ようやくサーカスへ2

「ママ!あえ!」


「ママ!あえ!」


「ふふ。なんだろうねコレット」


「もう少ししたら分かるわよクリス」


(シャッターチャンス!)


実は、コレットとクリスが、テントの暗さに泣きださないか心配していたユーゴであったが、その心配はない様だ。今も、母親の腕の中で、中央に置かれている様々な器具を指さして、興奮しながら器具と母親を交互に見ている。


そのユーゴであるが、両手が空き、写真を撮る魔道具が、フラッシュを出さない事をいいことに、子供達の写真を撮りまくっていた。ひょっとしたらこの男、サーカスが開演しても、自分の子供達を見ているかもしれない。


「ソファちゃん、グレン君、ジェナちゃん、こっち向いてー」


「しゃしんだ!」


「いえーい!」


「ぴーす!」


もちろん、他の子供達も忘れていなかった。いずれここを去る3人であったため、思い出の写真を持たせてあげたいとユーゴは考えていたのだ。


(よし。奥さん達の写真も撮った。完璧じゃね?)


「よければ、ご家族と一緒の写真を撮りましょうか?」


「ありがとうございますダンさん!ぜひお願いします!さあ、皆もだよ」


「え、いいの?」


「いいのいいの。ほらこっち寄って」


ユーゴが、自分の妻達も取り終えて満足しているとき、同行していたダン老人が、ユーゴと家族一緒の写真を提案をし、ユーゴは感謝しながら魔道具をダンに手渡す。

そして、遠慮していたソフィアたちも、写真に納まる様に寄せるのであった。


「それでは撮りますぞ」


カシャリ


王家に后を出すほどの家で家令をしていただけあり、ダンは慣れた様子で魔道具を使い、ユーゴも含めた皆の写真を撮るのであった。



『皆様!大変長らくお待たせしました!クララサーカス団開演でございます!』


大道芸の一団がリガの街に来てから、既に半月が経過しているため、客席に座っている者は周囲の町や村からやって来た者が多かった。

そんな彼等と共に、ユーゴ達も拍手で開演を宣言する司会者に応える。


『まずは我がサーカス団が誇る、フィッシャー3兄弟によるボールジャグリングです!』


最初に中央にやって来たのは、恐らく三つ子であろう、そっくりな3人の男性が、手にそれぞれボールを持って進んでくる。


「あの3人すげえんだぜ」


「ほほう」


雑用で彼等とも関わる機会もあったグレンが、ユーゴにそう教えていた。


「おお」


見ていると、最初は3人がそれぞれジャグリングをしていたが、そのうち3人がボールを交換し始め、控えていたアシスタントがボールを足した事もあり、見事なボールの軌道による3角形が生まれていた。


「おお。見事なもんじゃのう」


「はいおひい様」


「るーねー!あえ!」


「あははコレットちゃん。ルーお姉ちゃんはちょっと出来ないかなあ」


「りーねー!あえ!」


「んん!?私も出来ないぞクリス」


(シャッターチャンス!)


やはりユーゴは、自分の子供達が興奮したように、あれやってと周りの大人達に言っているのを、好機とばかりに、写真に収めていた。


「うわあ。ジェナおねえちゃん。あれってどうやるの?」


「それはもう一杯練習だよ。休みの時もずっと練習してたからね」


「へー!」


(こっちも!)


ソフィアも初めて見る職人芸に目を輝かせており、その姿を遠く離れた場所にいる彼女の母親に送ろうと、ユーゴは写真を撮るのであった。



『それでは、次は猛獣たちによる芸となります!』


(ああ。そういやこっちには結界があったな)


幾つかの前座が終わり司会が宣言すると、中央の一帯に透明な結界が張られ、これで万が一猛獣が客席に行くことを防いでいる様だと、ユーゴは自分の故郷との違いに、思わず感心してしまう。


「わあ!くまさん!」


「熊のベアー君だぜ。あれで結構寂しがり屋なんだ」


「あら。ライオンさんよクリス」


「パパ!たあ?ぽい?」


「ははは。どっちかっていうと、タマの親戚かな」


「たあ!」


「そうそうタマ」


会いたかった熊を見た事で興奮しているソフィアと、一緒に入って来たライオンはお留守番しているタマとポチ、どちらと同じなのかとユーゴに聞くクリス。


『さてこの熊のベアー君!実はとっても玉乗りが得意なのです!さあベアー君ご挨拶を!』


「おお!手を振っておるのじゃ!」


「ううむ。猿ではなく熊がこうまでも…!」


「くまさんー!」


(背中にチャックとかないよな?うんないわ)


あまりに見事にベアー君が手を振るものだから、中に人間が入っているのではと錯覚するユーゴであったが、わざわざ気配を感知しても、そんな中身は存在しなかった。


『さあベアー君!玉乗りを見せておくれ!』


司会がそう言うなり、ベアー君はすぐさまボールの上に乗ると、バランスを取りながら後ろ足で立ち始める。


「わあ!すごい!」


「芸達者でしょ。結構早く覚えたみたいなんだ」


「なんと!大陸の熊は、2足で玉の上に立ち上がれるのか!?」


「芸達者じゃのう。わしでも玉の上に立ち上がれんのに」


「ママ!あえ!ぽい!?たま!?」


「うーん。多分出来ないと思うわよ」


(ポチとタマに教えたら、対抗心燃やしそうだな…)


口々に驚きを表す一行であったが、コレットはジネットに、うちのタマとポチはあれ出来る!?と聞いていたが、これをポチとタマに教えると、間違いなく対抗して、練習し始めるだろうとユーゴは思っていた。



ライオンの火の輪くぐりや、縄跳び、空中ブランコなどが終わると、いよいよ最後の演目が待っていた。


『それでは最後の演目。当サーカス団の大目玉!空中絵描きです!』


「うわ、皆が飛行の魔道具持ってるよお姉ちゃん」


「ああ。なかなか金がかかっている」


「あらあら。凄いわねクリス」


司会の言葉と共に、中央にいた10数名の男女が、一斉に空中に飛び立ち、色とりどりに光る棒を取り出していた。


「ふおー!」


「ママ!パパ!」


「すっごい!」


「うわあ。客席で見るとこんな感じなんだ!」


「なんか感動」


その空中にいる人達が、四角や三角などを手始めに、星やハートの形を形作ると、子供達も大喜びで、今にも中央に走りだしそうなほどであった。


「おお。綺麗じゃのう」


「はい」


(こりゃ凄いな)


そして役者たちは、中央から離れると、客席の上にまで飛び出し、複雑な軌道を描きながら回転し始め、ゆっくりと中央に収束して着陸するのであった。


『これにて終幕。皆様、本日は真にありがとうございました。これからもクララサーカス団を是非よろしくお願いします』


ユーゴ達だけでなく、全ての観客が席を立って拍手を送るのであった。

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