人工精霊

リガの街 ユーゴ


「あなたぁ…」


「だんなさまぁ…」


隣で寝ているジネットとリリアーナだが、寝言でも俺の事を呼んでくれるとは…。嬉しい。

2人のお腹はいよいよ大きくなり始めている。腰痛を起こすといけないから妊娠帯が必要だな。服屋のナイスミドルの店主に頼んでみよう。


「コレットがペットが欲しいと」


「クリスがワンちゃん欲しいって」


何ですと?寝言?正夢の日は過ぎてるけど…。

よろしいパパに任せなさい。



どうしようか箒1等兵。飼った事ねえんだわ。


カッ!


うむご苦労。

子供の情操教育にいいって大昔に聞いたような気はするけど、死んだら悲しいよな。俺が大泣きする自信があるわ。

それに都市部ではあんまり犬とか飼ってないんだよな。田舎とかだと大事なパートナーだが…。

後はアレルギーとかだな。

ううむ…。そう考えるとなかなか難しいな。


うん?滑り台?

ちょっと保留だな。流石に早すぎた。そういう事に楽しみを覚えるくらいに改めて作るよ。プールと一緒に。


え?ペットも早いかな?

いやあ、子供にお願いされたからさあ。まだ、産まれてないけど。



ふうむ。ペット…ペット…。


「さあさあ皆様!魔法の国で生まれた、話題の人工精霊石が入荷しました!日常生活から戦闘までこなせる生涯の相棒はいかが!」


ん?


仕事関係で行っていた石材屋からの帰り道で、なにやら大声で宣伝していたから行ってみると、魔法関係の店で人工精霊石なる物が販売されていた。

あそこは呪文を封じた巻物や、杖を売っていたどちらかとういうと冒険者よりの店だったが、はて人工精霊?


「ご覧ください!これが私の人工精霊の相棒です!」


「にゃあ」


そういう店主の足元を見ると、僅かに帯電している黒猫がいた。


「人工精霊は主人の魔力を食べながら生きるので、エサ代はいらず、しかも寿命はありません!主人が死ぬまで隣にいて絶対服従!」


「あれ?おっさんじゃん」


「よっす」


「石は食べれない」


お馴染み3人衆もそれを見ていたが、それほど興味はない様だ。なんだかんだで3人衆は堅実だからな、よく分からん新製品は対象外なのだろう。


「よう。あの人工精霊石?は話題なのか?」


「知らないのかよ。魔法の国じゃあ、人工精霊の相棒を持つのが流行りらしいぜ」


「って爺ちゃんたちが言ってたぞ」


「そもそも高いし、強い衝撃を受けると死んじゃう」


ちょっと世間から遅れている様だな…。

どれどれ?見た目は虹色の光る石だが…確かに高いな。冒険者用の店だが、高位の冒険者がしか買えんだろう。

というか。


「石で精霊で相棒?」


「なんか触ると、そいつに応じて精霊が出るって聞いたぜ。大体動物みたいだけど、たまに虫とか分けわからんのとか」


「高位冒険者とか魔法使いだと、火とか水とか属性付き」


「蜂蜜溜めるなら買う。売るによし、食べるによし」


ほほう。いいことを思いついたぞ。今は目立つから寄り道してから買おう。あれだけの値段だから、早々売り切れんだろう。

しかし、最後め。堅実だ。



「諦めな」


何でだよ婆さん!?完璧なプランだろ!人工精霊を家のペットにする!

死なないなら悲しくないし、アレルギーとか無いぞ!


「私も見たが、あれじゃあ坊やが触ると破裂するね」


へ?


「触った奴の魔力を吸収して、それに応じて精霊が孵るみたいだけど、坊やの魔力なんて与えると木っ端みじんさ。それにあの店で売ってるのは質が良くない。高位の冒険者でギリギリ大丈夫といったところさね」


割と十分の様な気はするけど、そうか、俺が触ると無理なのか…。


「エルフの遺物にそんなのはないの?」


「まあ、発想はあったみたいだけど、戦争時のエルフは今よりかなり強い。精霊を作ろうとしたら上等な魔石が必要だし、ある程度素質に左右される。それよりは画一的な物を作った方がいいと判断されたようだね」


ほほう。

だとしたらこのプランは…妊娠中の2人に外部へ魔力を移すのは極力避けたい。他の誰かに頼もう。


「悪いわけじゃないけど、ちと子供と精霊の絆が弱いね」


「む…。なら出産後かあ」


「まあ待ちな。手は無いわけじゃないし、子守の番犬は強い方がいい」


それを早く言ってくれたまえ。あと愛してるよ婆さん。


「気色悪い事言うんじゃないと言ってるだろうに。話を戻すよ。あんたが祈りの国で殺したルベルドを覚えているかい?」


誰?


「ああ、あんたらは"2つ首"と呼んでたね」


ああ、ベルトルド総長とドナート枢機卿がまだ勇者だった頃に、一緒に潜った神殿にいたあの半人半竜か。俺が首をすっぽ抜いた。というかそんな名前だったのね。

そもそもあいつは婆さんの頼みで殺したような…。


「そうそいつさ。その神殿の地下に、あいつを封じるのに使われた魔石がある。1等上等な奴さね。大きさも純度も。もうお役目御免だったんだ。別に使ってもいいだろう」


「つまりそれを使えば…」


「作ってあげるよ。精霊」


今度白石で像を作るよ。


「いらん」


さよけ。


「じゃあ取って来るよ」


「ああ、弄られないように、少し下に埋め込まれてるから慎重にね」


「了解」


一度いった所だ。転移っと。

出来ねえ!?


「当然対策はしてるよ」


しゃあない外れから走って行こう。


懐かしの神殿の下を引っぺがしてっと。


あったあった。

おお…。確かに上等だ。今まで見た中で一番じゃないか?

待ってておくれ子供達!

というか婆さんの部屋に入るのか?



片付いてらあ。悪いね婆さん。


「ほら中央に出しな」


「ほいさ」


どうやらわざわざ書いてくれた魔法陣の中央に、"倉庫"から魔石を取り出して置く。


「少し血を垂らすんだ。それで孵らせて契約する。少しだよ?これでも坊やのじゃあ破裂するかもしれん」


ほんのちょっと、ほんのちょっと。

指を爪で少しだけ傷つけて血を垂らす。


「それじゃあやるよ」


そういうと婆さんは魔法陣を起動させるが…。

なんか魔石ミシミシいってない?大丈夫?


「なんとまあこれでも無理かい。仕方ない分けるよ」


分ける?どういうこと?


「まあ見てな」


そう言うと魔法陣の一部が変化し、透明だった魔石が、青と赤の2つの色に発光し始める。

魔石はどんどん強く光りながら、色ごとに2つに分かれ始めた。


「おお」


次第に色が形作られ始め、赤は次第に出来始めた四肢を地面に付け、胴が長く尻尾と顔が…。犬だ!クリスやったぞ!

青の方は同じく四肢を地面に付けているが、赤より幾分小さい…。こっちは猫か!


「ワフ」


「にゃー」


犬の方は芝犬?っぽく、猫は…猫だ。

完全に俺のイメージに引っ張られて生まれたな…。


「名前を付けてやんな。それで契約完了だ」


うーむ。


「性別はあるの?」


「無いね」


なら決めた。


「犬はポチ。猫はタマだ!」


「ワフ!」


「にゃー!」


「変わった名前だね。故郷風かい?」


「そうとも」


性別がないならまさしくこれしか無い。

凜だって分かってくれるだろう。


「婆さんありがとう」


「これくらいいいよ。クイも始末してくれたしね」


くい?よく分からんがよしとしよう。

クリス、コレット!今帰るからね!



「あら、旦那様。可愛い犬?ですね」


「あなた、これは猫ですか?」


リリアーナとジネットがそう言うのも無理はない。

なにせポチの毛は真っ赤で、タマは青色だ。普通はいない。


「今日から家族の犬のポチと猫のタマです。よろしくね」


ワフ にゃーん


「ふふ。なんだかクリスも喜んでいる気がします」


「いや産まれても無いのに無理だろう…。しかしコレットの方も…」


どうやら喜んでくれている様だ。それを感じ取るとは母は凄いな。


ではポチとタマよ。足を拭こう。部屋飼いだ。


「わん!」


「にゃー」


うむ。行儀がいい。

ポチに顔をべろんべろん舐められているが、可愛いな。

あ、タマは腕に抱き着いた。こう、ひしっと。可愛い。

へっへっへっへっ。


ペット辞典


"忠犬"ポチ

ユーゴの血より生まれた人工精霊。外見は、体毛が赤色ということ以外は特に特徴は無い。

外見はある次元に生息する柴犬という犬種に酷似しており、昼はよく外で日向ぼっこしながら昼寝している。

どうやらリリアーナのお腹にいるクリスに興味があるらしく、リリアーナがソファに座っていると、そっと耳をお腹に寄せたりする。

性格は大人しく穏やかで、よくユーゴの顔を舐めている。


「わん!」

"忠犬"ポチ



"愛猫"タマ

ユーゴの血より生まれた人工精霊。外見は、青色と言うこと以外に特徴は無い。

ごく一般的な猫であり、よくユーゴの肩の上に乗っている。膝は女性陣と取り合いになるので、譲っているらしい。

どうやらジネットのお腹にいるコレットが気になるようで、お腹に耳を寄せたりする。

性格は甘えん坊で、家族との接触を好む。


「にゃあ」

"愛猫"タマ

 

精霊辞典


"炎獄"ポチ

ユーゴの血より生まれた最上位の炎の精霊。纏う炎は"7つ"相当であり、まさに地獄の炎である。

実態は無くなり、炎が形作った狼となる。

恐るべきはその炎で作った眷属を作成できる能力で、彼の号令一つで数百の炎の群狼が仇なす者を貪り食らう。

また、力の全てを完璧にコントロールしており、背後で守る物にその熱を伝えることはなく、必要とあれば乗せる事も可能。


ー寄れば皮膚を灰に 牙が肉を塵にー



"氷獄"タマ

ユーゴの血より生まれた最上位の氷の精霊。纏う氷は"7つ"相当であり、まさに地獄の氷である。

氷で作られた虎の姿となり、下位の竜ですら砕くことは不可能。

恐るべきはその氷で作られた結界で、足を踏み入れた途端に血液まで氷付き憐れな彫刻が出来上がる。

力のすべてを完璧にコントロールしており、背後で守る物がその寒さを感じることはなく、必要とあれば乗せる事も可能。


ー息をするな 呼吸を止めろ 肺が凍り 心臓が止まるー

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