間が悪い
リガの街は表向きは平穏であったが、では裏はどうかと言うと、暗闘の真っ只中であった。
最近街に来たものは、とにかくマークされていたし、街の警備兵も表情が硬かった。
リガの街伯爵邸前
「おはようございます」
「おお、店主殿、お久しぶりですな」
朝早くに、王都にも居を構える大店の店主が、数人の供を引き連れて伯爵邸を訪ねていた。
少し背の低いふくよかな男性であったが、伯爵家の御用商人も務めていた。
最近は、王都の方にいたようで、門を守る者達が彼を見るのは久しぶりだった。
「お久しぶりでございます。昨日こちらに戻って来ましてな、伯爵様に是非ご挨拶をと伺って参った次第です」
「それはそれは……。少々お待ちを、今、伯爵様に人を出します。それと申し訳ありませんが、現在警備が強化されておりましてな、一応手荷物を検査させて下さい」
何度も顔を見ているし、会話もしているが万が一という事もある。門番は彼等にも検査を要求した。
「いやいや、どうやらお忙しい様子。また後日お伺いさせて頂きます」
「そうですか。では伯爵様にはご連絡しておきます」
「お願い申し上げます。それでは」
そう時間は取らせないが、今の伯爵邸に人をあまり入れるのはよくないと思い、門番は商人を見送った。
◆
「ん?御用商人が来ていた?」
「はっ。また後日伺うと言っておりました」
「顔を見たか?声は?」
「顔も声もいつも来ている者でした。供の者達もです」
「…一応確認の者を送れ。万が一という事がある。変装だったりな」
「畏まりました」
伯爵は考えすぎかと思ったが念のため店の方に確認を取ることにした。神経質かと思ったが、王都からの者達が青の歌劇を追っているときに、足元がお留守では話にならないと思ったからだ。
◆
「なに!?まだ店主は王都から帰ってないだと!?」
「はっ!店の者達は誰一人知りませんでした!店を任されていた者もです!」
念のため使いをだしたら、誰も店主が帰ってきたことを知らず、これは明らかな青の歌劇の仕業だと判断した伯爵は、外からの面会や立ち入りを禁止し警備をさらに強化することにした。
◆
「なあカエラ…ひょっとして…」
「いやあ、遅かったみたいっすねー」
馬車を飛ばして、騒動に巻き込まれる前に帰るという彼らの計画であったが、警備兵の表情や視線、街中の様子を見るにどうやら間に合わなかったらしいと思う2人であった。
しかも、裏の世界で生きていた彼等だから分かる、隠れた気配や視線を考えるに、凄まじい警戒体制であった。
「坊ちゃん。こいつはちょっと手間ですぜ」
「坊ちゃん言うな!」
連れて来た昔からいる手練れたちも、これからの面倒を考えてか、げんなりとしている。
「会って商品を渡してすぐ帰る!面倒事には首を突っ込まない!安全第一!」
「へーい」
かつて裏の世界でも有数の組織であった者達の方針とは思えなかったが、オリバーは大真面目であった。
「もし、そこの若旦那様。少しよろしいでしょうか?」
「はい、なんでしょうか?」
正面から歩いて来た男に呼び止められて、オリバーは道草食ってる場合じゃないんだと思いながらも応じる。
ひょっとして、警備の者に自分達が裏世界に生きてたことがバレたかと心配しながら。
「その立派な身なりを見るに、ひょっとして伯爵様のお屋敷の方か、他の貴族の方の所にご挨拶に行かれるのではないですか?」
「え、ええ。よくお分かりになりましたね。テイラー伯爵様の所に商品を卸すところでして」
わざわざこんなところで、しかもまさにその通りの質問をされて、やっぱり回し者ではないかと疑うが、それにしたって戦う者の気配ではない。
「ああ、やはり…。というのもですね、どうも伯爵様のお屋敷に賊が入り込みそうになったとかで、お屋敷には誰も入れなくなったみたいでして」
「げっ!?い、いや失礼しました。そ、それはいつの事でしょうか?」
「ああ神様…」 「うっそだろおい、商品どうすんだよ」 「荷物だけ置いてとっとと帰ろうぜ」 「いやあ、商品だけでも厳しいんじゃないか?」
彼らにとって最悪の懸念がもう起こってしまっているらしい。供の者達も絶望の悲鳴を上げる。
「はあ、それがどうも朝での事のようで」
「ああ…。そんな…。」
「ええ…」 「伝言だけ伝えて帰ろう」 「つか滞在費なんて2,3日しかねえぞ」 「ああ神様…」
渦中も渦中のタイミングで来てしまったようで、一行の絶望はさらに深まる。
これでは最悪の場合、商品すら受け取って貰えない可能性がある。
「ご、ご親切にどうもありがとうございます。一応行ってみます…」
「はい、お気を付けて。いらぬお節介を焼きました」
「いやいや、本当にありがたかったです」
男と別れた後、念のために他の者に確認を取る。
「一応聞くけど、裏の人じゃないよな?」
「いやあ、隙しかなかったすよ?」
「ですな」
「ウチなら下っ端でもマシです」
「んだんだ」
どうやら皆も同じ意見の様だ。
「はあ…。行くか…。伯爵邸…」
「うーっす…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます