ようやくサーカスへ2
「ママ!あえ!」
「ママ!あえ!」
「ふふ。なんだろうねコレット」
「もう少ししたら分かるわよクリス」
(シャッターチャンス!)
実は、コレットとクリスが、テントの暗さに泣きださないか心配していたユーゴであったが、その心配はない様だ。今も、母親の腕の中で、中央に置かれている様々な器具を指さして、興奮しながら器具と母親を交互に見ている。
そのユーゴであるが、両手が空き、写真を撮る魔道具が、フラッシュを出さない事をいいことに、子供達の写真を撮りまくっていた。ひょっとしたらこの男、サーカスが開演しても、自分の子供達を見ているかもしれない。
「ソファちゃん、グレン君、ジェナちゃん、こっち向いてー」
「しゃしんだ!」
「いえーい!」
「ぴーす!」
もちろん、他の子供達も忘れていなかった。いずれここを去る3人であったため、思い出の写真を持たせてあげたいとユーゴは考えていたのだ。
(よし。奥さん達の写真も撮った。完璧じゃね?)
「よければ、ご家族と一緒の写真を撮りましょうか?」
「ありがとうございますダンさん!ぜひお願いします!さあ、皆もだよ」
「え、いいの?」
「いいのいいの。ほらこっち寄って」
ユーゴが、自分の妻達も取り終えて満足しているとき、同行していたダン老人が、ユーゴと家族一緒の写真を提案をし、ユーゴは感謝しながら魔道具をダンに手渡す。
そして、遠慮していたソフィアたちも、写真に納まる様に寄せるのであった。
「それでは撮りますぞ」
カシャリ
王家に后を出すほどの家で家令をしていただけあり、ダンは慣れた様子で魔道具を使い、ユーゴも含めた皆の写真を撮るのであった。
◆
『皆様!大変長らくお待たせしました!クララサーカス団開演でございます!』
大道芸の一団がリガの街に来てから、既に半月が経過しているため、客席に座っている者は周囲の町や村からやって来た者が多かった。
そんな彼等と共に、ユーゴ達も拍手で開演を宣言する司会者に応える。
『まずは我がサーカス団が誇る、フィッシャー3兄弟によるボールジャグリングです!』
最初に中央にやって来たのは、恐らく三つ子であろう、そっくりな3人の男性が、手にそれぞれボールを持って進んでくる。
「あの3人すげえんだぜ」
「ほほう」
雑用で彼等とも関わる機会もあったグレンが、ユーゴにそう教えていた。
「おお」
見ていると、最初は3人がそれぞれジャグリングをしていたが、そのうち3人がボールを交換し始め、控えていたアシスタントがボールを足した事もあり、見事なボールの軌道による3角形が生まれていた。
「おお。見事なもんじゃのう」
「はいおひい様」
「るーねー!あえ!」
「あははコレットちゃん。ルーお姉ちゃんはちょっと出来ないかなあ」
「りーねー!あえ!」
「んん!?私も出来ないぞクリス」
(シャッターチャンス!)
やはりユーゴは、自分の子供達が興奮したように、あれやってと周りの大人達に言っているのを、好機とばかりに、写真に収めていた。
「うわあ。ジェナおねえちゃん。あれってどうやるの?」
「それはもう一杯練習だよ。休みの時もずっと練習してたからね」
「へー!」
(こっちも!)
ソフィアも初めて見る職人芸に目を輝かせており、その姿を遠く離れた場所にいる彼女の母親に送ろうと、ユーゴは写真を撮るのであった。
◆
『それでは、次は猛獣たちによる芸となります!』
(ああ。そういやこっちには結界があったな)
幾つかの前座が終わり司会が宣言すると、中央の一帯に透明な結界が張られ、これで万が一猛獣が客席に行くことを防いでいる様だと、ユーゴは自分の故郷との違いに、思わず感心してしまう。
「わあ!くまさん!」
「熊のベアー君だぜ。あれで結構寂しがり屋なんだ」
「あら。ライオンさんよクリス」
「パパ!たあ?ぽい?」
「ははは。どっちかっていうと、タマの親戚かな」
「たあ!」
「そうそうタマ」
会いたかった熊を見た事で興奮しているソフィアと、一緒に入って来たライオンはお留守番しているタマとポチ、どちらと同じなのかとユーゴに聞くクリス。
『さてこの熊のベアー君!実はとっても玉乗りが得意なのです!さあベアー君ご挨拶を!』
「おお!手を振っておるのじゃ!」
「ううむ。猿ではなく熊がこうまでも…!」
「くまさんー!」
(背中にチャックとかないよな?うんないわ)
あまりに見事にベアー君が手を振るものだから、中に人間が入っているのではと錯覚するユーゴであったが、わざわざ気配を感知しても、そんな中身は存在しなかった。
『さあベアー君!玉乗りを見せておくれ!』
司会がそう言うなり、ベアー君はすぐさまボールの上に乗ると、バランスを取りながら後ろ足で立ち始める。
「わあ!すごい!」
「芸達者でしょ。結構早く覚えたみたいなんだ」
「なんと!大陸の熊は、2足で玉の上に立ち上がれるのか!?」
「芸達者じゃのう。わしでも玉の上に立ち上がれんのに」
「ママ!あえ!ぽい!?たま!?」
「うーん。多分出来ないと思うわよ」
(ポチとタマに教えたら、対抗心燃やしそうだな…)
口々に驚きを表す一行であったが、コレットはジネットに、うちのタマとポチはあれ出来る!?と聞いていたが、これをポチとタマに教えると、間違いなく対抗して、練習し始めるだろうとユーゴは思っていた。
◆
ライオンの火の輪くぐりや、縄跳び、空中ブランコなどが終わると、いよいよ最後の演目が待っていた。
『それでは最後の演目。当サーカス団の大目玉!空中絵描きです!』
「うわ、皆が飛行の魔道具持ってるよお姉ちゃん」
「ああ。なかなか金がかかっている」
「あらあら。凄いわねクリス」
司会の言葉と共に、中央にいた10数名の男女が、一斉に空中に飛び立ち、色とりどりに光る棒を取り出していた。
「ふおー!」
「ママ!パパ!」
「すっごい!」
「うわあ。客席で見るとこんな感じなんだ!」
「なんか感動」
その空中にいる人達が、四角や三角などを手始めに、星やハートの形を形作ると、子供達も大喜びで、今にも中央に走りだしそうなほどであった。
「おお。綺麗じゃのう」
「はい」
(こりゃ凄いな)
そして役者たちは、中央から離れると、客席の上にまで飛び出し、複雑な軌道を描きながら回転し始め、ゆっくりと中央に収束して着陸するのであった。
『これにて終幕。皆様、本日は真にありがとうございました。これからもクララサーカス団を是非よろしくお願いします』
ユーゴ達だけでなく、全ての観客が席を立って拍手を送るのであった。
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