待ち望んだ日は突然に

本日投稿3話目です。ご注意ください。ついにやってきました。



リガの街 夜


「あ、旦那様。今クリスがお腹を蹴りました」


「はっはっは。元気だなあクリスは」


リビングに座ってリリアーナと話しているが、クリスは生まれる前から元気の様だ。

もういつ産まれてもおかしくないが、さて。


「柑橘とって来ようか?」


「そうですね。お願いします」


冷蔵庫にしまってあるから取りに行く。あった!?リリアーナの気配が揺らいだ!?


「旦那様…お腹が!?」


「リリアーナ!?」


「リリアーナお姉ちゃん!?」


急いでリビングに帰ると、リリアーナがお腹を押さえて蹲りそうになっている!

顔は痛みに耐えているようで、脂汗が滲んでいる。

まさか!?


「クリスが…!」


「ルー!リリアーナを見てて!婆さん呼んでくるから!」


「はい!」


ルーにリリアーナを託す。俺は婆さんを呼ばないと!

婆さん頼むぞ!



「ほら背負いな」


流石婆さんだ!俺が来た時には準備万端と言った様子で、普段見かけない白い杖を持っている。とんでもない力を感じるが、それどころじゃない。


「ありがとう婆さん!」


急がねば!


「ぐるる」


「グルルル」


家に帰り付いたが、ポチとタマが臨戦態勢で庭にいる。ポチは炎の狼と言った感じで、タマは氷の虎だ。精霊の姿はそうなるのか。


「リリアーナは!?」


気配で、寝室だとは分っているが思わず聞いてしまう。横になっている。大丈夫だ。クリスはまだお腹にいる。


「ご主人様!ご主人様の寝室です!」


ルーが出迎えてくれた。他の皆は寝室でリリアーナを看病しているようだ。


「婆さん!」


「はいよ」


婆さんを背負ったまま俺の寝室に入る。あそこが一番広いから、出産の際は使うように決めてあった。


「リリアーナ大丈夫!?」


「旦那様…うっ」


「あなた!」


リリアーナが苦しそうにジネットの手を握っている。他の皆も邪魔にならないような場所で、出産の準備をしながら心配そうにしていた。部屋は既に出産の準備が整えられており、清潔なタオルから、産湯用の容器まで準備されていた。


「始めるよ。アレクシア、手伝っておくれ。坊やは手を握っててあげな。他の皆はリビングでジネットといるんだ」


「畏まりました」


「ああ!」


婆さんが杖を使って部屋を消毒しながら開始する。


「リリアーナお姉ちゃん頑張って!」


「わしも応援しておるからの!」


「リリアーナ殿。お待ちしております」


皆が応援の言葉を掛けて部屋から出て行く。


「リリアーナ。頑張るんだぞ」


「ふふ。はいジネットさん。ううっ」


最後にジネットが声を掛けたが、お互い妊娠しているからか、リリアーナも一番の笑顔で答える。


「さて長くなるかもしれん。気合入れていくよ」


婆さんとアリーがリリアーナの下に回る。

俺はリリアーナの手を握る事しかできない…。握られている力はかなりのもので、彼女の感じている苦痛が伝わってくるようだった。


「リリアーナ!」


「ふふ。旦那様、クリスが皆と会いたいって」


「ああ!そうだな!」


顔中に汗をかきながらそう言うリリアーナ。

大丈夫だ。きっと大丈夫だ。


「ほら、前練習した通り、ひっひっふー。って呼吸をするんだ。ひっひっふーっ!」


「は、はいぃ。ひっひっふー」


こっちにラマーズ法があったとは知らなかったが、何度か婆さんとリリアーナは練習していた。

これ本当に効果あるんだよな!?頼むぞ!


「ほら繰り返すんだ」


「ひっひっふー!」


頑張れリリアーナ!

ああ、父さん母さん頼むよ。2人を守ってやってくれ!


ん!?ヤバいジネットもだ!ストレスを感じたか!?


「連れて来な坊や」


「ああ!」


リビングにいるジネットの気配が揺らいでいる!婆さんも気がついたようで、連れてくるように言われた!


