家族旅行3
side凜
ゆうごさまぁ
りんはややこがほしゅうごさいますぅ
はれ?もうおなかに
えへへ
わたしもははうえみたいな、りっぱなははになれるでしょうか?
えへへ
わたし、りりあーなどのにまけないくらいうみますぅ
「とう!」
「あいたっ!? ルー!?」
「おお。お姉ちゃんがリリアーナお姉ちゃんにしてた、チョップを真似したら上手くいったのです」
「なんだ!? 何があった!? 私のやや子は!?」
「まだ産んでもいないのです。そういうボケはリリアーナお姉ちゃんの専売特許ですよ」
「何の話だ!?」
ここは……市場か?いつ着いたのだ?全く記憶にない……。それに周囲の目が妙に生暖かい様な……。
「完全にアッチの世界に行ったまま、ご主人様の体に頭をぐりぐり擦り付けるのはいいですけど、すーはーし始めたので戻って来て貰ったのです」
「なんだと!?」
そ、そんなはずはない! 天下の往来でそんな事は!? そうだリリアーナ殿に聞けば脚色も揶揄いもなく、本当の事を教えてくれるはずだ!
「リ、リリアーナ殿!?」
「うふふ」
ダメだ! 微笑ましそうな笑みが返って来るだけだ! まさか本当に!?
「勇吾様!?」
「はっはっは」
あああああああああああ!? もうだめだああああああああ!
もうお嫁にいけない……。あ、もう勇吾様のお嫁さんだった。
えへへ
「ていっ!」
「あいたっ!?」
「2度ネタはいいのです」
「ママ。なかよし?」
「うふふ。そうねクリス。ルーちゃんとリンちゃんは仲良しさんね」
クリスやコレットにまで優しそうな目で見られている……うう……恥ずかしい……。
い、いや、折角市場に来ているのだし、気を取り直して見てみよう。何とか話題を変えねば!
「ん? 変わった武器だな?」
ふと武器屋の展示品が気になって視線を向けてしまう。何というか、刃の反りが大きい。刀にも反りがあるが、ここにある剣はどれもその反りが極端な物ばかりだ。
「ああ、東方の人かい。シャムシールって言うんだけど、向こうには美術品として少し流れてるだけみたいだから、あんまり有名じゃないらしいね。なんだっけ……そう、半月刀とか呼ばれてるとかなんとか」
「ああ、これが半月刀か」
話しには聞いた事があるが、保守的な水草では嫌ったのだろう。見るのはこれが初めてだった。だが……自分も欲しいとは感じない。居合の業も難しそうだ。……はっ!?
「なんとか話を逸らそうとしたら、旅行に来たのに色気、食い気より武器気に走ったことに気が付いて、はっとしてしまったうっか凜ちゃんなのでした」
「る、る、ルー!?」
こ、心を読むんじゃない!
「はっはっは」
「勇吾様ー。ルーがいじめるのです!」
「よしよし」
「えへへ」
「旅行で開放的になって童心に帰ってるのです」
私達のやり取りを笑って見ているユーゴ様に、傷ついた心を慰めて貰おうと抱き付いたら、優しく頭を撫でて貰えたので、思わず笑みがこぼれてしまう。
だがルー! 横で煩いぞ! たまにはいいだろう!
「パパ。おなかすいたー」
「すいたー」
「おっと。お腹空いたのねコレット、クリス。パパに任せなさい。女将さんにいいとこの予約取って貰ってるから行こう。……ちょっと早いかな? まあ早かったらパパが何か出そう」
新婚旅行……お食事……夜……ふふふ……はっ!?
「おお。今度は自分で戻って来たのです」
「手を下げろ!」
全く! 油断も隙も無い奴め!
