ちょっとしたサプライズ7

sideクリス


「こりゃ待つのじゃ!歯を磨くのじゃ!」


「やだー!えへへ」


「やなのー!えっへえっへ!」


ソファに座っていると、夜に寝る前の小さい頃の僕たちが、歯磨きさせようとしているセラお姉ちゃんから逃げ回っている。弟妹たちがよくしている光景だけど、自分たちもしているところを見ると、なんだか恥ずかしい気持ちになる。


「クリス捕まえたのじゃ!」


「きゃああ!」


「ほれ、いーするのじゃ。いー」


「いー」


「おお。お利口じゃのう」


「えへへ」


捕まった僕が素直に口を開けている。どうやら、追いかけっこをしたかっただけらしい。


「クリスにあんな素直な時期があったなんて」


「うるさいよコレット。そもそもコレットだって」


「はーいコレットちゃん。お口開けましょうねー」


「あー」


「偉いですねー」


「えっへ」


「……私は元々素直」


「よく言うよ」


揶揄ってくるコレットだけど、逃げ出した方のコレットはルーお姉ちゃんに捕まっており、こっちも素直に口を開けて歯磨きされていた。どうやらコレットも羞恥心を感じているようで、反論にいつもの切れがない。


「それに髪だってジネットママに洗われたんでしょ?」


「……うるさい」


「あいた!?」


今度はこちらの番だと、いつもより髪が綺麗に整えられているコレットを揶揄うと、頭に手刀が降って来た。近接での戦いはコレットの方が一枚も二枚も上手なため、避ける事が出来なかった。


「コレットとクリスが仲良しさんでパパ泣きそう。ぐす」


コレットとじゃれてると、鼻を少し赤くしたパパが僕の隣に座り、本当に泣きそうになっていた。パパは今も昔も変わらないようで、僕たちや弟妹たちの事で、いつも一喜一憂して感激している。


「パパ。クリスが素直じゃない」


「コレットだって」


「ぐすぐす」


僕たちのやり取りがよく分からないパパの琴線に触れたようで、一層泣き出しそうになっている。


「っておや?2人とも体が凝ってますね。ちょっと揉んであげましょう」


「え? そうかな?」


「クリスが素直。これはスキンシップしたいパパの作戦」


「バレちゃあしょうがない。大人しくマッサージされなさい」


「ちょっ!?」


「お客さんリラックスしてくださーい」


気遣い気な表情から豹変したパパに、無理やり後ろを向かされると、肩を揉まれ始めた。未来でも何故かパパはマッサージが得意で、受けているとすごく気持ちがいい。どうやら昔から得意だったみたいだ。


「うーん。これは魔法使い特有の凝り方してますね」


「そんな凝り方あるの?」


「あるある。練習で杖とか構えたまま自分の精神に集中するから、結構特有の筋肉の凝りになる」


冗談だと思いながら聞き返すと、心当たりのある真面目な答えが返って来た。一時期コレットはパパが写真家だと思っていたけど、自分は整体かマッサージの職についていると思っていたのは、こういうところが原因だろう。


「パパ私も」


「もちろん!」


暫くパパからマッサージされていると、羨ましくなったのだろう。コレットもパパにお願いしていた。普段はなんだかんだ言いながらも、コレットはかなり甘えん坊で、家族との触れ合いを大事にしている。


「お客さんどうですかー?」


「極楽極楽。ふわあ」


今も普段と変わらず無表情だが、非常にリラックスしているのが分かる。というかリラックスしすぎて今にも寝そうだ。まあ、過去に来たという体験のせいで緊張していたけど、今も昔も変わらない家族に安心したのだろう。あくびをして頭が下がり始めている。


「すうすう」


「お休みコレット。パパは部屋に運ぶから」


「うん」


遂に寝息を立て始めたコレットをパパが抱え上げ、リビングから出て行く。


「クリス御坊ちゃまも部屋の準備は出来ておりますので」


「ありがとうアレクシアママ」


「いえお気になさらず。ぐす」


アレクシアママ。もう1人のお母さんに、物心ついてから世間を知って少し戸惑ったけど、いつも僕たちを愛してくれているママを皆が大好きだ。でも無表情なんだけど感激屋なのはパパと似ていて、今も鼻をすすって泣きそうになっている。


「はいクリス。耳掻きしましょうねー」


「しないよママ」


そんな事を考えていると、ママが耳かきを持ってボクの隣に座って来た。もうそんなままにしてもらう歳じゃないから、ここは拒否の一手だ。


「えーんえーん。クリスがママの言う事聞いてくれないよー」


そうすると、ママが目元に手を当てて、泣いているふりを始めた。どうも聞いた話では、ボクはしょっちゅう引っ掛かってたみたいだけど、流石にもう騙されない。


「じゃあパパがしてもらう!」


「あらあらうふふ」


そんな時、パパがリビングに戻って来て、それなら自分がとママの膝に頭を乗せ、ママも困ったように笑いながらパパの耳掃除を始める。

よく思うのだけれど、ママの胸の大きさじゃ膝元なんて見えないはずなのに、綺麗に耳を掃除出来ているのはなぜだろうか。

それに何と言うか、いつもの事だけど本当に夫婦仲がいい。こっちが恥ずかしい位いい。


「さあクリスの番よ」


「いいって!おやすみなさい!」


このままではなし崩しに耳掃除されるので、慌ててリビングを出て自分に用意された部屋に逃げ込む。優しいママだけど、もうちょっと年頃の息子の事を考えて欲しかった。

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