家族旅行2

sideルー


ホテルを出た後、順調に市場に……とはいかなかった。

お姉ちゃんたちに見とれた男の人達が立ち止まったり、何とか声を掛けようとしていたのだ。まあでも、こっちもかなり大所帯だから、実際に声を掛けて来る人は極少数だった。それでも声を掛けて来る人はいるにはいたのだが。


「美しい御方。どうか私と「すいません私の妻ですので」


「わたし、国元では富豪で「すいません私の妻ですので」


その度にご主人様が間に入って妻ですと強調して追い払うから、最初は煩わしそうにしていたお姉ちゃんたちも今ではルンルン気分だ。そのうちくっ付きだすだろう。


「異国の御方、貴方のお名前を「すいません妻ですので」


「ゆ、勇吾様ぁ」


凜ちゃんが真っ先にくっ付いた。うんうん。これが若さというものだ。というわけで。


「ご主人様は頼りになるのです!」


「はっはっはっ!」


私も凜ちゃんとは反対側にくっ付こう。お姉ちゃんが裏切ったな!? と言わんばかりに私を見て来るが、こういうのは早い者勝ちだ。素直に諦めて欲しい。


「つま? ママ?」


「つままま?」


「私知ってる!奥さんの事なんだって!」


「おくさん?」


ご主人様の腕に乗っているコレットちゃんとクリスくんが首を傾げているが、ソフィアちゃんの答えにもよく分かっていない様だ。


「ママおくさん?」


「そうよクリス。ママはパパの奥さん」


「パパおくさん?」


「はっはっは。パパは旦那さん」


「だんなさん?」


「うふふ」


やっぱりよく分からないと首を傾げる子供達が可愛らしすぎて、皆が笑い声をあげてしまう。


「ふおおお!パパあれ!あれなに!?」


「あれ!あれ!」


「叔父さんなにあれ!」


「はっはっは。暴れない暴れない。それ、降ろすからじっとしててね」


「ママと手をつなぎましょうね」


「そらソフィア。私の手を掴んでな」


だがそんな首を傾げていた子供達も、市場につくと目新しいものに興奮して暴れ出した。降ろされた子供達は言われた通り手を繋いだが、それでも体は前のめりで急かそうとしている。


「とう!うむ。絶景じゃ」


「むむむ」


そんな中、空いたご主人様の肩の上にセラちゃんが飛び乗った。最近は良くソフィアちゃんがいたから、チャンスを伺っていたのだろう。だがお姉ちゃんが羨ましいぞと言わんばかりに唸っているのは、恥ずかしいから止めて欲しい。なんならご主人様の首元から頭が出ている、ポチちゃんとタマちゃんにも羨ましそうにしている。


「パパ!くっきー?ぱん?」


「ははは。賢い子ですねお客さん。これはパンさ」


「ぱん?パパ。ぱん!」


「へっへっへ。いやあすいません」


「変わってるねお婆ちゃん」


「ああ。こっちは薄く延ばして固めたのが多いからね」


確かに変わっている。凜ちゃんから聞いた事がある、おせんべいがひょっとしたらこんなのだろうか。凜ちゃんは……。


「勇吾様ぁ……」


だめだ。完全に別の世界に旅立って、ご主人様の体に頭を擦り付けている。幸せオーラ全開だ。これは当分帰ってこないだろう。


「コレット、ちょっとじっとしてて。ふむ。店主、その子供用の民族衣装をくれ。女の子用2つと男の子用でだ」


「うふふ。クリス、これは香水よ。あら? いい香りのお香ですね。サボテン樹の? お一つ頂けませんか?」


「甘いトマトですか。これならおひい様も生で」


「日持ちする菓子を適当に包んでおくれ」


「む!? この匂い! ブドウの酒じゃな!? だんな様よ!」


「あ、ほんとだ。ブランデーだ。すいませんこれを下さい」


皆が色々と独特な物を買っているが、私は日用品以外あまり興味がないし、家族と一緒に居られたら満足だから買いたいものがない。凜ちゃんも普段は似た感じだが、今買ってないのは完全に意識が別の世界にいるからだろう。


「そこのお嬢さん。宝石には興味がないかい?」


「あはは。すいませんー」


魔道具に収められた宝石や装飾品を展示している商人に声を掛けられたけれど、私にはこの指に嵌めている指輪があるから他に必要ない。


「ふむ。やはり砂の国の果実は独特だな」


「そうですね社長」


聞こえてきた社長という単語が気になって声のした方を見ると、そこには日に焼けた肌の大男が果実を手に取って見ていた。……磯の匂い。海の男。戦う体。社長?違う。海賊?でもブランクがある。それもかなり長い。海賊上がりの社長?なら海運業。興味。思案。それと僅かな警戒。表と裏の兼業。ブランクを考えると裏から表へ。中々変わった人だ。


「うん?……んん?」


ご主人様も興味を持ったのか。違う。疑念。何かを思い出している。知人?


