来客1

???


『いい加減くたばれ糞婆!』


『下品ですよオリビア』


『デカ物合わせい!』


『死ねい"神からの贈り物"!』


『マーザルにイワンもですか。いい加減諦めなさい【惑わせ 見失え 黒き雲よ 対処する】』


『オリビア!』


『"水鏡"よ!』


『違うぞ煙だ!どこへ!?』


『3人掛かりだったのです』 『それならば私も』 『3人で対処しましょう』


『ウソ!?糞婆が3人!?』


『幻術か!?』


『どれも気を感じるぞ!?』


『水鏡が3方向から対処できるか試してみましょう【【【礫よ 対処する】】】』


『そんな!?』


『伏せいオリビア!』


『ああ、やはり一方向だけなのですね。それでは、【【【永遠に 凍てつけ 動くな 生ある者は 皆止まれ この地に 氷結地獄が現れる 対し】】】この気配…。イライジャですか、面倒な』


『"神からの送り物"おおおおおおおお!』


『全く。ちゃんと名前で呼んで欲しいのですが』



ユーゴ邸


(…はん?夢とは珍しいね)


昨夜はユーゴ邸に泊めて貰ったドロテアは、自分が夢を見ていたことに、驚きながら体を起こしていた。

古い古い、かつて起こった出来事を思い出しながら。


(さて、坊や風に言うなら、面倒な予感がする。だね)


ドロテアが見ていた夢は、100年や200年どころでないほど昔の出来事だ。そんな夢を今さら見るなどとなると、何か面倒なことが起こっているに違いないと、彼女は今までの経験から察していた。


「…あれ?おばあちゃん?」


「ああ起こしちまったかい。まだ明け方だからもう少し寝てな」


「うん。…すうすう」


(体が足りないね)


体を起こしたドロテアに気が付いたのだろう。隣で寝ていたソフィアが起きてしまったが、ドロテアは彼女の目の上にしわくちゃの手を被せる。

そしてソフィアの寝息を聞きながら、港の国への行き来と、ソフィアの教育とで忙しい中、新たな面倒事が起こる予感に、内心でため息を吐くのであった。




「悪ガキどもが負けた上に大怪我?」


「はいご主人様。近所の奥様会議で話題になってました」


「そ、そう」


ルーが近所の奥様達としていた会話をユーゴにも話していたが、この奥様会議、ユーゴ邸が裕福な者達が多く住まうエリアなため、必然そこの奥様が持っている情報もバカに出来なく、普通の市民よりもずっと情報が回るのが早かった。


まあユーゴが言葉に詰まったのは、そんな裕福な奥様達の間に、この可愛らしいルーがガッチリと食い込んでいた事だが。


「しかし悪ガキどもが負けるかあ。奥様方は何とやり合ったか知ってた?」


「いいえそこまでは。でも、砂の国の地下神殿で、何かがあったとは言ってました」


「ふーむ。竜でもいたかな?」


悪ガキ、エドガーとカークの強さを知っているユーゴからすれば、彼等が敗れるとなると、高位の竜か長、または堕ちた神ぐらいしか想像でなかったが、それなら自分が気づくはずだと首を傾げていた。


「勇吾様、その悪ガキとは?」


「わしも気になっておった」


「ああ、そういえば凜たちは会ってなかったね。特級冒険者のエドガーとカークの事だよ。たまに遊びに来ててね」


「おお!特級最強の2人か!」


「そのような者が。どのような御仁なのです?」


甘えたいのか、コレットとクリスに抱き付かれている凜とセラが、聞き覚えの無い悪ガキという呼称に興味を示すが、特級最強と大陸に響いているエドガーとカークの名に、セラは成程と頷く。

しかし、東方生まれの凛は、彼等の名に馴染みが無く、夫に彼等の事を聞いていた。


「そうだなあ。エドガーの方は6つ唱えれる魔法使いで、カークの方は大陸随一の剣士じゃないかなあ」


「何とそれほどの!」


6つも唱えられる者など本当に一握りの存在で、その上、自分の夫が大陸でも随一の剣士と評するなど、その2人は偉大な武人なんだろうと思っていた凜であったが、現実はそんなものではなかった。


「でもあなた」


「うん。エドガーの方は俺、じゃなかった自分、に平気で6つ唱えたのを当ててくるし、カークの方は隙あらば切り掛かって来る辻切りだね」


「それは…」


エドガー達と、初めて会った時の事を思い出したジネットが、ユーゴにそれだけではないでしょう?と言うと、ユーゴも、彼等が強いだけではない問題児だと認め、それを聞いた凜は引き攣った顔をしてしまう。


(エドガーと次会うときは、外での飲みだな)


その問題児達の中で、特にエドガーをユーゴは問題視していた。

それはなぜか。答えは単純。


(子供達にあいつの口調が移ったら立ち直れん)


そう。所かまずクソクソ言いまくるエドガーの口調が、自分の子供達に移る事をユーゴは非常に懸念していたのだ。

今だって自分の一人称に俺を使わない様に苦心しているのに、エドガーが子供達の前に現れれば、そんな苦労なぞ木っ端微塵である。


(子供達にくそ親父なんて言われた日には…。うっ動悸が。ん?誰か来たな。いや、覚えがある様な…)


その6つの魔法を当てられてもぴんぴんしている体が、単なる仮定の想像でダメージを受けていた時である。ユーゴはリガの街に入って来た2人の気配に、どこかで会ったはずだと記憶をたどっていた。

しかし、覚えのある気配はその2人だけではなかった。


(はん?確かエルフの長老の…)


転移で現れたのか、ドロテアの店がある方向に現れた強い気配にも覚えがあった。こちらの気配は強かったためよく覚えており、海の国で面識を得た、エルフの長老であるとすぐに気が付いた。


「婆さん」


「ああ、ビムだね。全く、連絡も無しにいきなり転移とは、余程慌ててるね」


「こっちにいる事は知ってるのか?」


「言ってはいるけど場所が分からんだろう。うちの子が店番してるけど、さて、年寄りに道を覚えきれるかね」


(あんたに年寄言われたくないだろう)


「私はまだまだ若いさね」


「俺が迎えに行くよ。覚えのある気配も2人いるし」


「頼んだよ」


どうせ覚えのある気配を確認しようと、外へ向かうつもりだったユーゴは、ついでにエルフの長老をここに連れて来ようと席を立った。

しかし。


(嫌な予感がする。具体的にはまた家を空けないといけない予感が…)


ここ最近慣れ親しんだ感覚を感じてしまい、早くもげんなりとしているユーゴであった。

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