パパ帰宅

リガの街 ユーゴ邸前


(帰って来た…。帰って来たぞおおお!)


遂にユーゴは、半月ほどぶりに自宅に帰る事が出来た。


(出張終了!今から夫&パパタイム!)


小大陸をひたすら駆け回り、襲い掛かって来る魔物達をちぎっては投げちぎっては投げ、自分の感知で大きな群れはいないと確信したユーゴは、後は感知に引っ掛からない単体や小さな群れだと、仕事完了の報告をし、即座に自宅へと転移したのであった。


「ただいま!」


テンションの上がり切ったユーゴは、屋敷中に聞こえるのではないかという程の、大声で帰宅を知らせる。


「あなた。お帰りなさい」


「ご主人様おかえりなさい!」


「旦那様。お帰りなさい!」


「お帰りなのじゃ」


「お帰りなさいませ」


「勇吾様!お帰りなさい!」


「おじさんおかえりなさい!」


「わん!」


「にゃー」


「うう…。みんなあ」


ユーゴの家族が玄関に集まり、口々に彼の帰宅を喜んでくれる。

超長期出張から帰宅した彼は、それに感極まって泣き出しそうになっていた。


「さあコレット」


「クリス。パパですよ」


「おおお!コレットオオ!クリスウウウ!」


妻達の腕にいる、会いたくて会いたくて堪らなかった我が子達と目が合い、ユーゴは両手を広げてパパはここだよとアピールする。


「さあ、行くのよ」


「クリス。パパの所へ」


そう言ってジネットとリリアーナが子供達を降ろすと、子供達はカーペットの感触を確かめるように2、3歩歩くと、そのままユーゴの方へと歩き出した。


「ぱーぱ!」


「ぱーぱー!」


「おいで子供達いいい!」


ユーゴが出張する前よりも、ずっとはっきりとパパと呼び、自分の方へ歩いて来る子供達に、ユーゴは腰を下ろして到着を待つ。


「きゃーー!」


「きゃあー!」


「そんなああ!?パパの心を弄ばないでええ!」


しかし、コレットとクリスは、あと一歩でユーゴの腕の範囲に入るという所で、急に向きを変えてリビングの方へと速足で向かい、ユーゴは絶望の声を出しながら、膝と手をカーペットに付けて項垂れるのであった。


「そうか!?追っかけこだね!?」


まあ、即座に復活して、腰を下ろしたまま両手を広げて、子供達を追いかけ始めたが。


「ふふ」


「あらあら」


その姿に妻達は苦笑するが、ようやく愛しい夫が帰った事で、彼女達の心にも温かいものが溢れていた。


「さあ捕まえたぞコレット、クリス!パパを虐めたお仕置きだ!こちょこちょー」


「きゃーー!ぱーー!」


「きゃああ!」


一方、気持ちの悪い姿勢のまま自分の子供達を捕まえたユーゴは、お仕置きと称してそのままお腹の辺りをくすぐっていた。

コレットとクリスも、久しぶりに父と会えたのが嬉しいらしく、身を捩って逃げようとしているが、その顔は笑顔で満ちていた。


「お帰り坊や」


「ただいま婆さん」


「ばー!」


「ばーば!」


「フェッフェッ。親のスキンシップなんだ。付き合ってやんな」


子供達が逃げた先の、リビングのソファで座っていたドロテアに、帰りを報告するユーゴ。

その子供達は、ドロテアに助けを求めるように手を伸ばしていたが、彼女も人の親であったため、ユーゴの気持ちが分からんでも無かったので、愛情表現に付き合ってやれと、その救援要請を断った。


「きゃあー!」


「きゃあああ!」


ただ、子供達も満更でもなさそうで、自分を抱いている父の手をぱしぱしと叩きながら、笑い声をあげているのであった。


「ふふ」


「クリスもコレットも、パパに遊んで貰えて嬉しいのねー」


「まー!」


「まーまー!」


「いや、助けを求めてるような気も…」


「いえおひい様、あれは楽しんでおられますね」


「ほほう。じゃが、必死に手を伸ばしておるぞ?」


「あれは楽しんでいるので、邪魔しないでねという表現です」


「…ほんとかのう。今アレクシアの方を向いたんじゃが」


「あれは助けてアレクシアママという訴えです」


「やっぱり助けを求めてる!?」


「いいな…。私も赤ちゃん欲しい…」


「あはは。凜ちゃん、そのうちそのうち」


「だがルー。私だって早く子供に母上と呼んで欲しい」


「心配しなくても、コレットちゃんとクリスちゃんなら、凜ちゃんの事をママって呼んでくれますよ」


「む。そうか!」


「そうですよ!」


「ふう、満足」


「まー!」


「まーま!」


遅れてやって来て、好き勝手言う自分の母達に、ようやくユーゴから解放された子供達は、父から逃げながら、抗議の意味を込めて、母の足元に突進する。


「あ、そういえばつみきであそんでたんだった」


「ねー!」


「ねーね!」


カーペットに転がってある積み木を見て、さっきまで3人で遊んでいた事を思い出したソフィアがそう言うと、突進先は母ではなく、自分達の姉貴分に変わり、遊びの続きだとそのまま抱き着く。


「ソフィアちゃんありがとうね。コレットとクリスと遊んでくれて」


「ううんおじさん。コレットちゃんもクリスちゃんもすっごくかわいいの!」


ユーゴがソフィアにお礼を言うが、彼女は彼女で、急にできた妹と弟が可愛らしくてしょうがなく、毎日一緒に遊んで笑っていた。


「ソフィアちゃん…。そうだ、何か欲しいおもちゃはある?何でも買ってあげるよ!」


「え、いいの!?それじゃあ、くまさんのぬいぐるみ!」


「よしゃよしゃ。早速買いに行こう!婆さん来てくれ。ぬいぐるみの良し悪しなんて分からん」


「はいよ。てっきり本物を連れて来るかと思ってたんだけどね」


「んなことするか!」


「おばあちゃん!はやくいこう!」


「はいよ」


「全く俺を何だと…」


今日もユーゴ邸は平和であった。

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