ポチとタマ

リガの街 ユーゴ


「だから!一番美しいのはダークエルフのジネット様だと言っているだろう!」


「なにを!?侍女服を着ているアレクシア様の美しさが分からんのか!?」


ルーと凜の3人で買い物の途中だが、聞き覚えのある声で奥さんの名前が聞こえてきたから、そちらを向いたが、げ、吟遊詩人の2人だ。まだこの街にいたのかよ。あと俺の奥さんの事でヒートアップするな。どっちも美人さんじゃい。


「ほえー。あれがお姉ちゃんの言ってた吟遊詩人さんかー」


「知り合いかルー?」


「いやあ、悪い意味でかなあ」


ルーもジネットから聞いていたか…。

言葉だけ聞くと一途な感じだが、どうやら至る所で女性を口説いていたようで、一時期商店街から要注意人物扱いされていたようだ。

そんな奴らが大通りで口論しているのだ。正直目を合わせたくないが、自分の奥さんの事でヒートアップされても困る。関わりたくないが止めに入ろう…。


「もし、吟遊詩人のお二人」


「むう!?出たな破廉恥男!」


「天下の往来によく出てこれたものだ!」


止めに入ったら、2人から邪魔者扱いされた。お前ら仲良くないか?


「何度も言いますが、ジネットとアレクシアは私の妻でして」


「ええい、最早そんな事は関係ない!せめて歌だけでも聞いてもらわねば!」


「そうとも!覚えていろ破廉恥男!」


そいうなり2人とも去って行った。

とんでもない奴等だ。奥様ネットワークを利用して街にいられなくしてやろうか。いや、だめだ。俺も多分要注意人物だ…。


「ちょっと服屋に行こうか…」


「はいご主人様!」


「はい」


連中の事はまあいい…ダンディな店主の服屋に用がある。妊娠帯を買わねば。

あそこは一番俺の趣味に付き合わされているが、まあ店主も面白がってるしいいよな。


「いらっしゃいませー」


「お邪魔します」


愛想のいいお姉さんに出迎えられながら、妊婦さんエリアを探すが…おおあった!流石ナイスミドル!2つ買っていこう。


「へーこういうのもあるんですね」


「腹巻?」


「妊婦さんの腰痛とか防ぐのだね」


まあ、妊婦さんがいないと縁は無いよね。俺も薄っすらと覚えていただけだし。


「おやユーゴ君。久しぶりだね」


「ご無沙汰してます」


いざ買おうとしたら、ロマンスグレーのナイスミドルな店主が声を掛けてきた。ジネットのお腹が大きくなったから、趣味に付きあって貰う機会が減っていたのだ。


「ああ、妊娠帯か。もうそんな時期かね」


「ええ。もうすぐ2児の父です」


「ふふ。子供用の服も是非うちでね」


「勿論です」


だが簡単な服はリリアーナがもう編んでいる。となるとおめかし用のだな。


「あ、そうそう。なんでも犬と猫を飼い始めたらしいね」


「ええ」


色が奇抜だからすぐに噂になった。まあ元々噂だらけのうちなんだ。今さら気にせん。


「流石に首輪は置いてないけど、スカーフくらいならすぐ作れるよ?」


「買います」


我が家の新しい家族も着飾る必要がある。

そうだこの店に唐草模様の布があったな。いつだったか東の国のを参考に店主が作ってたはず。あれを使って貰おう。


確かこの辺に、あった。


「すいませんこれで作って下さい」


「ああ、東の国の模様か。すぐ切るよ」


「なんだか異国情緒ある模様ですねー」


「ルー。これは唐草模様と言う」


うむ。これで愛らしさ倍増だ。

あ!?


「抱っこ紐とかあります?」


「おんぶ用もあるよ」


流石だ。流石すぎる。


「ルーと凜は何か買っていかない?」


「大丈夫です!」


「私もです」


凜は足が長いモデル体型だからズボンとか似合いそうだけど、スカートの方がいいみたいだ。

ルーは…基本メイド服だから、私服を持て余しているくらいらしい。たまに可愛らしいのを着て俺に甘えてくるが。


帰ったらすぐ付けてあげよう。



「ただいまー」


「ご主人様ポチが!」


「すごい速さだ」


屋敷の門に手をかけると、庭で転がって日向ぼっこしてたポチが猛ダッシュしてきた。とってもいい笑顔で。


⦅ご主人お帰り!お帰り!⦆


はいただいま。


そのままジャンプして、俺の顔にへばり付いたポチが舐め回してくる。なかなかの跳躍力だ。

どうも人工精霊と生みの親は、思念である程度意思疎通ができる様だ。ソファにいる時に、ポチに撫でてと言われて腰を抜かしそうになった。


⦅ルーお帰り!凜お帰り!⦆


「きゃー」


「んむ、こら止めてくれ」


一通り満足したのか次はルーと凜に襲い掛かっている。何という猛犬。攻撃方法は舐めるだが。

ポチにべろんべろんされたが、生物ではないから唾液まみれではない。温かいタオルで拭かれたような感じだ。


「ポチ警備隊長殿」


「わん!」

⦅はい!⦆


満足して凜から降りたポチに声を掛けると、ポチはお座りの姿勢で直立不動になる。狸顔が可愛い。ほっぺムニムニしたい。


「警備隊の制服を支給します」


⦅制服!…制服?⦆


しゃがんでポチに、唐草模様のスカーフを巻き付ける。


「うむ。似合っているぞ」


「ポチ似合ってますよ!」


「か、かわいい」


ルーと凜も誉めている。凜は意外と可愛いものが好きだ。


「わん!」

⦅似合ってる?ボク似合ってる!⦆


尻尾を振りながら笑顔のポチ。可愛いから抱っこして家に入ろう。いや、凜もしたそうだな。


「はい凜。連れて行ってあげて」


「あ、はい!」


持ち上げたポチを凜に渡す。


⦅抱っこ!抱っこ好き!⦆


「あ、こら。ふふ」


大はしゃぎするポチを鎮めようとしながら、満更でもない凜。ポチの尻尾が千切れそうなくらい振られてる。


「ただいまー」


「お帰りなさいあなた」


「にゃー」

⦅主帰宅 おかえりなさい⦆


お腹の大きくなったジネットと一緒に、足元にいたタマが出迎えてくれる。タマも俺に思念を飛ばせれるとは驚いたものだ。


「タマ警備隊長殿」


「にゃ」

⦅はっ⦆


「警備隊の制服を支給します」


⦅恐悦⦆


もう一人の警備隊長にもスカーフを巻き付ける。うむ似合っている。後で肉球をぷにぷにしよう。


「わー。タマ可愛いです!」


「にゃあ。にゃあー」

⦅警備任務続行不可能。抱っこ任務開始、長時間希望⦆


「わん!」

⦅タマ!お揃い!お揃い!⦆


タマはルーが抱きしめてしまった。しかし、結構甘えん坊なタマは満更でもなさそうだ。尻尾が揺れている。

ルーと凜に抱き上げられ、無力化される我が家の警備隊長達。我戦力ナシ。


「妊娠帯を買って来たから、後で付けてみて」


「ありがとうございます」


後でジネットとリリアーナのマッサージだな。それと婆さんからもらった妊娠線予防のクリームだ。まあ、魔法で治るが、出来ないならその方がいいだろう。

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