◆
8つ鳥亭
「まあ結局の結論はだ、"金のオアシス"をこれ以上デカくさせねえ。これに尽きる訳だ」
ユラの街の高級レストラン、8つ鳥亭には様々な男達が壁に控え、その中央の円卓には裏組織でも有数の武闘派"百舌鳥"のボス、バガンが食事をしながら、同じテーブルに座る傘下の組織の首領たちに語り掛けていた。
朝早くからユラの街に訪れていた彼等は、ここで夜に開催される会合の打ち合わせを行っていたのだ。
「出来るなら首を取りたい。だが、あの爺の傍にはいつも"旋風"が警護してやがる……。おい、特級はやっぱり無理だったか?」
「申し訳ありません……」
「ちっ。まあいい。"旋風"相手にしながら、爺を殺すのが無理だってのは俺にも分かる」
顔中刀傷だらけで、食事をしながらも殺気を放っているバガンに、一人の部下が"金のオアシス"のボス、コルトンの暗殺依頼を、伝手のある特級冒険者にすべて断られた報告を汗を滲ませながらするも、意外にも叱責の声が飛ぶ事はなかった。
バガンにも分かっているのだ。コルトンの首を取るとどれだけの騒ぎに成り、しかも彼の警護を務める"旋風"という男の恐ろしさを。
だがそれを理解していても、バガンの殺気が収まる事はなかった。祈りの国に目を付けられないように、人身売買や麻薬を扱っている"百舌鳥"からすると、違法なギャンブルを行っている"金のオアシス"はそのような事を心配する必要が無く、その資金力に大きな差があり、正攻法では単独で太刀打ちできないのだ。
「"鱗粉"は当てにならねえ。"鯨の船"なんてもってのほかだ」
「あの……お客様……」
「あ?」
苛々と足を揺するバガンと、部下たちがボスの不機嫌さに冷や汗を掻いている中、この店のオーナーが意を決したように声を掛ける。
「その……そろそろお時間でして……」
先に街の有力者から予約を受けていたオーナーは、明らかに堅気でないこの連中に対して、最初に貸し切りを断っており、それならその予約客が来る前までと提案されたので渋々承諾したが、交渉しに来たのは下っ端も下っ端。そんな権限などあるはずもなく、ボスであるバガンもそんな事知るかと無視して、護衛に黙らせろと顎をしゃくったのだった。
「あのーすいません。ホワイトブロックの女将さんに紹介された者なんですが、少し来るのが早かったですかね?」
そんな護衛達がオーナーを黙らせ、厨房の料理人たちにお前らは酒と料理を出せと言いに行こうとした時、暢気な声の東方風の男が、扉から顔だけを出して中を伺っていた。
「あれ? お取り込み中?」
いかにも表の人間ではない強面の男達を見ても、まだ暢気な様子の男に、こいつがその予約客かと思いながら近くの護衛が店から叩き出そうとした時であった。
「あっ!? あっ!? あっ!?」
ガチャンと食器の落ちる音を聞き、その音の出所を護衛の男のみならず、壁に待機していた者達も、テーブルに座った首領達も見ると、バガンとその近くにいた古株の幹部達が、真っ青な顔をして扉から顔だけ出している男を凝視していたのだ。
「うん? どっかで…………。その顔中の刀傷……ああはいはい! ひょっとして30年前くらいに、俺が竜とやり合ってた時にいたチンピラ達か! 思い出して来た! いやあ、あの時は力の制御が甘かったから、山が2つ吹っ飛んじゃったんだったよなあ」
「ひっ!? ひいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」
「うわああああああああ!?」
「ボス!?」
「どうしたんですか!?」
「ボスを追え!」
「いったい何が!?」
「逃げろ!逃げろおおおおおお!」
「山が、山が落ちて来るううううううう!?」
「……なんか悪いことしたみたいだな」
本人は昔あったことを思い出して、大声を出しただけであったが、バガンと幹部達にはまさに竜の怒声そのもので、バガンは足を縺れさせながら裏口から飛び出し、中には倒れてしまうも這いながら、一刻も早くこの場を逃げ出そうとしている者までいた。
「片付いたようだね」
「……腑に落ちん」
「どんな消し方をしたんだい?」
「山2つ持ち上げて俺を潰そうとしたから、それごと一気に」
「ああ、重力の。そんな奴もいたね。ま、そりゃビビって逃げるってもんさ」
「うーむ。あ、オーナーさん?予約してたユーゴと言います。すいませんちょっと早く来てしまって」
「い、いらっしゃいませ。少々お待ちください。今すぐ片付けますので。お時間通りにお食事を運ばせて頂きます」
バガン達を追い、人がいなくなった8つ鳥亭の中で、ドロテアと昔話をする東方の男、ユーゴがオーナーに気が付き手を差し伸べる。そしてこのオーナー。最初の言葉がこれな辺り、間違いなくプロであった。
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