家族旅行1

始めは3人称で書いてましたが、悩んだ結果、家族側は1人称で書いてみます。



sideジネット


「こちらがお部屋になります」


「ありがとうございます」


女将に案内された部屋は……確かに街一番と言われるだけはあるようだ。夫の広い部屋よりも更に二回りは広い空間に、落ち着いた艶のある木造の家具や調度品が数多く置かれている。確か砂の国は良質な木が無いから、木造の調度品は高価だった筈。


子供達のベッドは夫が"倉庫"と呼んでいる場所から取り出すので、特に問題は無いはずだ。どうやら夫は普段使っている子供用ベッドでなければ、コレット達が寝ないのではないかと心配して持ってきたようだ。


「ママ!おりる!」


「ママ!」


「少し待ちなさいコレット」


「もうちょっと待ってね」


その子供達だが、広い部屋に興奮して腕の中から降りようとしている。しかし今降ろすと走り回るのは目に見えているので、女将が部屋から出て行き壊れそうな調度品を片付けてからだ。


「それではもう一つのお部屋に案内させて頂きます」


「お願いします」


「坊やは来なくていいだろうに」


「まあまあ。行こうかソフィアちゃん」


「うん!」


「クーも!クーも!」


「コーも!」


⦅ボクも!⦆


⦅私も⦆


「よーしそれじゃあ持ち上げちゃうぞー。皆はちょっと休んでて。この後市場に行こう」


ドロテア……殿かソフィア、あるいは両方が気になったのだろう。夫がもう一つの部屋まで付いて行こうとしたが、自分も行くとコレットとクリスが腕の中でさらに暴れ出したので、夫が両腕にコレットとクリス、頭の後ろにソフィア、前にへばり付いたポチとタマの、家でよく見かける姿のまま女将の案内に付いて行った。


「あはは。コレットちゃんをお婆ちゃんに取られちゃったあだだだだ!止めてお姉ちゃん!」


「うるさい」


ルーが要らんことを言うから指をとがらせて頭を挟み込む。

普段は私が別の部屋に行こうとすると、コレットもついて来ようとするから気にしてなどいない。


「いやあ、やっぱり吸血鬼は暖かいとこじゃないとのう」


「左様でございますねおひい様」


「あら?セラちゃん、前は涼しいところが好きって言ってなかったかしら?」


「うむ。吸血鬼は涼しいは好きじゃが、寒いはダメなのじゃ。のうアレクシア」


「はい。おひい様は昔から寒いのが苦手でした」


「あら、そうだったのね」


騙されるなおっぱいお化け。魔の国と夜の国が近いから知っているが、吸血鬼は冷気に対してかなりの耐性がある。寒冷地の北の国に行ったって平気だろう。それにアレクシアはセラの事になるとちょっと馬鹿になる。今だって吸血鬼が寒いのが苦手でなく、セラが苦手だと言ったぞ。


「そう言えば凜ちゃん。随分気合入ってますね」


「それはそうだ!何といっても新婚旅行だからな!」


自分も楽しみにしていたが、ルーの言う通り、家族の中で一番気合が入っているのがリンだろう。だが新婚という度に頬を染めているのは初々しいと言える。


「下着も昨日もがもが」


「わああああああああああ!?」


むっつリンめ!気持ちは分からんでも無いが、コレット達もこの部屋で寝るんだぞ!

しかし、リンに慌てて口をふさがれているルーを見ていると、未来のコレットに揶揄い癖が付いていたのは、ルーの影響が大きいのではないかと勘繰ってしまう。


「おじさん!お部屋凄かったね!」


「そうだね!」


「それではどうぞごゆっくり」


「女将さんありがとうございます……。さあ行こう!へっへっへっへ!」


「きゃあ!?」


部屋を見終わった夫達が帰って来たが、夫は子供達を降ろすと私を抱きしめて、その場をくるくると回りだした。強く抱きしめられて笑顔のまま見つめられると、恥ずかしさと同時に嬉しさも感じ、思わず自分からも抱き着いてしまう。

リンが一番気合が入ってると思ったが、夫の方がもっと気合が入り、そして楽しみにしていたかもしれない。


「あは!」


「だんなさまぁ」


「わーい!」


「ユーゴ様……この場で……」


「は、恥ずかしいですぅ……」


「よーしそれじゃあ行こうか!ポチとタマは俺の服の中だな!」


他の皆も抱きしめた夫は、自分もとせがむ子供達を抱き上げると、市場へ行くために扉へ向かっていく。だがその前に……。


「しっかりせんか!」


「あら? そろそろお産の準備を……あら?」


「妊娠から出産まで早すぎるわおっぱいお化け!」


「うふ…うふふ」


「アレクシアは鼻血を拭け!」


色ボケして正気を失っている二人を元に戻さねば……。



「うわっ!? お頭!?」


「着いてそうそう砂混じりの突風とは……ぺっ」


「ですね。会合は夜ですが、それまでどうします?」


「そうだな……。市場でも覗いてみるか。あまり内陸の商品には詳しくなかったからいい機会だ」


「社長……」


「そんな顔せんでもわかってる……。だが商機はどこに転がってるか分からん。社長として妥協はしない」


「今自分で社長って……」


「……」


「あ、そ、そうだ!市場に"百舌鳥"みたいな武闘派とか、会合に初参加で舐められないように突っかかって来るような奴とかいるかもしれませんよ!」


「"金のオアシス"が準備した街で、騒ぎを起こすような裏組織の人間がいるとは思えん。しかもそれが朝の市場となれば、余程のもの好きくらいだろう」


「そ、そうですね……」


「どうした?」


「いえなにも……」


「よし。とりあえず市場に行くか」


「わ、分かりました」

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