商店街へ
「ふひ。ふひひ。ついにこのおんぶ紐と抱っこ紐を使う時だ。ふひひ」
ご主人様が不気味な笑い声をあげて、自分に抱っこ紐とおんぶ紐を付けている。
今日はついに、コレットちゃんとクリスちゃんの、商店街デビューの日だ。
今まで、庭だけでなく、ご近所も散歩していたが、そろそろ人が多い場所にも、子供達を連れて行こうという話になった。
最初は、お姉ちゃんとリリアーナお姉ちゃんが、それぞれ抱いて行くという話だったが、買い物とお金の受け渡しに、両手が空いている必要があると、ご主人様が紐を使うことを提案したのだ。
まあ、それだけなら普通の話だが、何故か紐はご主人様が両方使うと言い出し、それぞれ付けている。
どう考えても、子供達を独占するための言い訳だが、ご主人様も最近出張が多かったから、触れ合いの時間を欲しているのだろう。お姉ちゃんも苦笑しながら頷いていた。
「ふひひ。完璧だ」
後は子供達が、泣きださないかだ…。
◆
「きゃー!ぱぱー!やー!えっへ!」
「きゃあー!ぱぱ!やー!えへへへ!」
「まてまてー」
杞憂だったみたいだ。
コレットちゃんもクリスちゃんも、大笑いで逃げ出している。
「そーれ捕まえた!最初はクリスだ!とう!」
「ぱぱ!えへへへへ!」
ご主人様が、器用におんぶ紐にクリスちゃんを通す。背中にあるのに、紐に引っ掛からなかった。
当のクリスちゃんは、大笑いで手足をじたばたさせていた。
「さあコレット!覚悟するのだ!とう!」
「ぱぱ!えっへ!えっへ!」
次に、少しでも距離を稼ごうと逃げていた、コレットちゃんを後ろから捕まえると、向きを変えて抱っこ紐に通した。
コレットちゃんの方も、大喜びだ。
「へっへっへっへ。完璧だ…。完璧すぎる。これこそパパだ。へっへっへっへ」
ご主人様もだった。
背中と胸の両方に、子供達がいる事にご満悦な様子で、今にも高笑いしそうになっている。
「よしソフィアちゃん行こうか!」
「うん!おじさん!」
「ねー!」
「ねーね!」
ご主人様がソフィアちゃんの手を握ると、掴まっている子供達が、助けを求めるように手を振っていたが、ソフィアちゃんは、よく分かってないみたいだ。
「ジネットー、リリアーナー。行こうかー」
「ええ」
「はい!」
「おばあちゃん行って来ます!」
「はいよ」
私も付いて行こう。
◆
「まあまあ。可愛らしい子達だね」
「そうでしょうそうでしょう!」
八百屋の女将さんが、ニコニコ顔でコレットちゃん達に手を振ると、子供達も真似するように手を振っていた。
なおご主人様もニコニコだ。
「ほら。クリス、コレット。御挨拶だよ」
「くー!」
「こー!」
あ!今自分の名前を言った!
「今お名前言った!?凄いぞ!」
「凄いわコレット」
「まあクリスちゃん!」
「コレットちゃん、クリスちゃんすごい!」
「はっは。親馬鹿だねえ」
びくっと、驚いたご主人様が子供達を褒めて、お姉ちゃんたちも頭を撫でて褒めている。
女将さんはやれやれと言った様子で呆れているが、コレットちゃん達の初めての自己紹介なのだ。どうしても興奮してしまう。
「さて、ルーちゃん。何か買ってくかい?あっちは当分、帰ってきそうにないからね。ユーゴと聖女様は分るけど、ジネットさんもねえ」
あ、私も忘れてた。
ご主人様たちは、子供達を褒めるのに忙しい様だ。
えーっとどれにしようかな。
◆
「さて、ソフィアちゃん。お菓子を買って帰ろうか。食べたいのがあったら、買ってあげるよ」
「ありがとうおじさん!」
親しいドロテアお婆ちゃんの親戚の子だから、ソフィアちゃんにもコレットちゃん達と同じように、かわいがっているご主人様。
今もお菓子を買って帰るようで、手を繋いでお菓子屋に向かっている。
「まあ、皆さんお揃いで。いらっしゃいませ」
「いらっしゃい」
「お邪魔します」
「にー!」
「にーに!」
行きつけのお菓子屋の扉を開けると、3人衆の子も店にいた。
コレットちゃん達はその声を聞くと、ご主人様の体で見えてないのに、大声を出し始めた。
「今僕の事、お兄ちゃんて言った。間違いない」
「ああ間違いない。コレットー、クリスー。お兄ちゃんだぞー」
「にー!」
「にーに!」
ご主人様が体を横に向けて見えるようにすると、コレットちゃん達はしっかりと3人衆の子を見て、手を振りながら呼びかける。
「また遊びに行くね」
「にー!」
「にーに!」
「すいませんうちの子達がいつも…」
「いえいえ。子供達も喜んでますから」
また遊びに行くという言葉に、コレットちゃん達は、嬉しそうな、もしくは、今すぐ遊びに来てくれという様な声を出している。
「コレットちゃんとクリスちゃんのおにいちゃんなら、わたしのおにいちゃん?」
「そう。お兄ちゃん。何でも買っていってね。後でボクの手作りクッキーも付けるから」
「わあ!おにいちゃんありがとう!」
初対面のソフィアちゃんに、お兄ちゃんと断言するとは。
やっぱりこの子は大物だ。
「おじさん!わたしこのケーキがたべたい!」
「よしゃよしゃ。すいませんこれ一つ」
「はい、ありがとうございます」
ソフィアちゃん、いい目の付け所だ。あのケーキは確かにおいしい。
「ありがとうおじさん!おにいちゃんバイバイ!」
「またね」
「にー!」
「にーに!」
手を振り合うソフィアちゃんと、男の子。
そして、何で一緒に来ないのと言わんばかりに、悲痛そうな声を出しているコレットちゃん達であった。
「さあ帰ろうか」
「うん!」
最初は、コレットちゃん達が、人が多い商店街で泣き出さないかと不安だったけど、そんな事はなかった。
この子達も大物だ。
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