来客2

リガの街


(急ぎなのはエルフの長老の方だよな)


絶対に厄介ごとだと確信しながらも、嫌々ながらユーゴは屋敷の外へと出かける事となった。

まずは優先度の高いであろうエルフの長老ビムを、次に覚えのある気配だと順番を決め、気配を極限まで薄めて、街中へと飛び立つのであった。



「ドロテア様は御留守!?」


「はい。最近はユーゴさんという方の家で寝泊まりしてまして、今日はここに居ません」


(まずいぞ!急ぎ連絡しないといけない事なのに!)


ある報告を受けて、慌ててリガの街にやって来たエルフの長老ビムであったが、事前に連絡を取らなかったミスが響き、帰って来た答えは留守という最悪な物であった。


「急ぎでしたら道案内しましょうか?」


(ドロテア様のご子孫の方を使う事になるが、致し方なし!)

「おね」


「そこにいらっしゃるのは、ひょっとしてビム長老では無いですか?」


「あ、ユーゴさん。ちょうどよかった」


「お、おお!海の国でドロテア様とご一緒だった」


「ユーゴです。なにやらドロテアの婆さんに、御用がある様子ですね」


ビムが背に腹は代えられないと、店番をしていたドロテアの玄孫にお願いをしようとしようとした寸前、背後からやって来たユーゴが、さも偶然を装って彼に声を掛けた。


「婆さんは今うちに居まして、ご案内しましょうか?」


「ぜひお願いします!」


「それではこちらへ」


今の今まで、ユーゴの顔と名前が一致していなかったビムであったが、ユーゴの提案に勢いよく頷いて、彼の後へと続いて行く。


(あの気配、俺の前の家に行ってるな。やっぱり知人か?)


一方のユーゴは、ビムを連れながら、追っている2人の気配が、引っ越す前の家の方に向かっているのを感じて、やはり自分の知人であると思っていたが、どうしても思い出せずにいた。



「ドロテア様!」


「なんだいビム?人の家なんだ、あんまり大声出すじゃないよ」


「お久しぶりです長老」


「ちょーろー?」


「こ、これは失礼しました。ん?ひょっとしてリリアーナか!?」


「はい。この子はクリス。夫ユーゴ様との子供です」


「クー!」


「こ、子供まで!?」


自分はこれでと、居間の前で別れたユーゴに礼を言い終わるや、すぐに部屋へと飛び込むが、ドロテアに窘められてしまい、すぐさま謝罪をする。

しかし、ドロテアが長らく会って無いだろうと、気を効かせて同席させたリリアーナに気が付くと、またしても大声を出しながら驚愕していた。


一応、リリアーナがリガの街にいる事は知っていたビムであったが、子供まで生まれているとは知らず、元気に手を上げて自己紹介しているクリスと、リリアーナの顔を何度も見比べる。


「それで要件は何だい?」


「そ、そうでした!"はじまり"達が復活を!」


「…全く」

(嫌な予感はこれかい。私の勘も捨てたもんじゃないね)


「ドロテア様?」


「バーバいたいいたい?」


「ああ大丈夫だよ」


ビムから告げられた言葉に、ドロテアは頭痛をこらえるように眉間を押さえ、それを心配したリリアーナとクリスに、何でもないように言うが、しかめっ面は直っていなかった。


「どうしてわかったんだい?」


「どうやら砂の国の地下深くに隠れていたようで、調査に赴いた者達に自ら名乗り、特級最強のエドガーとカークを退けてどこかへと…」


「ふんっ」

(態々名乗って自己を知らしめるとはイライジャだね。相変わらず傲慢だ。どうせ口では慎重とか言いながらも、自分達を止められる者なんてい居ないと考えてるから、名乗り上げなんてする。だからこんなには早く私のとこまで話が来るんだ。本当にあの人と兄弟なのかね?)


「それで奇妙な話なのですが、その者達は5人いたらしく…」


「5人?4人じゃなくて?」


「はい。どうも妖精族の少女がいたらしく」


「はて…」

(覚えがない…。オリビア達程度なら問題ないけど、万が一イライジャみたいな能力だと手に余るかもしれないね…)


自分が死んだとでも思っていたのか、堂々と名乗りを上げている"はじまり"を嘲りながらも、自分の知らない5人目が存在していることに、一気に警戒度を上げて考え込むドロテア。


「あの、長老。その"はじまり"とは?」


「ああそうか、リリアーナはまだ生まれても無かったか。奴等は人種達が大陸に生まれた後すぐの時代に、我々と敵対していた組織だ。その目的は神々の殺害と世界樹の破壊にある」


「神々と世界樹を!?」


「ふん。私だって我慢してたのにあいつらときたら」


「ドロテア様ぁ…どうか余所では…」


考え込んでいるドロテアに遠慮して、ビムに声を掛けたリリアーナは、彼から返って来た予想外の言葉に口に手を当てて驚愕したが、ビムはビムで、ドロテアの言葉に情けない声を出しながら、遠慮がちに抗議していた。


「まあ今生き残ってるのは善性の神だけだし、神の力を大陸に広げている世界樹をやられると、魔物どもの攻勢に人種が耐え切れなくなる。仕方ない、行くとしようかね。悪いけど、ソフィアの事頼んでいいかい?」


「おお!ありがとうございます!」


「もちろんです。ドロテア様。どうかお気を付けて」


「はいよ」


こうして、ドロテアの里帰りが決まったのであった。



婆型極大魔法発射装置里帰り決定!



「バーバ。どこいくの?ふえええ」


「ああほらクリス、泣くのはおよし」


でもちょっぴり挫けていたぞ!

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