ナスターセ、一生の不覚じゃた」


「あはは! 私も! えい!」


「クーもいく! クーもいくの!」


「えっへえっへ」


俺の腕の中でぐったりしたセラだったが、子供達には大うけだったようで、笑いながら次々と風の中へ突っ込んでいく。


「すっごおい! 私お空飛んでる!」


「ママ! パパ! みて!」


「えっへ!ぐるぐるー!」


大体俺の頭より少し上位を、スカイダイビングの様に手足を広げて浮いている子供達。


「コレット、そんなに回ると目を回すわよ」


「うふふ。皆こっち向いてー。写真撮りますよー」


「凜ちゃんお先です! とう!」


「なぬ!? 待たんかルー! ぬおお!? 目が回るう!?」


「だんな様にズボンを出して貰ったのじゃ。ちょっと着替えるから見といてくれ」


「はいおひい様。楽しそうで何よりでございます」


⦅ポチ! 護衛任務のため風に突入します! わわ!? わふっ!? くぅーん!?⦆


⦅空中護衛作戦開始。任務失敗。救助要請⦆


「フェッフェッ。風の外に急に出て落っこちないようにね」


ジネット達は子供達を微笑ましそうに、ルーや凛、セラは風に突っ込んでぐるぐる回っている。しかしポチとタマはちょっと軽すぎたかなー。勇んで突入したもののコレットとクリスよりも上に浮きそうになり、護衛対象にへばり付いている。


「誰が早いか競争ね!」


「えへへ! くーがはやいの!」


「ばたばた!」


⦅クリスのお手伝い!⦆


⦅援護開始⦆


いやあ来てよかった。バタ足でほんの少しづつ移動して、競争している子供達を見て心底そう思った。たがポチとタマよ、殆ど逆さまになっている君達がバタ足しても、援護になっていないぞ。


「来てよかったですね貴方」


「うんジネット。本当にね」


そうとも。本当に素晴らしい、素晴らしい家族旅行だ。

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