お家騒動2

「マダム…」


「大丈夫よダンさん」


マダム個人のテントに場所を移した彼らであるが、ダンは物言いたげにマダムを見ていた。しかし、マダムはこれから一生彼等が逃げ続けるよりかはと、ダンを落ち着かせようとしていた。


「それでねユーゴちゃん。この子達は湖の国の、王の子供達なんだけど」


「マダム!?」


「え?」


「はえ?」


「なるほど。道理で」


流石に双子にすら言っていない、秘中の秘を暴露したマダムに、抗議の声を上げるダン。

一方双子は、何のことだと困惑した声を上げていた。


「お願いするんだから全部話しておかないと」


「いやしかし!?」


ダンは、今まで返しきれないほどの恩を受けた相手だったため、マダムに強く出れなかった。


「それで、この子達がチェンジリングなのを、どうしても許せない王が、どうやら暗殺組織"満月"に依頼したのよ」


「なるほど」

(チェンジリングか…)


大陸では、時折両親の特徴をちゃんと受け継いでいるにも関わらず、妖精種の子が生まれる時がある。そのため、妖精種に取り換えられた子供、チェンジリングと呼ばれる者が、極稀にだが存在していた。


「ただ、ずっとっていう訳でないの。湖の国の王は疑心暗鬼が酷くて、年老いてからようやく后を迎えて出来たこの子達を追放してるから、後継ぎがいないうえに、どうも最近調子が良くないみたいなのよ。しかもかなり」


「なるほど。王が亡くなればこの子達が唯一の直系と」


「ええ。王は事あるごとにこの子達を探し出せって言ってるから、周りの者達も存在を知ってるし、なによりダンさんがお后様から、自分と王の子供であるって言う、血判書を持ってるの」


「お爺ちゃん?」


「どういうことだよ?」


「いつかは…話さねばならないと思っていました」


困惑した、最早自分の孫かひ孫と思っている双子たちを、ダンは酷く悲しそうな目で見ていた。一体誰が、自分の親から命を狙われていると、幼子に言えるだろうか。


「グレン、ジェナ。貴方様方の本当の名前は、パーシル、マナ。そして、湖の国の王家の生まれなのです」


「は?え?」


「お爺ちゃん。訳分かんないんだけど」


いくら妖精族の成長が早いとはいえ、子供の彼等がこの事態を飲み込めるわけがなく、混乱の極みにあった。


「それでユーゴちゃん。お願いの内容なんだけど」


「ええ。お三方をウチでお預かりしましょう」


「ユーゴちゃん本当にありがとう!」


混乱する子供達をよそに、ユーゴは彼等を自分の家で預かる事を決定する。どう考えても、この3人が暗殺者達の魔の手から、逃れられるとは思えなかったのだ。


「しかし、それでは貴方にもご迷惑が」


「いえお気になさらず。それに、まあ、いつもの事ですから」


それがお節介焼きとしてのいつもの事なのか、暗殺や襲撃がいつもの事なのかを言っているのか、誰にも分からなかった。



「うわあすっげえ」


「おじさん結構お金持ち?」


「これはまた」


ユーゴは3人を自宅に招いたが、その彼等はユーゴ邸の大きさに驚いていた。


「まあ程々にね。内緒だよ?」


ユーゴはジェナのお金持ちという言葉に、脳裏に天敵である徴税官の顔を思い出し、内緒だよと唇に指を当ててジェスチャーする。


「なんか犬と猫が走って来てるんだけど」


「ああウチの家族だね。犬の方はポチで、猫の方はタマだよ」


「変わった名前」


「はっはっは。東方風だからね」


「わん!」

(ご主人お帰り!お客さん?)


「にゃー」

(主帰宅。客人?)


ユーゴの帰宅に、外で警備をしていたポチとタマが走って出迎え、足元でぴたりと制止する。


「ただいま。ダンさんと、グレンくんと、ジェナちゃん。仲良くね」


「わん!」

(うん!)


「にゃー」

(了解)


「うわ!?ちょ!?」


「きゃあ!?」


「はっはっは」


早速グレンとジェナの匂いを嗅ぎ始めたポチと、悲鳴を上げている子供達の姿に笑いながら、彼等を屋敷へと案内するユーゴ。


「あ、ご主人様お帰りなさい!」


「勇吾様お帰りなさい」


「ただいまルー、凜。悪いんだけど、皆をリビングに呼んで欲しいんだ」


「はい!」


「分かりました」


丁度玄関の付近にいたルーと凛に、家の皆を集めてもらうよう頼むユーゴ。これから3人の事を紹介せねばならなかった。


???


「全く若殿達も困ったものじゃ」


「ひっひっひ」


「いかにも」


「ふんっ」


「ほんとにそうね」


表向きは商館となっている、ある屋敷の地下で、複数の男女が話し合いをしていた。

内容は、彼等にとって目下の重要事項、"満月"の次期党首達である。


「どちらか早う決まって欲しいのじゃがな」


「本当にそう思っているのか?最近動きがあるようだが」


「もちろん心の底から思っておるよ」


「まあまあ」


「2人で殺し合わさせたらよかったのだ。その方が早く片付いたし、割れる事も無かった」


「まさか真っ二つに割れるなど、誰も思わんかったからの…」


「バカバカしいったらありゃしないわ」


裏組織ゆえか、我が強いものが多い"満月"幹部達が、口々に言い合っている。

それぞれ自分の閥を持っている幹部達からしても、まさか次期党首を選ぶ競争に、中堅で燻ぶっている者達が、それぞれの派閥を無視して2人のどちらかに合流するなど、予想外もいい所であったのだ。


「もうターゲットの居場所は割れているのですから、もうすぐ決着も付くでしょう。勝手な事をした連中は、その後にお仕置きするという事で」


「そうだな」


「そうじゃの」


歴史もそう浅くない暗殺組織の者達なのだ。相手が子供という事もあり、仕損じるという考えは誰も持っていなかった。


「ま、若殿たちの腕前がどうだったか、報告を待つとしようかの」


「ですな」


「ああ」


「全く。お家騒動なんてもうごめんだ」


「そうだな。こんなことをしょっちゅうしているお貴族様を、尊敬してしまったよ」


「私も。変な所で尊敬しちゃったわ」


「ははは!」


「ひっひっひ」


幼子達の殺める事に、何の痛痒を感じていない者達の笑い声が、部屋に響き渡るのであった。


当たり前のことだが、かつて闇組織と完全に殺し合う事になった場合、"怪物"がどのように対処して来たかを知らずに…。




「根は絶つ。皆殺しだ」

暗闘する怪物ユーゴ

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