ちょっとしたサプライズ編

ちょっとしたサプライズ

リガの街 ユーゴ邸前


「お土産よし。婆さんよし」


「何がよしだい」


「元のしわくちゃって意味だよ」


「もうしないよ。世界樹があったからできる事だし、なにより疲れるからね」


「さよけ」


どうやら知人だったのだろう、イライジャと呼ばれた男を、婆さんが丁寧に埋葬した後、長老からそれはそれは丁寧なお礼を言われ、お土産の他に、お礼も色々貰って自宅前に帰って来た。だが婆さんが元のしわくちゃに戻ったのを確認しておかないと、ソフィアちゃんには誰だか分からないだろう。俺も違和感がすごかったから、戻ってよかった。


つうかこの婆さん、若い時は滅茶苦茶強いな。あんなに制御された魔力が渦巻いてたなんて、ちょっと記憶にない。それにあの状態、単なる若返りしたんじゃなくて…。


「気にすんじゃないよ。さあ、早くいくよ」


「ほいさ」


悩んでいたが急かされる。

そうだ。今はこの婆さんなんてどうでもいい!


「ただいま!」


「帰ったよ」


丸一日も留守にしてたんだ!みんな帰ったよ!


「パパ!バーバ!えへへ!」


「パパ!ばあば!えっへ!」


「おばあちゃん、おじさんかえりなさい!」


⦅ご主人お帰り!⦆


⦅主帰宅⦆


声が聞こえたのだろう、リビングのドアがはじけ飛び、ポチに乗ったクリスと、タマを従えたコレット、ソフィアちゃんが走って迎えてくれる。


「ただいま!パパも会いたかったよー!!寂しかったね、ごめんね…」


「だっこ!」


「だっこ!」


⦅ボクも!⦆


⦅私も⦆


「待たせたね」


「ううん!」


ぴょんぴょんとジャンプして、抱っこと言っている子供達を抱き上げていると、相変わらずポチとタマが顔にくっ付いて来るが些細なことだ。


ソフィアちゃんも、婆さんに頭を撫でられて嬉しそうだ。


「あなたお帰りなさい」


「ただいま!」


少し遅れて奥さん達もやって来た。


俺は我が家に帰って来たああああああああ!?


はあ!?右手にクリス!左手にコレット!真ん中俺!じゃあ外の気配は!?

助けて婆さん!?


「なんだか変なことになってるね。まあ、迎え入れてやんな」


珍しく婆さんも驚いた顔をしているが、やっぱそうだよな!?

どうなっとんじゃ!?


「あなた!?」


「ちょっとごめん!」


「えへへ!」


「えっへ!」


妻達の驚きの声を振り切って、慌てて玄関から飛び出す。子供達は何かの遊びと思っているらしく笑っているが…。そう、コレットとクリスはここだ。


「まずいって。いきなり行っても混乱するだけだよ」


「心配性。ママ達が昔、成長した私達が来たことあるって言ってたから、今がそう。それにいつ帰れるか分からないから泊るところが必要だし、この訳分かんない状況を知るにはお婆ちゃんが一番。教授は当てになんない」


「それはそうだけど…」


じゃあ門の前で話してるのは誰だ!?

いや間違いない!間違えるものか!


「クリス!?コレット!?」


「パパ!?」


「ほら分かったじゃん。ただいまパパ」


少し天然カール気味な、黒と金の髪のエルフの少年と、褐色の肌に、銀の髪の中に黒い髪が一房あるダークエルフの少女。


今腕の中にいる筈の、コレットとクリスが目の前にいた。


「パパ!クーがいる!」


「コーがいる!」


⦅え!?こっちにクリスとコレット!?そっちもクリスとコレット!?⦆


⦅理解不能⦆


クリス達も驚いて大声を出しているが、自分だって分かるのか。

いやそれよりも!


「なにがあったのコレット、クリス!?婆さんか!?婆さんが何かやったのか!?」


分裂するわ若返るわするんだ。コレットとクリスが2人いるなんて、こんな訳の分からんことは、婆さんが関わってるに違いない!


「そんな事出来るか」


「え!?クリスくんに、コレットちゃん!?」


「あ、お婆ちゃんにソフィアちゃんだ。この時期ウチに居たんだ」


「よかった、お婆ちゃんなら何か知ってるかも」


婆さんがそんなこと言いながらソフィアちゃんとやって来たが、非常に怪しい。現に今だって、父親の自分よりも、2人はホッとしたような表情を浮かべているのだ。


「え!?コレット!?」


「あらあら、まあまあ。お帰りなさいクリス、コレットちゃん。大きくなったわねー」


流石母親と言うか、ジネットも目の前の少女がコレットだと気が付いたようだ。

リリアーナは…。大物だ…。


「目元がご主人様とそっくりですねー」


「アレクシア、どうなっとんじゃ?」


「シルキーとして断言しますが、お二人ともクリス坊ちゃまと、コレットお嬢様で間違いありません」


「化かされている様だ…」


他の奥さん達も、困惑気にこの2人がコレットとクリスで間違いないと思っている。


「ただいま皆。ほら、大丈夫だった。クリスは心配しすぎ」


「うーん…僕は間違ってないような…。というか普通にお帰りなさいって言われたんだけど…」


「何があったんだ2人とも!?未来か!?まさか未来から何かの悲劇を防ごうと!?」


そうだ!こういう時は、未来から成長した我が子がやって来て、何か未曽有の危機を防ごうとしているのがお約束!間違いない!それならすべての辻褄が合う!


「そう。それは語るも涙な悲劇を防ごうと」


やっぱり!


「ちょっとコレット!違うの!ただ妙な遺物の発動に巻き込まれて!」


「こらコレット!驚かすんじゃありません」


「ごめんなさいママ」


なんだ、パパちょっと本気出すところだったよ。心配させないでよ。

しかし、ジネットもごく自然にコレットを叱っている。


というか妙な遺物?


「どんなのだい?」


「お婆ちゃんがいてくれてよかった。それが、学園の教授が見つけてきた砂時計の遺物で、何でも時神にまつわる神の遺物じゃないかって。それで」


「うっかり教授が遺物を起動しちゃって、私達だけ過去に飛ばされちゃったっぽい。寮には知らない人が部屋を使っててまいっちゃった。現在、宿無しです」


「だからお婆ちゃんに相談しようと転移で帰って来て」


「そういや、アルバムと皆の話から、未来の私達が来た事あるって薄っすら思い出して、あわよくば泊めてもらおうと」


「でも原因は何だったか忘れちゃって…」


うーん息ぴったり。双子じゃないけど双子みたいなもんだから、抜群の連携だ。


というか婆!未来でも頼りになるお婆ちゃんポジションに収まってるんじゃねえ!

いや、今は子供達の事だ!


「立ち話もあれだし、クリスとコレットも家に入りなさい。お茶でも飲んでゆっくり話そう」


「ありがとうパパ」


「よかったー」


未来から来ようが、この子達の我が家はここなのだ。家に帰るのは当たり前だ。


さて、写真は……


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