お家騒動3
リガの街 ユーゴ邸
「コレットとクリス見っけ!あ!?逃がさないぞ!」
「えっへえっへ!」
「えへへへ!」
ユーゴの屋敷では現在、子供達が追いかけっこをしていた。
「ソフィアちゃん見つけた!」
「あ!?ジェナおねえちゃん!?」
広い屋敷だけあり、隠れる所はいくらでもあるので、時に走り回り、時に息をひそめて隠れて遊んでいた。
「グレン君も、ジェナちゃんも、もうすっかり慣れてくれましたね」
「聖女様、ありがとうございます」
当初はどうなる事かと心配していたダンであったが、屋敷にかつて名高かった聖女のリリアーナがいる事を知り、ひょっとしてこの屋敷の周囲に、祈りの国の警備が隠れているのではないかと考えており、ここなら安全なのではと思っていた。
(これが社会的信用…!)
リビングの扉から、廊下を走り回る子供達をニコニコと見ていたユーゴは、リリアーナに恐縮気なダンの声を聞いて、彼等がこの屋敷にいる様、リリアーナに頼んで説得して貰って正解だったと思っていた。
ダンとグレン、ジェナを招いて早数日。最初は戸惑っていたダンも、何度か市場に出てこの家の事を聞いて回ると、どうやら本物の元聖女リリアーナがいる事を知り、グレンとジェナも、いくら聡い妖精族とはいえ、5歳で命を狙われているという実感を持つことは難しく、屋敷にいたソフィア、コレット、クリスと遊ぶうちに、その事を気にすることは無くなっていた。
「おっす!」
「来たぞちびっこたち!」
「こんにちわ」
そんな中、グレンとジェナが家にやってきたため、面倒を見てやろうと、商店街の3人衆もここ数日毎日やって来ており、屋敷は一気に子供達の声が増えた。
「あ!3人衆の兄ちゃんたち!」
「こんにちわ!」
グレンとジェナも、遊んでくれる兄貴分たちの来訪に、声を上げて喜ぶ。
「おにちゃんたち!」
「にーに!」
「にーにー!」
逃げ出していたコレット達も、ワラワラと彼等に集まり、さあ遊べ、すぐ遊べとばかりにじゃれつく。
「おっさんおっさん」
「どうした?」
そんな中、お菓子屋の少年、コナーが輪からそっと外れて、玄関で集まっている子供達を見ていたユーゴに、そっと声を掛けた。
「言ってた通り。グレン君とジェナちゃんの事を、ウチに聞いて来た人がいる」
「そうか…。変に関わってないよな?」
「うん。餅は餅屋」
「そうとも」
グレンとジェナがいる時に遊びに来た3人衆を、追い返すのも忍びないと思ったユーゴは、彼等にグレン達を追っている何者かがいるからと、外で話さないようにと口止めし、聞いて回っている者がいても関わらないようにと言っていた。
聡い彼等は言いつけを守って、ダンと同じように、ユーゴ経由で祈りの国の警護に話が回るだろうと、コナーはユーゴに今日あったことを話す。
まあ、ダンと3人衆は、というかリガの街の市民殆どが勘違いしているが、どっかに隠れているのだろうと思われている、リリアーナについている祈りの国の警護人員はいないが…。
「それじゃ」
「ああ。ありがとな」
言うべきことを終えたコナーは、ユーゴから離れ、きゃっきゃと笑っている子供達の輪に戻り、ユーゴもまた彼等を見守るのであった。
◆
「あの子達も慣れたみたいだね」
「ああ。よかったよかった」
子供達とユーゴの妻達がリビングでお茶とおやつを食べている間、ユーゴとドロテアは、キッチンのテーブルでお茶を飲んでいた。
「俺の故郷じゃチェンジリングって言ったら、妖精が本当の子を攫って、別の子を置く事なんだけど、こっちじゃ違うんだったよな?」
「ああ。実際は確かに親同士の子なんだけど、大昔はそう言われてた。なにせ人間種やドワーフの夫婦でも、妖精種が生まれてくるからね。まあ無理もない」
ユーゴは気になっていたことを、興味本位でドロテアに質問する。
「なんでまたそんな事が?」
「…神々が馬鹿やらかしたせいで起こった、先祖返りみたいなもんさ。これ以上は茶が不味くなるから言わん」
「ふむ」
非常に苦々し気なドロテアの姿に、ユーゴもそれ以上聞くことはしなかった。
「湖の国の国王が亡くなったとして、帰ったあの子達は、王の子供として認められるんかね?」
「フェッフェッ。あまり知られてないけど、人間種の王国なんかには、初代からの血統に反応するような魔道具があるのさ。それを使えば一発だろうね」
「はん?そんなのあるのか」
会話を変えようとしたユーゴであるが、そんな魔道具があるとは知らず軽く驚く。
「フェッフェッ。知らんのも無理ないさ。使い道なんてそれくらいさね」
「ははあ」
事実、先祖からの血統の証明なんてものは、高位の貴族か王族でもない限り、庶民には縁のないものであった。
「まあ、うちの子達も遊び相手が増えて嬉しがってるし、ゆっくりしていけばいいさ」
「フェッフェッフェッ」
国王の死期を知りようがないユーゴは、2,3年どころか、身の安全が確保されるまで、ずっといればいいと思っており、そんな彼を、ドロテアはお茶を飲みながら笑うのであった。
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