ダークエルフ来る
魔の国
「族長。特殊部隊にいたクラウツが消息を絶った件で色々調べていたが、どうやらジネット様の所に向かっていたらしい」
「なに!?姫様の居場所が分かったのか!?」
ダークエルフのコミュニティは、精鋭でもあった同族の男が消息不明となったため、彼がどのような行動をしていたのかを伝手を使って探ると、予想外な事に情報部がジネットの居場所を知っていることが分かり、慌てて報告していた。
ダークエルフの族長の1人、ベルナールが驚愕した声で叫ぶ。少し皺が出ており、大体のダークエルフが死を迎えるまでほとんど老化が無いことを考えると、相当な高齢だという事が分かる。
彼らが慌てるのには訳があった。ダークエルフに王族はいないが、最も月の女神から愛され加護を受けたとされるジネットは、姫として神聖視されているのだ。そして、そのジネットがしばらく前から行方不明となっており、安否が心配されていた。
「どうやら剣の国のリガの街と言う所にいるらしい」
「なに!?人間種の国に!?」
ダークエルフらしく、彼等も人間種や他の人種を下に見ていたため、ジネットが人間種の街にいる事が信じられなかった。
「待て、そもそもクラウツは何故我々にその事を黙っていたのだ?」
「分からんが情報部の奴が黙って行ったのだ。はっきり言ってよくない事の可能性が高い」
どちらかと言うと、同族よりも情報部に比重を置いていたクラウツが黙ってジネットと接触しようとしていたのだ。2人とも楽観は出来なかった。
「その街に行ったことがある転移出来る者は?」
「いない」
「そうか…。事は一刻を争う。誰かに手を借りよう」
「分かった」
そもそも彼らダークエルフは魔の国を出ること自体が稀なのだ。そして、ジネットの件はかなりデリケートな問題であり、出来れば普段下に見ている他の者の手を借りたくなかった。しかし、彼等にとってジネットの安否の確認は最優先であり、背に腹は代えられなかった。
「人員は?」
「若い物を連れて行くと人間種と諍いを起こすかもしれん。年寄りを何人か連れていく」
「分かった。ではリガの街に行ける者を探してくる」
「頼む」
ジネットが暮らしている街で、同族が諍いを起こすのはマズいと判断しての事だった。
「やはり街の中でお守りした方がよかったのだ」
「言うな…。その事は何度も皆で話し合っただろう」
報告を終えた者が去ると、その場にいた年寄り集の者が苦言を呈するが、ジネットの扱いに関しては何度も話し合いが行われていた。
「大々的に姫様を崇めると、国が姫様を害する可能性があると言う意見にも頷かざるを得んのだ」
「それもそうだが…」
元々ジネットの扱いに関して2つの大きな意見があり、一つはダークエルフの代表として立ってもらう意見。そして、もう一つはあまり彼女の立場が強くなりすぎると、魔の国の国王が彼女を害する可能性があるので、出来るだけの援助を行いながらも、出来れば俗世から離れて安全に暮らしてほしいという意見に分かれていた。
この意見の対立はほぼ拮抗しており、ジネットが元々住んでいた場所が人気のない場所ではあるが、王都の外れでもあるというなんとも微妙な場所と言うのが、あいまいなままの状態であることを表していた。
「ともかく準備をしよう」
「ああ」
今は何よりジネットの安否の確認であった。
◆
リガの街 ダークエルフ達
「ここがリガの街か」
リガの街に行ったことがある魔族の男の転移によって、リガの街にやって来たダークエルフの一行であるが、地方都市と聞いていた割に城壁がそれなりに立派な事もあり、なかなか栄えていると思っていた。
「入るぞ」
「ええ」
氏族の長であるベルナールも自らリガの街にやって来ていた。
「!リガの街にようこそ」
「入らせてもらおう。ところで同族の女性が暮らしていると聞いてな、よければ場所を教えてくれんか?」
ダークエルフが5人も集団で街にやって来たのだ。驚きつつも入口の警備兵は声を掛けると、ダークエルフにしては人間種に対して比較的丁寧な口調で話しかけられた。
「ああ、ジネットさんですか?」
「そ、そうだ!」
「それなら少し街の中心にある大きなお屋敷にいますよ。有名な方ですから、道が分からなくなっても何度か人に聞いたら、間違えることはないと思います」
「感謝する!行くぞ」
やけに切羽詰まったような返事に驚きつつも、ジネットの住居を教える。元々その美しさと珍しさで有名だったのだ、何処に住んでいるかは街のほとんどの者が知っていた。まあ、彼女だけでなく、その屋敷の住人達はなにかと有名であるが。
「我々にすんなりと教えるといことは、姫様に粗雑な扱いをしているわけでは無い様だな」
「ですな。最悪の場合、お救いせねばと思っていましたが…。しかし、それならますます人間種の街にいるのかが分かりません」
ジネットがこの街にいるのは、何者かに囚われているのではないかと危惧していた一行であったが、同族にすんなり場所を教えていることを考えるとどうも違う。
そうなると、何故彼女がわざわざ人間種の街にいるのかが分からなくなった。
「とりあえず訪ねてみよう」
「そうですな」
当然であるが、年齢と経験を重ねたダークエルフである彼等は、かつてリガの街に訪れた魔の国の工作員達ですら凌駕する暗殺の達人である。
すなわち
◆
トントントン
カンカン
ギコギコ
キュイーーーーン
はん?今度は転移で5人やって来たぞ?しかも前来た奴等よりも腕が立つな。あいつら関係で調べに来たか?
最近この街も騒がしいな。伯爵も可哀そうに。
仕方ない風呂場の工事は一旦中止だ。というか最後の音は誰が出した!?ドリルの音だったぞ!?
ブラシ一等を現場責任者として任命する!引き続き工事を監督してくれ!最先任兵なのだ頼むぞ。
カッ!
うむ。
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