「ジネット!?」


「あ、あなた…お腹が…!」


「ご主人様お姉ちゃんが!」


やはり彼女も必死に苦痛に耐えるようにしている。まずいぞ!婆さん2人同時とかできるのか!?

ともかく連れて行かねば!


「ジネット運ぶからね。ゆっくりだ」


「は、はい…!」


「お姉ちゃん頑張ってね!」


「ふ、ふふ。ああ」


ゆっくりジネットを抱きかかえて部屋を出る。その時ルーが心配そうにしながらも応援の言葉を掛けた。


「婆さんジネットを!」


「リリアーナの隣に寝かすんだ」


リリアーナの様子を見ながらそう指示する婆さん。汗一つ掻いてないのは無いのは流石だ。頼りになる!


「うふふふ。もう会っちゃいましたね」


「ああ、どうやらそのようだ。ぐっ」


隣にあっている2人がそう声を掛け合っていが、俺も予想外だ!


「婆さん2人一緒は大丈夫か!?」


「任せな」


そう言うと婆さんは、壁に立てかけていた白い杖を持って呪文を唱えた。


【失われし 大いなる 神の 現身たる 我を 2つに分け この困難に 対処する】


げえ!?婆さんが二人に!?どうなってんだ!?

と言うか今幾つ唱えた!?


「ほら、さっさと手を握ってやんな」


「さっさとおし」


「あ、ああ」


気配も魔力も全く同じ婆さん2人。普段会ったら逃げてたが、そうも言ってられない!


ベッドの上に上がり、ジネットとリリアーナの真ん中で2人の手を握る。


「あなた…!」


「旦那様…!」


「がんばれ!がんばれ2人とも」


「はん?コレットの方は頭が見えたね」


「え!?」


もう!?ウチの娘マイペース過ぎ!?


「う、うう!?」


「クリスの方もだね」


なんてこったい!同時か!


「ほら、もうひと踏ん張りだ」


「はいぃ!ひっひっふー!」


「ぐうう!」


頑張ってくれ!


「あう!?」


「ぐ!?」


「ほぎゃあ!ほぎゃあ!」


「おぎゃあ!」


声が聞こえた!間違いない!気配も外に出た!絶対に間違いない!


「生まれたよ。お疲れさん」


「アレクシア。産湯を」


「はい。ユーゴ様、ジネット様、リリアーナ様、おめでとうございます」


おおおおおおおおおお!!


「はあはあ。旦那様」


「あなた…」


「ジネット!リリアーナ!ありがとう!ご苦労様!」


疲労の極みと言った様子だが、2人とも微笑んでいる。


「ほら抱いてやんな」


「首はしっかりとね」


婆さん2人がクリスとコレットを連れてリリアーナとジネットに渡す。今はそれどころじゃないが戻るんだろうな?


「あああ。クリスぅ。ママですよー。ぐすん」


「コレット。初めまして」


子供達は部屋の光が煩わしそうに目を閉じているが、しっかりと母親を認識しているようで、安心したようにしている。


「旦那様。クリスを抱いてあげてください」


「コレットも」


「あ、ああ!」


クリスとコレットを順番に抱き上げる。

父さん母さん!見てるか!?あんたらの孫だ!見せてあげたかった!


「おお、おおお!」


「ほぎゃあ!」


「ほぎゃあ!」


「ああ。ごめんね!」


気がつけば声を出して涙していたが、コレットとクリスもまた大声で泣き始める。ごめんね2人とも。


「生まれたんですね!お姉ちゃん!リリアーナお姉ちゃん!おめでとう!」


「めでたいのう!」


「おめでとうございます!」


外で、婆さんが消毒した皆が入って次々と祝福してくれる。

こんな幸せな事が…!


「今日は泊まるから、部屋を頼むよ」


「ありがとう婆さん!本当にありがとう!」


元に戻った婆さんにお礼を言う。本当に感謝している。


「気にせんでいいよ。さあ、子供らのベッドを用意してやんな」


そうだ、ベビーベッドを準備しないと!


「うふふ。クリスー」


「随分すんなり出て来たねコレット」


ジネットもリリアーナも子供達に語り掛けている。

まさに母親の顔だが今日から俺も父親だ!


やったぞおおおおおおおお!!

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