魔人達2

砂の国


「いやあ、どうやら本当に神共は、大陸から姿を消した様ですね。ねえミリイ」


「間違いないかと。全く力を感じませんし、街の人種達から感じられたのも、殆ど残り香の様な物だけでした」


砂の国の各地に点在する、極小規模なオアシスにて、"はじまり"の面々が腰を下ろして、人間種の男と、妖精種の少女ミリイが、先程まで居た街での感想を口にしていた。


「じゃあ、私達の邪魔になりそうなのは、あの糞婆だけってことかしら?」


「生きてたらな」


「うむ。どうやらあれから1000年近く経ってるようだし、流石にくたばってるじゃろう。くたばってるよな?」


そしてほかの3人は、神がいない今、自分達の唯一の障害になりそうな存在が、恐らく寿命で亡くなっている事に安堵していた。


「それについては残念でした。私の手で始末したいと思っていたのですが…」


「はい。ですが、我々と敵対した時点で、既にかなり老いていました。耐用年数を倍以上も過ぎている現在では、生きてはいないでしょう。エルフの生息域の代表も、我々が知らない名前でした」


「俺が気になったのは、祈りの国という国家だ」


「じゃな。聞いた限りじゃ、どう考えても神が関わってるとしか思えん」


「あの時は、大陸中央は神と竜の戦争跡地でしかなかったのにね」


現在の彼等の懸念点は、彼等にとっての怨敵、神々が関与したとしか思えない成り立ちの国家、祈りの国についてであった。


「うーん。確かに関与はしているでしょうが、聞いた限りでは、誰もその国で神共と直接会ったことが無いと言ってましたからね」


「そうですね。恐らく神が介入してきても、かなり限定的かと」


"はじまり"達が眠りにつく前の時代。

彼等の脳裏では、竜との戦争でその力を非常に落としたとはいえ、まだまだ健在だった神々を思い出していた。


それを考えると、神々の姿を誰も見たことが無いという、今の人種の話を聞く限り、彼等が眠りについた理由。神々が殆ど力を無くした時代で、介入を排除したいという目的は、完全に達したと思われた。


「じゃあ、このまま世界樹へ?」


「そうですね。そうしましょうか」


万全を期すために、わざわざ眠りについた"はじまり"の面々であったが、リスクを背負っていても、やろうとおもえば眠りにつく前でも出来たと思っていたため、あっさりと最初の目的、世界樹の破壊を決めて行動に移そうとする。


「ですがその前に、ミリイとオリビアの能力が、この時代の人種に通じるかのテストをしなければ」


「私とお嬢ちゃんの?する必要ないと思うけどね」


「特に私は」


「ちょっと、私もでしょうが」


「まあまあ」


じゃれ合い始めたミリイと、魚人種の女性オリビアを人種の男性が止めに入る。


「うむ。むしろ確かめないといかんのは、このデカブツの方じゃないか?」


「言ったなチビ助」


「あちょっと、イワン」


「ふん!」


一方、寝ている間に錆び付いたのではないかと、ドワーフ種のマーザルが、巨人種の男性イワンを揶揄うと、それが癪に障ったようで、座っていたイワンが立ち上がり、腕を一回しすると、オリビアの静止の声も聞かずに、拳を地面に叩きつけた。


