家族旅行5

sideセラ


「ちょっとお昼が早かったから、予約してるオアシスツアーに時間があるな……。街中央の石碑に行ってみる?」


昼食が終わったが、午後からだんな様が予約している、4つ足鳥に乗ってのオアシス行きにはまだ少し時間があるようで、街中央にある古代の石碑に行くこととなった。


「おじさん。石碑ってどんなの?」


「なんでも古代のエルフ、街の人が言うには聖エドットっていう人が書き残した石碑で、とっても神聖な場所らしいね」


「はん? エドットが石碑? 聖エドット? 神聖?」


興味があるようで、ソフィアがそうだんな様に問いかけたが、視線はだんな様の肩に乗っているわしをチラチラ見ている。どうやら代わって欲しい様じゃの。仕方ない。わしお姉ちゃんじゃから代わってやらんとの。


「ソフィア。セラお姉ちゃんが代わってあげるのじゃ」


「え!? いいの!?」


「うむ。なんせお姉ちゃんじゃからの!」


「わーい! ありがとうセラお姉ちゃん!」


「うむうむ。ぬお!? だんな様よ!? こらポチ! くすぐったいのじゃ!」


「はっはっは。婆さんなんか知ってるの?」


ソフィアの代わりに降りようとすると、だんな様に抱っこされてしまった。これはこれでいいのじゃが、だんな様の服から顔を出しているポチが、わしの顔を舐め回して困った。


「いんや、今さっき知らん奴になったみたいだね。リリアーナ。エドットは聞いた事あるかい?」


「え? はい。聖エドット様と言えば、神々と竜の戦争に参加されて多大な武勇を上げられた後、人種の生存圏を広げるため広大な砂漠を抜けて、砂の国の首都となる場所の礎を築いた偉大な方と聞いています」


「はあ、そうかい」


「お婆ちゃんどうしたの?」


「時間ってのは恐ろしいって再確認してたのさ」


「やっぱ幾つだよ……」


ふむ。リリアーナ殿の話を聞くとなかなかの偉人らしいが、ドロテア殿が吐いたため息は心底疲れた、いや、むしろあきれ果てた? かのようなため息で、何か高齢のドロテア様だからこそ知っている事があるのかもしれん。


「あはは! おじさんダメだよ! 急に回っちゃ! あはは!」


「ははは。ごめんごめん」


わーい!

はっ!? いかんいかん。ただだんな様が回っているだけで喜んでいるのを知られたら、大人のレディとしての尊厳が!


「だよね! セラおねえちゃん!」


「む!? う、うむ! その通りなのじゃ!」


「本当ぅ? それもう一回!」


「あはははは!」


「わーい!」


しまった!? 口に出してしもうた!


「おひい様」


アレクシア!? そんな微笑ましそうな顔で見てはならんのじゃ!


「ばーば。せいえどっと?」


「エドットでいいよクリス。あのぐうたらが聖だなんて、古代エルフが聞いたら全員倒れるね」


「エドットー」


「あのドロテア様? 違うのですか?」


「やったことを綺麗に話したら合ってるさ。まあ、石碑が見えたからちょっと見てみようかね」


む? 確かに石碑が見えてきたのじゃ。しかし遠くから見てもこのサイズ……。


「立派じゃのう。実家の城の門くらいあるのじゃ」


「はいおひい様」


「え!? セラお姉ちゃんのお家ってお城なの!?」


「ほほほほ。凄いじゃろう!」


「うん!」


石碑というのはもう少し小さいと思っておったが、街の中央と思わしき場所に置かれているその白く輝く石は、実家の城の門を思い出させる立派な物だ。

ふーむ実家か。お父様はどうしておるかのう? 子供ができなければわしとだんな様の子が次期当主? まだ早いかの。にょほほほ。


「いやあ、前来た時は見る暇がなかったけど、思ったよりもずっと大きいね」


「そうですね貴方」


「近づいたら、やっぱり見上げる大きさなのじゃ。しかし、あの字は読めんのう」


「リリアーナ読める?」


「とても古いエルフの文字です。ひょとしたら最初の文字かも知れません。我、遠き砂の果てに楽園を作る。刮目して見よ。でしょうかドロテア様?」


見上げる程の石碑に、これまた大きな字が彫られておるが、全く意味が分からんかった。しかし、流石はリリアーナ殿。古いエルフの文字でも読めるとは。


「意味は合ってるがね。最初期のは字の書き方でも感情を表してたのさ。ところがこいつは大分崩れてるだろ?訳すなら、おらぁこの砂だらけの先でトンでもねえ場所を作ってやる! てめえらの目をひん剥かせてやるからな! だね」


「婆さん。聞いてた話と別人なんだけど」


「だから言っただろう。別人だってね」


「わ、私のイメージが……」


「ママ。だいじょうぶ?」


「フェッフェッフェッ。まあリリアーナが言ってたのも間違ってはないさ」


時間が恐ろしいと言っておったのは、そう意味だったのじゃな。


「姉御ぉ。やっぱりマズいですって。こんな街のど真ん中に居るのは」


「いいのよ。むしろこんな観光客が一杯いる中に私がいるなんて思わないでしょう」


周りの観光客がそれぞれの話をしている中、吸血鬼のよく聞こえる耳が、そんな話をしている男女の声を拾い上げた。本人達は何か特殊な方法で話をしていたが甘いのう。

しかし、会話を聞くに女の方はどこぞの貴人かの?


「ん? この声……」


そう思っておると、だんな様もその男女の方を向いて、何かを思い出していた。


「間違いない。カサンドラさんお久しぶりですね。10年……は経ってないですかね?」


「え? うっ」


「え!? ちょ!? 姉御!? どうしたんですか!? 姉御!?」


じゃが声を掛けられた方は、顔を青くしたり汗をかいたりせず、何の前兆もないまま突然その場に倒れてしまった。男の呼びかけに全く反応しないところを見るに、どうやら気絶してしまっておるらしい。


「これに関しては冤罪だ……。腕利き10人から助けてあげたのに……」


「どうやってだい?」


「……」


「いつものかい。そりゃあ夢に見るくらいはするだろうねえ。フェッフェッフェッ」


なにやら自己弁護しているだんな様じゃったが、黙秘している事を考えるとなかなかの経験を倒れた女はした様じゃの。わしには王子様じゃったがの!にょほほほほ!


「はっ!? ひっ!? し、失礼しますううううううう!」


「ちょ!? 姉御おおおおお!?」


そんな事を考えていると、倒れていた女は意識を取り戻すと、脇目もふらずに逃げ出してしもうた。


「解せぬ……」


頼りになるだんな様なんじゃがのう。そこが分からんとはまだまだじゃの。

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