後始末

海の国 会議室


「何ですと!?解決した!?」


大陸に帰還したユーゴは、さっそくドナートを通して会議を開いてもらい、小大陸での一件を報告していた。

しかし、船の国の面々からすれば、あの地獄の様な魔物の群れを、この短時間で何とかしたなど、全く予想外の事であった。


「はい。その説明をしたいのですが、船の方に畜産の国の生き残りの方は居ませんか?」


「いえ…。あの国とその近辺は、最初に魔物の群れに滅ぼされたので…。やはり原因はかの国に?」


船の国で大臣をしていた者が答えるが、小大陸にいた頃から、魔物の群れの最初の発生は、畜産の国らしいと魔物の侵攻ルートから予測されていたので、ひょっとして原因もこの国ではないかと思っている者も複数いた。


「どうやら何らかの手段で、魔物を生み出し続ける、女王の様な存在を作り上げたようで、その女王が研究所に巣くっていました。どうやら暴走して手に負えなくなったらしく、それが原因で…」


「なんてことだ!」 「人種全てに対する反逆だ!」 「神々よ…人種の愚行をお許しください」


もし畜産の国の生き残りがいれば、肩身の狭い思いするだろうと、この件をぼかして伝えるつもりであったが、いないのであれば戒めの意味を込めて、原因を伝える事にした。

嘘と共に。


(婆さんの言う通りだ。まだあの技術は俺達に早すぎる)


ユーゴは、自分の故郷でも長年問題となっている技術を思い出す。

もちろん、素晴らしい技術という事も分かっている。研究が進めば、食糧問題の解決や人工臓器などの道が開かれるだろう。

そして今の大陸なら必ず兵器へ…。


「それでその女王は…」


「仕留めました」


「おお…」 「流石は守護聖人殿」 「なんてことだ…あの魔物をかき分けて…?」 「そんな馬鹿な…」


何でも無いかのように言うユーゴに、敬意と畏怖の視線が集中する。

これも研究所はドロテアがやったため嘘であったが、その彼女は、年寄りは流石に疲れたから、後は頼んだと、ユーゴに後を託して、一足先にリガの街へと帰還していた。


「ですので、後は残った魔物を減らしていけば、皆さんの小大陸への帰還は夢ではないかと」


「おお!」 「故郷へ!」 「ああ…」 「なんてことだ…なんてことだ…」 「ありがとうございます!」 「ユーゴ殿感謝します!」


このユーゴの言葉に、船の国の面々は歓喜を爆発させる。口々にユーゴへの感謝を述べながら、隣の者と笑い合っていた。


「もちろん海の国は援助しますぞ」


「我々エルフの森もです」


「祈りの国も」


「皆様。このマルバン6世、感謝いたします」


援助を約束する各国に、船の国の代表であるマルバン6世が起立し、一同に深々と頭を下げる。


「それでですな…」


マルバン6世が席についた事を確認したユーゴは、それはもう言い辛そうに話しだした。


「そのう…。穴と山がですな」


「いや、ユーゴ殿。ドナート枢機卿からお話を受けております。小大陸を奪還して頂けたのですから、それは強力な魔法を使われたのでしょう。山と穴の一つや二つ、感謝こそすれ、誰も文句などしませんとも」


「そうですか!いやあ、ありがとうございます!」


ユーゴは、必要とはいえ仕出かした、小大陸の少しばかりの被害を気に病んでいたため、マルバン6世からのお許しが出た事に、ほっと胸を撫で下ろした。


最も、ユーゴの力を少なからず知っているドナートは、船の国の面々が考えている穴と消えた山の規模が、自分とは全く異なるだろうと思っていたが、一つの大陸から魔物を駆逐できるのなら、安いものだとろうと、あえて黙っていた。


そして後年の事になるが、小大陸に帰還した人々は、始まりの港から小大陸の奥に行くにつれて、あったはずの山が丸ごと消え去っていたり、底の見えない大穴が出来ていたりと、恐ろしい恐怖体験をすることになるが、それはまた別の話。


「それでユーゴ殿。魔物の原因を取り除いてくれた貴殿に、またお願いするのは非常に心苦しいのだが、どうか今少しお力添えをお願いしたいのです」


「ええ。まだ小大陸全てを、回った訳ではありませんからね」

(あああああああああ!ごめんよ皆あああああああ!コレットオオオ!クリスウウ!パパはもうちょっと出張だからねえええ!)


ユーゴは元々そのつもりであったが、改めて言葉にされ、自分の仕事がまだ終わらない事に絶望するのであった。



リガの街


「あ!おかえりなさいおばあちゃん!」


「ああただいま。仲良くやってるようだね」


「うん!」


「ばーば」


「ばば」


ドロテアがユーゴ邸のリビングに入ると、カーペットに座っているソフィアの両隣に、寝転がっているタマとポチに抱き着いている、コレットとクリスの姿があった。


「お帰りなさいドロテア様」


「ありがとよリリアーナ。坊やだが、魔物の根本を叩いたから、後は数を減らせば帰って来るだろう。何、そう掛からん」


「まあまあ。よかったわねクリス。コレット。パパはもうちょっとで帰って来るって!」


「ぱー!」


「ぱーぱ!」


何だかんだ父が居なくて寂しのか、パパと言う単語に大きく反応する子供たち。

この場にユーゴが居れば、大粒の涙を流していただろう。


「ただ、ソフィアの母が落ち着くまで、もう少しかかるだろう。坊やにも頼んだが、もう少しここに置いておくれ」


「ええ。もちろんです。クリスもコレットも、お姉ちゃんが居て嬉しいよね」


「ねーね!」


「ねー!」


「きゃー!」


その言葉が分かったのか、立ち上がったコレットとクリスが、それぞれ左右からソフィアに抱き着く。


「フェッフェッフェッフェッ。よろしく頼んだよ」


「はい」


幼い子供達の仲睦まじい姿に、自然と笑みをこぼすドロテアとリリアーナであった。



「コレットオオオ!クリスウウウウウ!パパ出来るだけ早く帰るからねええええ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る