商店街の3人衆
本日投稿2話目ですが、前話の見る際はご注意ください。
ちうちうち…?
んむ?
「おはようございます。おひい様」
目が覚めるとアレクシアに挨拶されたが、また首筋に吸い付いておったのか…。恥ずかしい…。
「おはようなのじゃアレクシア」
ここは堂々としておこう。いつまでも昔の童女ではないし、吸血鬼が人の首筋を吸うのは当然なのじゃ。うむ。
「浴室へ行きましょうか」
「そうじゃの」
朝風呂。なんと甘美な響きじゃ。特に、だんな様が作った木の風呂は、香りがあってお気に入りだ。
「セラ、アリーおはよう」
「おはようなのじゃ」
「おはようございます」
噂をすればと言うか、浴室にはそのだんな様がいた。どうやらお湯を張っているらしい。
ここ数日、いよいよ出産を控えているジネット殿とリリアーナ殿のために、就寝は常に彼女達と一緒であるが、普段から日中の旦那様は皆と一緒なので、特に寂しいとは思わなかった。
それに、この家で生まれる赤ん坊を皆が楽しみにしていた。
「それじゃあ俺は、ジネットとリリアーナを起こしてくるね」
「わかったのじゃ」
お腹の大きくなった彼女達の入浴には、だんな様も付いて入っている。手の回らない部位が多いから足などを拭いている。2人とも恥ずかしそうであったが、だんな様が押し切った。
落ち着いたら、わしがだんな様を洗おう。うむ。
◆
商店街
「あらユーゴさん。いらっしゃいませ」
「あ、おっさんじゃん!いらっしゃい!」
「お邪魔するよ」
商店街にだんな様と来て果物屋に寄っているが、そうか腕白3人衆のリーダーはここが実家じゃったか。
相変わらず短い髪の、気の強そうな少年じゃ。
「はい。こちらがご注文されてた柑橘です」
「いつもありがとうございます」
妊娠している2人が柑橘を好む様になって、我が家は常に必要としていた。
「なあおっさん。ポチとタマは?」
「ああ。精霊だけど、外見は犬と猫だからな。食品売ってる店が多い商店街には連れて来にくい」
「そっかー」
この前3人衆が屋敷に来た時に、だんな様とポチとタマが出迎えた様だが、人懐っこいポチとタマをすっかり気に入ったようで、庭で走り回っていた。
「いつもケビンがすいません」
「いえいえ。ウチのペットも喜んでましたから」
ポチは別れを惜しんで、3人衆全員の顔を舐め回っていたくらいじゃ。
「それではこれで」
「ありがとうございました」
「じゃあなおっさん!」
さて、次は酒屋じゃな。吸血鬼は赤ワインが無ければ死んでしまうし、だんな様もそこそこ飲む。
◆
「あれ?おっさん?」
「邪魔するよ」
ん?酒屋も3人衆の一人の実家じゃったか?店の外で掃除をしておる。
「マークお客さんか?」
「ユーゴのおっさんが来てるよ!」
中から聞こえてきた声に大声で返す少年マーク。リーダーと似ているが一番背が高い。
「おやユーゴさん。いらっしゃい。いつもの赤でいいのかな?」
「ええ、お願いします」
「分かりました。マーク、持って来てくれ」
「りょうかーい」
わしもだんな様も、夜の国の赤ワインが好きじゃ。故郷の味が一番と言うより、吸血鬼が多いから、その分ワインの製造にかなり力を入れている。
「はい。いつものやつ」
「あんがとさん」
「いつもありがとうございますユーゴさん」
「いえいえこちらこそ」
「あ、そうだ。お子さんが生まれるなら、記念のワインはどうです?」
「ほほう」
中々商売上手な店主じゃ。そう言われたらだんな様は買うじゃろう。
「ええ。成人の記念とか、結婚式とか」
あ、まずいのじゃ。
「け、結婚…」
あちゃあ。
「お、男の子用に」
「そうですね!」
ナイスじゃ店主よ。産まれても無いのに、コレットの結婚の話になるとだんな様は憂鬱になってしまう。どうやら正夢の日に何か見たらしい。
クリスの方は特に心配しておらん様じゃが、娘をもった男親の悲哀かの。
「しかし無いなら無いでコレットが悲しむかも…。うぐぐ。2つください!」
「あ、ありがとうございます」
今にも血反吐を吐きそうな顔だったから店主が引き気味だ。
マーク少年の方は慣れたもので平然としている。
さて次はお茶の時間用のお菓子か。
◆
「おっさんいらっしゃい」
「お邪魔するよ」
んん?ここにも3人衆が。最後の1人、太っているというよりは、がっしりした体格の少年だ。表情がアレクシアに似て無表情に近い。
どうやら全員が今日は実家の手伝いの様じゃの。
「ああユーゴさんいらっしゃい」
「お邪魔します」
奥からこれまあ体格のいい女将さんがやって来た。どうやら母親似じゃの。
「修行中かい?」
「そう。おっさんから貰ったお菓子の味を再現中」
「ウチのコナーが本当にいつもすいません」
「いえいえ」
よくお菓子をねだる印象が強かったが、そんな事を。ちゃかりしてるの。
「焼き菓子を幾つかお願いします」
「はい少々お待ちください」
「僕が作ったのを普段のお返しに。今度感想お願い」
「お、ありがとな」
買ったものとは別に、少年が別の包みに小さな焼き菓子を入れていた。匂いから、なかなかいい腕をしているのではなかろうか。
「こちらになります。アレクシアさんにもよろしくお伝えください」
「ええ。分かりました」
お茶を入れるアレクシアは、よくお菓子屋に出入りしている様だ。
「さて帰ろうかセラ」
「分かったのじゃ」
帰りは肩車じゃった。うむ。絶景かな。
◆
人物事典
商店街がきんちょ3人衆
果物屋の元気小僧ケビン。酒屋の高身長マーク。お菓子屋のちゃっかりコナー。3人揃って商店街3人衆。
普段は3人でつるんでいるが、繁盛期や手の足りないときは家の手伝いをしている。
幼い時期は店が忙しいときに手伝えなかったため外で遊んでいたが、暇していたユーゴが3人と遊んだことが切っ掛けで彼に懐く。お菓子をもらったり、背負われて商店街を回ったこともあった。そのため、現在でも姿を見かけたら寄ってくる。彼等にとって、繁盛期限定の父親代わりであったのかもしれない。
3人ともなんだかんだ堅実で、店を継ぐには十分の様だ。
「おっさんとこに子供が生まれたら兄貴分は俺達だ!」
「まあちょっと年が離れてるけどな!」
「今度はお菓子をあげる番」
ー商店街3人衆ー
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