家族旅行6

sideアレクシア


「ママ。おててつないで」


「クーもー」


「お嬢様、坊ちゃま、わ、私ですか?」


石碑も見終わり、オアシスツアーで乗る4つ足鳥の厩舎がある城壁の外へ向かう途中、コレットお嬢様とクリス坊ちゃまが私を見て、手を繋いでと言われたので、思わず驚きの声を上げて、お二人を抱き上げているジネット様とリリアーナ様を見てしまう。


「あらクリス。アレクシアさんと歩きたいのね」


「むう。まあアレクシアなら……」


「えっへ。おててにぎにぎ」


「ママいこー」


「坊ちゃま、お嬢様。ぐす」


地面に降ろされたお二人が、私の手を握って前へ歩き出すのに付いて行きながら、感動して思わず涙が流れそうになるのを必死にこらえる。


「うむ。アレクシアも表情豊かになったのじゃ」


「セラ殿、私には全く分からないのですが……」


「まだまだ甘いのリンよ。ま、長い付き合いだからこそ分かるのじゃが、今にも泣き出しそうになっておる」


「はあ」


「まだまだ甘いですね凜ちゃん。今のご主人様みたいになる寸前なのです」


「おじさん大丈夫?」


「ひっぐ……。大丈夫だよソフィアちゃん。ぐす。嬉しなきだから。これが家族旅行……! ちーん!」


流石はおひい様。おひい様の言う通り、気を抜くと感動して泣いているユーゴ様と同じようになってしまいそうだ。

しかし坊ちゃまとお嬢様の何と可愛らしい事か。今も小さな手でぎゅっと私の指を掴んでいる。


「ぐす。よし、城壁の外ならいいだろう。ポチ警備隊長! タマ警備隊長! 護衛を頼むぞ!」


「わん!」

⦅うん!⦆


「にゃあ」

⦅了解⦆


「ポチもにぎにぎ」


「タマも」


その上で空いた方の手は、城壁の外のため人を気にする必要が無くなり、ユーゴ様の服の中から飛び出した、タマとポチの尻尾を握っておられ、更に可愛らしくなられている。


「お婆ちゃん、おじさん、四つ足鳥ってどんな鳥なの?」


「珍しい事に、その名の通り足が4つあってね。お馬さんを見た事ある? お馬さんがそのまま鳥になってるみたいな姿をしてるんだ」


「フェッフェッ。鳥と言っても羽はあるけど飛べなくてね。地上に適し過ぎて体が重くなった弊害さ。まあその分重いものが乗せられて、しかも気性が穏やかだから、旅人や行商の心強いお供だけどね」


「へー」


ユーゴ様の肩に乗ったままのソフィア様が四つ足鳥について聞かれていたが、実は長年城で勤務していた私も見たことが無かった。


「すいませーん。予約していたユーゴと申しますけどー」


「はーいただいま参ります。ほら、出ておいで」


「ママ! あれおうまさん!?」


「いえ、あれはお鳥さんです」


「おとりさん!? おとりさん!?」


ユーゴ様の声に応えて厩舎から出て来た係員の後ろから、続いて茶色の羽をして思ったよりもしっかりした足、短い首の四つ足鳥が姿を現した。

その姿を見た坊ちゃま達は、恐らく屋敷で毎日ユーゴ様がしているお馬さんごっこから、その動物が馬ではないかと興奮した声を上げられていた。しかし、私が鳥と言っても、庭によくやって来る鳥とは全く姿形も異なる4つ足鳥に困惑しておられた。


「わん!」

⦅クリス! コレット! ボクに乗る!? 乗る!?⦆


「にゃあ……」

⦅残念無念……⦆


「ママとのるー」


「ままとー」


「くぅん……」

⦅そっかー……⦆


そんな4つ足鳥達に嫉妬したのだろう。ポチは自分に乗ろうよと、坊ちゃま達の周りをくるくる回っていたし、自分の大きさを分かっているタマは、しょんぼりと項垂れていた。


「むむむ。コレット、ママと乗りましょう?」


「んーん」


「そ、そんな……」


「アレクシアさん、クリス達をお願いしますね」


「で、ですがリリアーナ様とジネット様を差し置いて……」


「うふふ。アレクシアさんもこの子達の母親なんですから、気にしなくていいんですよ? ねークリス?」


「うん!」


「お願いねアリー」


「はい……はい」


ジネット様がお嬢様に一緒に四つ足鳥に乗ろうと言われても、お嬢様は首を横に振られて、私の手を引いて鳥の方へと向かっていく。流石にお嬢様を説得しようとしたが、その前にリリアーナ様が私も……私もクリス坊ちゃま、コレットお嬢様の母親なのだから気にしなくてよいと……。


「ほらアリー。涙を拭くよ」


「申し訳ありませんユーゴ様……」


「気にしない気にしない。コレット、クリス。ママの言う事ちゃんと聞くんだよ?」


「うん!」


「はーい! いこー!」


思わず流れ出てしまった涙をユーゴ様に拭かれた後、坊ちゃま達に手を引かれて4つ足鳥の方へ向かう。


「さて……。今気が付いたんだけど俺は乗れるかな?」


「フェッフェッフェッ。さあて、生き物相手だから直接乗ると、坊やの大きさと重さのちぐはぐさに、変なストレスが掛かる可能性はあるねえ」


「だよなあ……。俺は止めとくか」


「え? 4つ足鳥は行商の荷物を括りつけられても移動できますよ?」


「いやあ、こう見えて結構重くて。どうぞお気になさらず」


「はあ」


四つ足鳥に乗ったあと、ジネット様達からお嬢様たちをお預かりし、しっかりと抱きしめていると、ユーゴ様とツアーの係員の話が聞こえてきた。

係員は困惑していたが、ユーゴ様は実際見た目と違ってかなりの体重で、その体は途轍もない筋肉の密度を誇っている。


「へっへっへ。家族旅行! 皆でお出かけ! そして俺は旦那さんでパパでおじさん! へっへっへ」


「コレットがアレクシアに取られてしまった……。いや、確かにコレットにとって母親なのだが、なんか、こう……」


「あらあら。いいじゃないですかジネットさん。うふふ」


「じゃあわしはだんな様の肩に乗るのじゃ」


「もふもふ。もふもふ……」


「凜ちゃーん。もふもふから帰って来ないですね。それならお馴染みの目覚ましを一発」


「お婆ちゃん! すっごく柔らかいね!」


「フェッフェッフェッ」


⦅ボク達が大きくなったら乗ってくれるかな?⦆


⦅要検討⦆


「ママ、どこいくの?」


「いくのー?」


「オアシスと言って、水が一杯あるところですよ」


私は、このご家族にお仕えできて本当に果報者です。

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