「このデカ物!儂等の近くでやる奴があるか!」


「もー最悪!」


「勘弁してくださいよイワン」


「砂まみれ」


結果は圧巻の一言に尽きた。

イワンが殴った地面は消え失せ、辺り一面に広がる巨大な大穴を拵えたのだ。


しかし、仲間からは非難の嵐であった。

それもそのはずで、巻き上げられた砂埃を被った彼等は、砂を服から叩き落とす羽目になり、面倒な手間を増やしたイワンに口々に文句を言い合う。


「何だ今の揺れは!?」

「地震か!?」

「お頭!あそこに人が!」

「なんだと!?」


「ふんっ。オリビアとミリイのテスト相手を呼び出しただけだ」


このオアシスにいたのは、彼ら"はじまり"だけではなかった。

ここを拠点に、道行く隊商を襲って生計を立てていた盗賊達も存在しており、そんな盗賊達が、イワンの起こした破壊の振動によって、慌てて隠れ家から飛び出して来たのだ。


「追っ手か!?やっちまえ!」

「へい!」

「【雷よ 奔れ】!」

「死ねや!」


ただ事ではない大きな地震と、隠れ家の外に出来ていた大穴に、盗賊団の首領は戸惑いながらも攻撃を命令する。

そして、その命令に従って、弓矢のみならず魔法まで放たれるも、"はじまり"の面々は顔色一つ変えずに、オリビアの方を見ていた。


「あとで覚えておきなさいよ!【水鏡よ】!」


イワンに悪態をつきながらも、オリビアは自分の能力を開放し、目の前に大きな水の鏡面の様なものを出現させる。


「ぐげっ!?」

「なんだ!?」

「向こうも魔法を!?」

「いや、跳ね返ったんだ!」

「なんだそりゃ!?」


オリビアの異能"水鏡"。

触れるもの全てを跳ね返す水の魔鏡は、放たれた弓矢だけでなく、魔法までも完璧に跳ね返し、元の持ち主にそのまま、いや、ひょっとすると、弓矢はより早く、魔法は更に威力を上げながら送り返された。


「カチ割れ!」

「いっ!?ダメだ割れねえ!」

「ぎゃ!?」


盗賊達もバカではなく、この水鏡が原因で跳ね返されたと察して、何とか破壊を試みたが、この鏡は何も飛び道具だけを跳ね返すのではない。

剣や鈍器を叩きつけられようと、その衝撃までも跳ね返して、剣を持っていた者達を弾き飛ばす。


「ほらね?試す必要ないじゃない。ミリイの方が心配よ」


「それでは早速試してみましょう」


「待って待って!私が悪かったから、目を開けようとしないで!」


「んげ!?嬢ちゃん頼むから!、儂らが後ろに行くまで待ってくれ!」


どんなもんだとオリビアはミリイを挑発するが、本当にミリイが能力を発動しようとすると、大慌てで彼女の後ろに回り込みながら、ひたすら謝罪を繰り返す。


「あ、目を開いちゃいました」


「あっぶなあああ!?」


ミリイが目を開く。それだけで、オリビアは大袈裟なくらい怯えた声を出すが、盗賊達の末路を見れば、そうにもなるだろう。


「ぎゃああ!?」

「ぐべっ!?」

「うぎぎぎ!?」

「ごばっ!?」


ミリイに見られる。ただそれだけなのに、ある者は首と胴体が分かれ、ある者は全身が粉々となり、またある者は全身が押し潰されたように死んでいく。


「斬首、粉砕死、圧死。どれも皆さんが手に掛けたようですね」


「私ももう少しで死ぬところだったわよ!」


「オリビアさんの死因は何でしょうね?」


「怖いわ!」


ミリイの異能。いや、もはや権能といっていいその御業"死に目"。

それはミリイの見た者の、未来に起こるであろう死因を今引き起こすという、神すら逃れる事の敵わない絶対の能力であり、そこに例外はない最強の力であった。


「おっかないのう…。老衰とか病死が1人も居らんじゃないか」


「なにを言ってるんだ。あの圧死した奴はお前の空気弾だろ」


「いや、そうなんじゃろうが、今の儂は何もやっておらんし」


「振り向いていいですか?」


「絶対目を閉じてよね!?」


「これで杞憂も全部なくなりましたね。それでは行きましょうか」


まさに、ただ一目見ただけで皆殺しにされた盗賊達のことは、もう何の価値も無いとばかりに、いつも通りの調子で話し続ける"はじまり"の面々。


「世界樹へ」


向かうはかつての神々の最大拠点。

エルフの森に聳え立つ、世界樹へと進撃を開始するのであった。

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