最も恐ろしきモノ

リガの街 ユーゴ邸


カラカラ


「コレットー。カラカラだぞー。カラカラー」


「ふふふ」


子供用の音の鳴るおもちゃを、ジネットに抱かれているコレットの前で振ると、目がおもちゃを追って左右に動く。コレットは母親に抱かれていることもあってご機嫌だ。小さな手足が動き回っている。


子供達は段々と起きている時間が長くなって来ており、その分遊ぶ時間が増えた。


「あー」


「おおコレット。あー」


「パパよコレット。私はママ」


微笑んだような表情で声を出す娘。可愛い。

む。このタオルを口元に運ぶ動きは。


「はいコレット」


授乳中になってしまった。

クリスもそうだったが、終わったかな?


「クリスー。お腹いっぱいですかー?げっぷをしましょうねー」


どうやらちょうど終わったようだ。リリアーナがクリスにげっぷをさせようとしている。優しく背中をとんとんすると、すぐにげっぷが出た。クリスの方にもおもちゃを振ってみよう。


「クリスーカラカラだぞー」


「うふふ」


目はおもちゃ追っているが、なんだか不思議そうにしている。


⦅あ!クリス起きてる!⦆


⦅コレットも⦆


巡回警備を終えたタマとポチが、子供達が起きていることを知ると駆け寄って来る。


⦅クリスー。ポチだよー⦆


⦅コレットはお食事中⦆


「あー。あー」


俺の背中に回り、肩からひょっこり顔を出したポチを見たクリスは、興奮したように声を出しながら手足を動かす。


「クリスよかったですねー。ポチちゃんが来てくれてー」


ポチ達とは産まれた時からずっと一緒なのだ。すっかり仲良しだ。

今もクリスの視線はポチに釘付けになっている。


「もういいのコレット?」


コレットの授乳も終わったようだ。

ふむ。今ミルクを飲んだばかりだから少し時間を空けて…。


「ジネット。リリアーナ。時間を空けて外に行くかい?」


「そうですね」


「はい!」


よし!それでは初めての外出だ!



お天気よし!小さなお帽子よし!ご機嫌よし!蜂やらは外に無し!


「それじゃあ行くよコレット、クリス」


ジネットとリリアーナが、小さな帽子を被った子供達を抱いている。

今までカーテンと窓を開けて慣らしてはいたが、子供達が本格的に外に出るのは初めてだ。

ゆっくりと玄関の扉を開けていく。


ジネット達が少しずつ外に出て行くと、子供達の顔が固まっていく。情報量が多すぎて処理しきれてないのだろう。

日の光だけじゃなく、風もあれば庭にある花の匂いもするのだ。全く未知の世界だろう。


「ふふ。コレット。びっくりしたかしら」


「うふふ。クリスー」


ジネット達も、そんな子供達を見て微笑んでいる。

写真だ。写真を撮ろう。初めてのお散歩だ。


パシャリ


うむ。

玄関を背後に、抱きかかえられて固まる子供達と微笑む妻達。またアルバムに思い出が増えた。

子供達が大きくなってこの写真を見ると、笑ってしまうのではないかと思うほどの固まりっぷりだが。


「それじゃあ戻ろうか」


今日は慣らしだ。そのうち慣れて行けばいい。



「コレットちゃん。ルーお姉ちゃんですよー」


他の妻達も、時間があれば子供達の所へやって来る。今はルーが姪っ子を抱っこしてあやしていた。今もコレットの足をくすぐっていた。

コレットも血の繋がりが分かるのか、ジネットと俺、アリー以外では最も微笑む回数が多い。


⦅タマです⦆


「あー」


それとタマだ。

コレットがお腹にいる時から、ジネットのお腹に耳を当てて自己紹介していたタマだからか、コレットがタマを見つけると、手を伸ばして掴もうとする様な仕草さえする。


⦅どうぞ尻尾です⦆


「うー。うー」


「コレットちゃんご機嫌ですねー」


そんな関係だから、タマが尻尾をコレットの腕に置くと、コレットは大興奮して自分の手足を動かす。


「あらあら。お眠ですかクリス。ママが子守唄を歌ってあげましょうね」


クリスの方は、外出が疲れたのかうとうとしていた。リリアーナが子守唄を歌いながら揺らすとすぐに眠ったようだ。

初めてのお散歩ご苦労様。



「リリアーナ終わったぞ。次の番だ」


「はい」


「リリアーナ足元に気を付けてね」


ジネットとコレットが入浴から帰って来た。母と子の入浴も今日が初めてだ。

今日のために婆さん監修の下、コンパクトに纏めた浴室を作ってある。出来るだけ腕の範囲で一通りの作業が行える奴だ。そこへアリーにも介助して貰って入浴している。


「コレットー。ママと一緒に入れて良かったねー」


血行のよくなったコレットが、腕の中で暴れていた。

うむ。美人さに磨きがかかっているぞ娘よ。お肌もプニプニだ。可愛い。


「あなた。私も夜中に起きますよ?」


「ダメだよジネット。まだまだ本調子じゃないんだ。出来る俺…じゃなかった、パパに任せて」


深夜も起きている俺とアリーに気を使っているジネットだが、俺の目から見てまだ本調子じゃない。ちゃんと寝るべきだ。まだ子供達も夜泣きはするのだから。

しかし、うっかりコレットの前で俺と言ってしまった。人生の殆どを俺と呼んでいたのだ。なかなか修正が出来ない。


「ほら。湯冷めしないうちに早く」


「もう。わかりました。お願いします」


ジネットから娘をもらい受け抱っこする。最初はおっかなびっくりだったが、流石に毎日していたら慣れる。

コレットも、特に嫌がるわけでもなく俺の方をじっと見ている。


「お目目が綺麗だねー」


「ふふ。それではお休みなさい」


「お休みジネット」


コレットはお任せあれ。なんたってパパですからね。

はっはっはっはっ!

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