「ん?」


向こうも気が付いた。


「あ!? えっ!?」


驚愕。恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖


いやあ凄い。大男と付き人の2人とも恐怖一色だ。まるで丸腰のまま、大型の魔物に出くわしたような感情の色をしている。


「あの孤島以来ですな。いやあ懐かしい。なんでも商売の方が上手くいっているとか」


「あ、え、その」


手足の震え。定まらない視線。発汗。また恐怖。ご主人様は久しぶりに会った相手と世間話しているつもりだけど、向こうは今にも逃げ出しそうになっている。


「ど、ど、どうしてこちらに?」


「いやあ、家族旅行をしてまして。ははは」


「はは、はははは。あ、よ、用事を思いだしまして!し、失礼します!」


「はあ。うーむ。あの人らには何にもしてないんだけどな。そんなに逃げなくても……」


明らかに逃げ去った2人を見ながら、ご主人様がポツリと言っているが私もそう思う。ご主人様は優しくて紳士的だから、向こうが刺激しない限り何もしないのに。


「フェッフェッフェッ。何をやった時に居たんだい?」


「いやあ、邪教徒が召喚した悪魔を吹っ飛ばした時に。まあ、近くにあった島よりはデカかったけど、大した奴じゃなかったぞ。リリアーナの時の悪魔とか、前の亀みたいな竜の方がよっぽどだった」


「フェッフェッフェッ。物差しが違うのさ。それに、魔王級と竜の長を引き合いに出したらどれもちんけなもんさ」


「うーむ。あ、裏組織の会合があるって聞いたけどもしかして……」


「フェッフェッフェッ。ここであるかもねえ。まあ、闇組織のアホならとにかく、単なる裏ならそう心配せんでもいいだろう」


「んだな」


面白がっているドロテアお婆ちゃんと、まあいいかとご主人様が話している。何と言うか2人とも流石だ。まさに心配事の物差しが違うのだろう。


「うーむ、蒸留酒というのか。楽しみじゃ」


「勇吾様ぁ……」


まだご主人様の肩にいるセラちゃんも大物だ。全く気にせずに買ったお酒を楽しみにしている。

それと凜ちゃんには、そろそろ現実に帰って来て貰おう。



ー鏡を睨みつけてどうしたのだ?全部己に返って来ると言うのにー



うんちく


闇組織


堕ちた神、あるいは竜を崇めて人種全体に危機をもたらす存在から、やりすぎた暗殺、誘拐など、人種の弱体化を招きかねないものなど様々だが、いずれも人種の生存を直接、間接的に脅かすと判断された存在で、祈りの国が認定している。


暗殺は明確に人種の命を奪っているため認定されやすいが、誘拐、人身売買、麻薬などを扱う裏組織が、闇組織に認定されるのは余程やりすぎた場合である。


元々裏組織と呼ばれている存在は、国家からの捜査、逮捕を受けながらも活動しているが、闇組織に認定されると、祈りの国が本気で消しにかかってくるので、余程のことがない限り最後の一線を越える事はない。


おまけ


祈りの国のお仕事


・一般的犯罪:自分の国でどうぞ。人足りないんで。


・一般的重犯罪:自分の国でどうぞ。そんな暇ないです。


・一般的裏組織:自分の国でどうぞ。ああ忙しい。


・やりすぎ一歩手前裏組織:じー


・やっちゃった裏組織:殺す


・一般的闇組織:殺す


・一般的邪教徒:殺す


・一般的竜信奉者:殺す





ーーーーー壁-----←ここからアレを呼ぶか脳裏にちらつく。


・極めつけの個人(例・"7つ"、"骸骨"):勇者を投入してでも殺す


・極めつけの組織(例・杯):勇者、守護騎士団を全投入してでも殺す


・政治的大混乱(例・小大陸来訪):関係者集合!場合によっては教皇の名前で収拾される。


・国家間戦争:人種にそんな余裕あると思ってんのか!? あ!? ぶっ殺すぞ!?(即時停戦を要求、周辺各国に工作する)





ーーーー大陸危機の壁----←ここからアレを呼ぶか真剣に悩み始める。&自分から出てくる可能性がある。


・魔物の異常繁殖、並びに人種生存圏への頻繁な攻撃:ちょっと皆で話し合おう!エルフの森も来て!特級はうちで雇うから!


・極めつけの個人、組織の明確な危険活動(例・杯のグゴ山での活動、残党の海の国での活動):ヤバい!何としてでも止めないと!遺物を引っ張り出せ!特級とその国の勇者を動かせるだけ動かせ!


・竜の活性化、並びに休眠場所の察知:全員集合うううううううううううううううううう!





ーーーー大陸陥落危機の壁----←もう知らねえぞ!呼ぶからな!はい呼んだ!  というか自分から出て来る


・魔物による人種生存圏の崩壊の危機:よろしくお願いします先生!


・竜、悪神、別世界の超越存在の出現:よろしくお願いします先生!



今日も祈りの国のお陰で大陸は平和です。

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