ようやくサーカスへ1

リガの街 ユーゴ邸


「ただいま皆!」


朝早くのユーゴ邸に、ようやく帰宅した、この家の主人の声が響き渡る。


「パパ!」


「パパ!」


「コレットー!クリスー!パパも寂しかったよおおお!」


真っ先にやって来たのは、彼の子供達であった。どうやら父親と半月以上会っていないせいでかなり寂しかったらしく、そのまま笑顔でしゃがんだユーゴに抱き着いた。

ユーゴもそれが嬉しくてたまらないと言った様子で、コレットとクリスを抱き上げる。


「おじさんおかえりなさい!」


「どこいってたの?」


「また足に乗っていい?」


「ただいま。よっしゃ、久しぶりに皆を乗せよう」


「お帰りなさいあなた」


「ただいま皆!」


その後すぐにやって来た、ソフィアたちを肩や足に乗せながら、出迎えてくれた妻達に、笑顔で帰宅を報告するユーゴであった。



「なんと!?もう暗殺の心配はないと!?」


「ええ。暗殺組織の方は、祈りの国に目を付けられて壊滅しました。それとこれは内密でお願いしたいのですが、守護騎士が言うには、湖の国の国王は、国庫から秘密裏に暗殺組織への前金を出していたことを宰相に問いただされ、それが原因でしょう、かなり吐血してしまい、恐らく亡くなったのではないかと」


帰宅したユーゴは、子供達との触れ合いの時間を惜しみながらも、ダン老人に双子の暗殺の危機は去ったことを告げる。


尤も、流石に自分が皆殺しにしたとも、王城に忍び込んで、その吐血したところを見たという訳にもいかず、ダンが、リリアーナに祈りの国の護衛が付いているという勘違いを利用して、あくまで彼等から聞いたという体であったが。


「そうなると2人は国へ帰れるのですな…」


「ええ。大手を振って。祈りの国から湖の国へ、王位継承者がここに居る事を知らせてもらいましょう」

(こういう政治的な話なら、ドナート枢機卿だな)


全く会わなかった昔を考えると、ここ最近ありえないくらい関わっている枢機卿を思い出しながら、ユーゴは勝手に予定を立てていく。


(根無し草だが自由に生きるのと、王族として生きる…。どっちがあの2人にとっていいのかは、神でもない俺には分からん…。だが、母親の墓参りくらいはした方がいいだろう…)


いくらユーゴが、神々を殺せるものであっても、神そのものではないのだ。双子達がどちらの生き方をした方がいいのかは分からない。しかし、せめて国元へと帰って、彼等が生きる事を望んだ、母親の墓にくらいは行った方がいいだろうとは考えていた。


「ユーゴ殿、なんとお礼を言っていいか…」


「いえお気になさらず」

(よし!これで一件落着!家族でお出かけだ!)


外見では神妙そうなユーゴであったが、内心はというと、ようやく家族と約束していた、サーカスに出向ける事を喜んでいるのであった。



「よーし!それじゃあ行こうか!」


『おー!』


ユーゴが子供達を全身に乗せた、いつものスタイルで宣言すると、体中から返答の掛け声が上がった。


「私、聖女を長くやってましたから、こういう催し物は初めてです!」


「そういえば私達も、見た事はなかったな」


「でもお姉ちゃん、暗殺の訓練で似たようなことはしてたよね」


「わしもあまり城から出んかったからのう」


「私もです」


「大陸の大道芸…。いったいどうのような」


ユーゴの妻達も、実はこの日を楽しみにしていたようで、足取りも軽やかに街の外へと歩いて行く。


「おや、ユーゴの所の皆だ」 「おやまあ、子供が皆引っ付いて可愛らしいね」 「腕に乗ってるユーゴさんのとこの子供、暫く見ないうちに大きくなったな」


ユーゴの家族が全員で移動するのは珍しく、知り合いだったとしても大所帯であるから、驚いたように眺めていた。


「おいなんだ、あの美しい女性たちは!?」 「そこのご婦人!どうか絵を描かせてくれませんか!?」 「どうか私の詩を受け取って下さい!」 「私と交際してください!」


そして、リガの街の住人と違って、一行に、特にジネット、リリアーナ、アレクシアに慣れていない、街の外にいる大道芸の一団や、それに引っ付いて来た者達にとっては、急に女神が現れたのではないかという騒ぎを引き起こしていた。


「どけ」


「すいません、私人妻ですので」


「私の胸に話しかけるのは止めてください。このハエ野郎」


尤も、彼女達も慣れたもので、ジネットは冷たく、リリアーナはやんわりと、アレクシアは無表情に罵倒して、あしらっていた。


「わしらに話しかけてこんとは、わかっとらんのう」


「あはは。面倒が無くていいじゃないですか」


「私はそんなに幼児体系ではないのだが」


一方、ルー、セラ、凜の3人の方には誰も来てなかったが、口では文句を言っているセラも含めて、3人とも面倒が無くてよかったと思っていた。


「絵…。絵かあ…。写真と違って味があるな…。今度どっかに頼んでみようかな…。せっかく家も大きいし、家族の肖像画を飾るとか」


所で彼女達の夫はと言うと、自分には声を掛けられていないにも関わらず、絵を描くという言葉に引っ掛かっており、今度暇な時にでも、ちゃんとした画家を探そうかと1人で呟いていた。


「おっと、着いたか!」


「パパ!ママ!」


「えっへ!」


「うわあ、おっきいー」


「客として入るのは初めてだなあ」


「ちょっと新鮮」


そんなこんなで、気がつけばサーカスのテント前まで来たユーゴと、彼にくっ付いている子供達は、興奮したように次々とはしゃぎ始めるのであった。

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