来客3
(子供が泣いている気がする!この感じはクリスか!?)
父親としての勘なのか、それとも単なる親馬鹿なのか、自分の子供が泣いていることを察知したユーゴであったが、家には母親のリリアーナがいると、それこそ泣く泣く帰宅する考えを打ち消しながら、覚えのある気配の下へと足を進めていく。
「どうしようフィン!?空き家になってる!」
「落ち着いてセシル。とりあえず近所の人たちに聞いてみよう」
(思い出した!悪ガキ共の姪と弟子の、セシルちゃんとフィン君だ!)
すると、かつて自分の住んでいた一軒家の前で、何やら慌てた様子で相談し合っている2人の男女がおり、ユーゴは、その2人を見てエドガーの姪とフィンの弟子である、セシルとフィンであると思い出した。
「やあ、どうしたんだい?」
(という事は、悪ガキ共の件だな)
ユーゴは2人に何か用事かと声を掛けながらも、エドガーとカークが重症らしい今、用件はそれだろうと見当はつけていた。
「あ、ユーゴさん!?よかった!」
「実は師匠達が重傷で!」
「うん、話だけは聞いてる。なんでも砂の国での調査で、何かとやり合って重傷だって」
「そうなんです!それで師匠達からユーゴさんに伝言があって!」
「俺に伝言?」
「はい!敵は5人いたんですが、その中の2人は自分達じゃ手に負えないから、ユーゴさんに知らせろって!」
「なぬ?」
(悪ガキどもが手に負えないって言った挙句、俺に知らせろって?その2人どんだけだよ)
エドガー達が敗北したのは既に知っていたが、まさかあの2人が勝てないと判断して、自分に知らせる様、人を寄越すなど、ユーゴは一体何に出くわしたんだと、心の中で驚愕していた。
「その2人はどんな奴等だった?」
「いえそれが、師匠達を相手にしてたのがドワーフ一人で、その2人が誰の事なのか…」
「叔父さん達は、ドワーフに意識をあんまり向けていませんでしたから、残りの4人の内の誰かだと思うんですけど…」
「ふうむ…」
(悪ガキ共を一人で相手取った奴より、更に意識を向けないといけない奴がいたとなると、本当にヤバい奴が混じってるみたいだな)
自信なさげにそういうセシルの答えに、ユーゴは警戒感を上げていく。
エドガーとカークの性格からすると、次は自分達が勝つと言うに決まっているのに、態々自分に伝言を残しているのだ。強さだけでなく、何か危険な気配を感じ取ったのかもしれないと思っていた。
「慌ただしくて申し訳ないのですが、これから自分達はまた師匠達の所へ…」
「うん分かった。まあ、あの2人なんだ。数日したらピンピンしてるさ」
「あはは。それでは」
気休めではなく、エドガー達ほどの位階の高さなら、即死などよっぽどのことでない限り、死ぬ事はないのだ。
「あ、そういえばその連中の事、世間はなんて呼んでるの?」
「あ、"はじまり"って自分達で言ってました」
「"はじまり"ねえ」
◆
(さてどうしたものか…)
エドガーとカークを打ち負かしているのだ。その相手に興味が無いわけではないが、死人が出たとか大陸の危機とか、そういった類の話でないため、態々自分が家族をほっぽり出してまで、動く必要があるかとユーゴは自宅に帰りながら悩んでいた。
(そもそも目的も居場所も分からん事にはな…。んんん!?クリスがまだ泣いてる!?一体何が!?)
「どうしたクリス!?パパですよ!」
そんな悩みながら自宅に帰って来たユーゴであったが、自分の聴覚がクリスの泣き声を感知すると、慌てて自宅に入り、クリスがいるであろう居間の中へ転がるように飛び込んだ。
「えっぐ。パパー。ぐすっ。バーバがふええ」
「全く、寂しがり屋だね。ほら泣き止みな」
「……リリアーナ。どゆこと?婆さんどっか行くの?」
そこでユーゴが目にしたのは、珍しく困ったような表情で、クリスを抱き上げてあやしていたドロテアの姿で、息子がバーバと言っただけで、ドロテアがどこかへ行くと通じたユーゴは、同じく困った顔でリリアーナに問うのであった。
「ビム長老が言うには、なんでも"はじまり"という組織が、世界樹を破壊しようとしているらしくて、それを阻止するためにドロテア様が行こうと言われたんですが、クリスが…」
「ははあ。"はじまり"が世界樹を。世間は狭いと言うべきか……」
これまた同じく、困った顔でクリスを見ていたリリアーナの答えに、先程聞いたばかりの名前が出て来たことに、ユーゴは世間の狭さというものを実感していた。
「それはどういう?」
「いや、さっき悪ガキ、エドガーとカークの姪と弟子の2人にあってね。どうやらエドガー達を負かしたのもその"はじまり"だったみたいなんだ」
「まあ」
「坊や。父親だろ?クリスを泣き止まさせな」
先程あったことをリリアーナに説明しているユーゴを見て、これは手古摺ると感じたドロテアが、クリスを渡して何とかしようとする。
「どうしたクリス?婆さん、今までもよく出かけてたろ?」
「ぐっす。いつー?」
「え?じゃあ今度はいつ帰って来るかだって?いつ?」
「さて、ちょっと手古摺るかもしれんからね……」
「ふえ」
またも父親らしく、以心伝心でクリスの言いたいことをドロテアに伝えるが、帰って来た返事はクリスを悲しませるものであった。
「え?婆さんが手古摺るの?というか知り合い?ああ、クリス。泣かないで」
「まだ私が若い頃からのね。4人の内3人は問題ないんだけど、最後の1人がちと面倒なんだよ」
「ん?4人?5人じゃなくて?」
「どうも知らない所で増えたらしい」
「分裂でもするんかい。それで、その面倒なのはどうして?」
「人種のイライジャって男だがね。そいつは」
◆
「バカな!?どうして魔法が唱えられない!?」
「体がいつも通り動かねえ!?」
「【ほ……】ダメだ!俺も唱えられねえ!」
「いやあ、人にテストテストと言っておいて、自分の力の確認をしてませんでした。すいませんね冒険者でしたっけ?の皆さん」
「しっかりしてよねイライジャ」
「いやあ面目ない。ははは」
◆
「神の加護とか、魔法。力ある言葉を使えなくさせられるんだよ」
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